スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

0
    • -
    • -
    • -
    • by スポンサードリンク

    『この人と結婚するかも』中島たい子

    この人と結婚するかも
    この人と結婚するかも
    中島 たい子 2007/9/10発行 集英社 P.168 ¥1,260
    ★★★★★
    ……何年も英語を習っていて、聞こえてくるのはジャパンだけか。そう思っても力を入れて勉強するわけでもない。だいたい日本語でだってうまくコミュニケーションをとれているのか疑問だ。なんだか色んなことがイヤになってきた。
    「もうみんなやめて、結婚でもしたいな」
     思わず吐いて、それが一番できそうもなくて困っていることを思い出した。……
    〜『この人と結婚するかも』より〜

    大学の学食で、スーパーマーケットで、そして勤め先で……ふとした瞬間「この人と結婚するかも」と、男を見ては勘違いばかりを繰り返し、自分から声をかけることも、付き合う努力をすることもなく、やり過ごしてきた28歳独身、小さな美術館で働く「節子」。

    仕事にもいまひとつ身が入らず、四年間通い続ける英会話もたいして身につかず、このままでは、男を見てもんもんとしているだけの「イタイ独身女」になりかねないとようやく気付き、二度と「この人と結婚するかも」などと思わないようにしようと決意した「節子」に声をかけてきたのは、同じ英会話教室に通うサラリーマンの「ケン」。

    そして、外食が苦手な「節子」が唯一通えるセルフのうどん屋で、偶然一緒になった「ケン」を相手に「この人と結婚するかも」と、性懲りもなくひらめいたものの…『この人と結婚するかも』

    出張料理を頼まれたパーティーで、アクシデントから二時間も遅刻してしまった失恋直後の料理研究家「野島」が、失恋相手も参加するパーティー会場に車で向かう途中、何度も引き返す理由を考えながら車を走らせる…『ケイタリング・ドライブ』

    『この「ドキドキ」って、勘ちがい!?最初は美大の学食でのこと。そして、その後もそれからも。私、この人と結婚…と、思ってしまうのは妄想?
    小さな美術館で働く私。ほんのささいな出会いでも「この人と結婚するかも」と勘違いを続けていたが、ドキドキから醒め、新たな付き合いが始まる。
    男の勘違い「ケイタリング・ドライブ」も収録。恋人のいない女と男の勘違いを描いた2編。』と、いうことで。


    「結婚でも…」という気持ちは、すごく良く分かるし(特に弱ってるときなんて)、だけどそれが一番難しいというのも本当に良く分かる(なんでみんなそんなに普通に結婚できるのかが、ものすごく不思議に思えた時期もあったし…)。

    「この人と結婚するかも」という勘違いも、若い頃なら、誰でも一度や二度はしてそうな…(この歳になってもかもだけど、まあそれはそれで脳天気で幸せなことかな)。

    「節子」さんの外食が苦手な理由がなかなかユニークで…、仕方なく付き合いで行った職場の打ち上げでのイタリアンの店での、みんなの微妙な空気や気の使い方は、なかなかツボに嵌ってしまったし(多分、どこの職場にでもありそうな)。

    外食が苦手なので、自然と料理に凝る「節子」さんが、なかなか見つけられなかった自分にとっての特別な「おいしいもの」という(食べてくれる人がいるという幸せ?)のも、「ドキドキ」のあとにくるものも、何となく今の私には良く分かるかも。

    同時収録の『ケイタリング・ドライブ』は、「男の勘違い」だけど、勘違いさせるこんな女は「いるいる」だし、こちらはなかなかテンポか良くて、笑えるお話。

    ちょっと前、聖子ちゃんの「ビビビ婚」という言葉があったけど、きっとその「思い込み」は、結婚には大事なんじゃないかなと、思える今日この頃。

    0

      『暗黒童話』乙一

      暗黒童話 (集英社文庫)
      暗黒童話 (集英社文庫)
      乙一 2004/5/25文庫化 集英社文庫 P.338 ¥620
      ★★★★
       和弥のことが好きだった。彼の見たすべての光が、私の心に流れこんでくる。人間は一生のうちに、どれだけのものを眼に焼きつけるのだろう。
       犯人を見つけなくてはいけない。そして教えたい。犯人の奪った人生の中に、どれだけ価値のあるものがあったのかということを。

      突然左目を失い、記憶もなくしてしまった高校生の菜深。
      記憶を全く失い、以前の明るく優等生だった菜深とは別人のようになってしまった菜深に、両親やクラスメイト達も戸惑いを隠せず、どこにも居場所がなく「ひとりぼっち」を強く感じ始める菜深。

      祖父のはからいで移植手術を受け、左目を得、外見だけは以前の菜深に戻っても、菜深の孤独感はますます強まるばかりで…。

      そんな菜深の左目に異変が現れ、提供者である若くして事故で亡くなってしまった青年の記憶が鮮やかに映し出されるようになり、菜深は、彼の生い立ちや住んでいた場所、楽しかった記憶や彼の両親の悲惨な事故、彼の経験した全てを知ることに。

      そして彼の左目に刻まれた最後の記憶から、彼が事故で亡くなったのではなく、ある事件の目撃者となったことで犯人に追い詰められたことを知った菜深は、まだ生存しているであろう事件の被害者を救うため、左目の記憶を頼りに、彼の住んでいた町へと一人で乗り込んで行くのだが…。

      『死者の眼球が呼び覚ます悪夢の記憶とは?
      事故で記憶と左目を失ってしまった女子高生の「私」。臓器移植で死者の眼球の提供を受けたのだが、その左目がある映像を再生し始めて……。天才・乙一の初の長編ホラー小説がついに文庫化。』だ、そうで。


      もっとグロい話なのかと思ってたら(いや、充分グロいのかもしれないけど)、意外と「白乙一」に近い感じ。

      物語の中に出てくる童話、『アイのメモリー』のラストが何とも痛ましくて、少女のためを思うカラスの気持ちが切なくて、このお話だけでもちょっとぐっときてしまう。

      臓器提供者の青年、和弥が巻き込まれてしまった事件の犯人も、犯罪そのものも、乙一さんらしくて、想像すると、ものすごく残酷で気持ち悪いけど、どこか物悲しいというか…。

      以前の記憶をなくし、みんなから駄目な子扱いされてしまう菜深の孤独感も、やっぱり乙一さんならでわで、可哀相な中に「可笑し味」があるというか、何というか。
      ひとりぼっちでも、強さがあっていいなと思えてしまうし。

      ラストの方の犯人に迫るシーンは、最後まで気を抜けないし、恐怖感がひしひしと伝わってくるし、終わり方も流石だなと(これが大学を卒業して間もない頃に書かれた、乙一さんの初めての長篇小説というのにも驚いてしまったけど、その才能に改めて惚れ惚れしてしまった)。

      もちろん「あとがき」の面白さもピカ一で…、いやいや乙一さん、生きていてくれて本当に良かったなと。
       
      0

        『風の音が聞こえませんか』小笠原慧

        風の音が聞こえませんか
        風の音が聞こえませんか
        小笠原 慧 2007/8/31発行 角川書店 P.429 ¥1,890
        ★★★★★
         これは、統合失調症が、まだ「精神分裂病」と呼ばれていた頃の物語である。だが、その時代は、それほど遠くない過去のことであり、病名が変わった今も、病と偏見がもたらす苦悩は、終わってはいない。……
         しかし、そんな過酷な状況においても、この病を抱えて、青春を過ごした若者たちがいた。彼らも、愛する人に出会い、葛藤しながら、その時をひたむきに生きたのである――。

        中学までは友達も多く、勉強もできたという杉浦晃(ひかる)。

        高校の途中からひきこもりがちになり、その後アルバイトで入った工場での働きぶりを認められ、正社員として採用されたことがきっかけとなり、統合失調症を発症し、それからは入退院を繰り返し、二年前に退院してからは、通院も薬の服用も止めてしまい、ふたたび、一人暮らしのアパートにひきこもり、手に負えなくなってしまった晃を心配した母親からの相談を受け、晃に診察を勧めるための訪問指導を任されたのは、保健福祉センターの新米ケースワーカー、川村美知。

        母親さえも入ることができなかったという晃のアパートに、半ば強引に入り込むことに成功し、閉め切った窓を開け放ち、部屋を片付け始めた美知のことを、妄想も手伝い最初は敵と見做していた晃。

        けれど晃の無反応にもめげずに頻繁にアパートに足を運び、とりとめのない話をし、ただ部屋を片付けてゆくだけの美知に次第に心を開き始め、自ら病院へ足を向けるまでになった晃は、美知のためにと、社会復帰に向け、以前は頑なに拒んでいた作業所での仕事も休むことなく通うように…。

        忌まわしい過去を持つ美知もまた、晃の側にいることに安らぎを覚え、ケースワーカーとしての枠を超えて接するうちに、晃に特別な感情を抱き始めるのだが…。

        「ハッピーエンド
        なのに、悲しいのは、なぜ?
        統合失調症を患う晃、彼の心を開こうとする保健所の新人ケースワーカー美知。次第に美知は、晃の純粋さに安らぎを見出していくが…。現役精神科医作家の深い眼差しが描く、純愛小説の新世界。優しさに溢れる筆致、美しいラストシーンが胸を打つ、かつて書かれたことのない恋愛小説。」だ、そうで。


        帯の「ハッピーエンド」に思いっ切り????
        そして「美しいラストシーン」にも????

        「なんで?」というか…この物語としての(他の物語なら全然いいんだけど)、この終わり方は、私にはかえってストレスになってしまいそうな…。

        いつかは離れなければならない人と考えて接するようになる、あくまでも冷静な晃と、熱に浮かされてるような、ケースワーカーとしての立場を忘れた積極的な美知との対比が興味深かったし、二人のもどかしいすれ違いや、ライバルの登場なんかは、昔の百恵ちゃんのドラマ「赤いシリーズ」を彷彿させるような展開で(借金返済のために、美知が水商売に足を踏み入れるところも何となく)。

        何より一場面、高校生の頃に見た「愛と青春の旅立ち」の未だにそのシーンが忘れられない、悲しい場面(私には)を思い出させるような出来事が(当時は、そんなことぐらいで人が死ぬとは考えもしなかったから余計にかも…今なら少しは分かる気もするけど)。

        そして美知の過去の忌まわしい出来事が、これまでのそれとはちょっと違ってて何だか生々しいし(こういうケースもあるのかと)、晃の病気のことも、作者が現役の精神科医なだけに、私の身近な人が統合失調症と診断された時のことを思い出させるほどだし(当時は警察にもお世話になったし、この先どうすればいいのか途方に暮れたけど、今は通院して、薬さえ飲んでいれば日常生活に全く支障はないぐらい)、なかなか読み応えはあったような。

        うーん、でもやっぱりラストがちょっと納得いかない。
        これが現実というもので、仕方ないのかもしれないけど…、でも、やっぱり嫌…かな。
        0

          『さよなら、日だまり』平田俊子

          さよなら、日だまり
          さよなら、日だまり
          平田 俊子 2007/7/10発行 集英社 P.153 ¥1,575
          ★★★★★
           ベランダから入る冬の日差しでリビングの床が白く輝いている。それは見飽きることのない光景だった。幸せが日だまりになってこの部屋を守ってくれている。夫と暮らしているとき、わたしはそんなふうに思った。……
           日だまりをわたしはここに置いていく。この先、わたしの前に日だまりは二度と現れないだろう。
          結婚して七年、主婦業の傍らにフリーライターとして小さな仕事をこなす「律子」が、夫との離婚を考え、相談相手として選んでしまったのは、出版社主催のパーティで知り合って以来頻繁に連絡をしてくる、売れない歌人の「ユカリ」。

          初対面で「のんちゃん」と馴れ馴れしく声を掛けられ、それからも尋常ではない接し方をしてくる「ユカリ」を多少疎ましく感じながらも、夫の裏切りに憤りを感じる「律子」は、「ユカリ」に誘われるままに「ユカリ」の知り合いの占い師「須貝」に引き合わされ、これから先どうするべきか、指南を受けることに。

          それからは何かと「律子」の家庭に入り込もうとする「ユカリ」と「須貝」によって、掻き回される「律子」と夫との夫婦関係は脆くも崩れ去り、ついには夫はマンションに帰らなくなってしまい……。

          「愚かな男と悪魔な女。背筋も凍る夫婦の明日
          用意周到な占い師(♂)と、ミステリアスな友達(♀)。浮気性の夫と、占いなんか信じないはずだった「わたし」。4人が仲よくなればなるほど、どこか不安になる―。ある晩をさかいに、それは現実のものとなった。野間新人賞受賞後の最新小説。」だ、そうで。


          親切そうに近寄ってくる人達の裏側に、そんな企みがあったとは…およよな展開で…(もしかして、私が世間知らずなだけで、こういう人達って実際にはよくいるのかも?と思わされてしまった)。

          後半の展開は「ホラーかよ」と思えるほど、夫の豹変振りが恐ろしいし、掌を返すような二人の態度も何ともぞっとする。

          に、しても妻にさえ内緒にしていたことを、よくもまあ出会ってすぐの赤の他人に言ってくれるなぁと、この夫の常識のなさにあきれ返ってしまうし、何でこんなしょうもないおっさんと結婚したのか理解に苦しむ。

          それでも、そんな結婚生活を「日だまり」という「律子」の気持ちも理解不能(そんなにも信用されていない夫婦関係なのに?というか…)。

          冒頭の「ユカリ」の人物描写が、どう考えても15、6歳の少女のようだし、ええ歳こいて「ユカリちゃん」と呼ばせる、その時点で、私ならひいてしまうし、友達になんてなりたくないような…。

          なんとなく気持ち悪い人達の、おどろおどろしいどろどろした物語、という感じだったかな。

          0

            『ハッピーエンドにさよならを』歌野晶午

            ハッピーエンドにさよならを
            ハッピーエンドにさよならを
            歌野 晶午 2007/8/31 角川書店 P.319 ¥1,575
            ★★★★
            ところで、事故死を願う気持ちと、殺意を抱くこと、この二つに違いはあるのだろうか。あるとしたら、自分の手を汚すか汚さないかだけではないのか。
            〜『殺人休暇』より〜

            白血病の姉のドナーとなるためだけに生まれ、両親から愛されず、虐げられて育てられたと嘆く高校生の姪から、改まって相談を持ちかけられた叔母の苦悩…『おねえちゃん』

            パートをいくつも掛け持ちし、家計を支える「妻」。働きもせず、昼間から酒を飲み、妻に暴力を振るう「夫」。東大受験を目指す「息子」。取り壊し寸前のあばら屋で暮らす三人家族に起こった悲劇…『サクラチル』

            時効が成立した殺人事件の被害者である兄へ宛てた、弟からの手紙…『天国の兄に一筆啓上』

            貧しい暮らしの中、女手一つで大切に育てた一人息子の晴れ舞台「夏の甲子園大会」のテレビ中継を中断させた、世間を震撼させる猟奇的殺人事件の犯人に憤りを感じた母親は、犯人への復讐を考え…『消された15番』

            地主である母親の実家の、入ってはいけないといいつけられていた「開かずの間」に無断で侵入し、見つけてしまったのは苦悶に歪む、若い女性の「顔」そのものの「デスマスク」。その面を使って、従姉妹達を驚かすことを考えた「私」の身に起こったのは…『死面』

            他、一人娘のお受験のために、滑稽なほど躍起になる母親に起こる悲劇…『防疫』。

            警察をも巻き込む「イタズラ」を仕掛ける三人の高校生に起こった悲劇…『玉川上死』

            半年付き合って別れたあと、ストーカーのようにつきまとう元彼の異常さに悩むOLに起こった悲劇…『殺人休暇』

            密かに思い続けていた同級生がアパートにやって来た日、大学生の「ミツル」に起こった悲劇…『永遠の契り』

            パチンコに熱中するあまり、子供を死なせてしまうというニュースに憤りを感じる主婦に起こった悲劇…『In the lap of the mother』

            仲間と離れ、一人ひっそりと公園に居を構える孤独なホームレスに起こった悲劇…『尊厳、死』の、アンチ・ハッピーエンドばかりを集めた短編集。

            「望みどおりの結末になることなんて、現実ではめったにないと思いませんか?
            小説の企みに満ちた、アンチ・ハッピーエンド・ストーリー
            前人未到のミステリ四冠を達成した偉才が仕掛ける未曾有の殺意
            事件の裏には多種多様な殺意が存在する――。
            一風変わった殺人の動機に焦点を当てる著者初の短編作品集。」だ、そうで。


            結構どれもこれも、結末に「あっ」と驚かされてしまったところは、さすが歌野さん。

            好きなのは『サクラチル』の異様さと、『消された15番』の母親の怒りの矛先と、『永遠の契り』のタイトルの付け方。

            『玉川上死』と『In the lap of the mother』は、「いじめ」や「児童虐待」といった、タイムリーな問題で…。

            そして『尊厳、死』のラストが一番驚いたかな。

            こういうひねくれた物語、結末……結構好きかも。

            0

              『いっぺんさん』朱川湊人

              いっぺんさん (いっぺんさん)
              いっぺんさん (いっぺんさん)
              朱川 湊人 2007/8/25発行 実業之日本社 P.293 ¥1,680
              ★★★★★
              きっとしーちゃんは、自分の病気が治ることなんて、これっぽっちも望まなかったのだ。家族が幸せになりますように――きっと、しーちゃんの最終的な願いは、白バイ警官でも早く大人になることでもなくて、その一事だったに違いない……
               しーちゃんは優しくって、バカだから。    〜『いっぺんさん』より〜

              三十年前、小学生だった「私」が祖母から教えてもらった、どんな願いでも一度だけなら必ず叶えてくれるという神様「いっぺんさん」。
              当時の「私」の親友、やることなすこと間が抜けたクラスの問題児、お調子者の「しーちゃん」の切実な願いを「いっぺんさん」に叶えてもらうために、遠く離れた村まで山を越え、自転車を走らせた「しーちゃん」と「私」。
              運良く「しーちゃん」の願いは神様に届いたようで、夢が叶えられると喜んだ矢先に「しーちゃん」が病気で倒れてしまい…『いっぺんさん』

              一家の大黒柱である父親が病に臥せり、貧乏な生活を強いられた子供の頃の「私」。
              幼い弟たちのために、どうしてもお金を必要としていた「私」に、仕事の手伝いをしないかと声をかけてくれたのは、近所に住む、戦争で片腕を失った「鳥使い」のおじさん。
              おじさんが仕事用に調教した「ヤマガラ」のなかでも「チュンスケ」は、特に利口で健気で働き者で…『小さなふしぎ』

              会社をリストラされ、彼女とも別れ、手に入れた中古のバイクで日本縦断の気ままなひとり旅に出た三十歳の「俺」。
              空腹を抱えて飛び込んだ小さな食堂で、その食べっぷりを見知らぬ女に見初められ、まるで桃源郷のような「若い女」しかいない村へと導かれるのだが…『逆井水』

              他、『コドモノクニ』、『蛇霊憑き』、『山から来るもの』、『磯幽霊』、『八十八姫』の、「ノスタルジーと恐怖が融和した朱川ワールド8編」から成る短編集。

              『願いは必ず叶う。
              ただし、いっぺんだけなぁ。
              田舎で出会った8つの不思議ストーリー
              「花まんま」の直木賞作家が描く命と友情と小さな奇跡の物語。』だ、そうで。


              表題作の『いっぺんさん』は、もう堪らなく好きな話…。
              今年読んだ作品の中で、どれが一番好きかと聞かれたら、短編だとこれかも(長編だと、吉田さんの『悪人』)。
              とにかく、いっぺん読んでみてくださいとお願いしたくなるほど良い話(だと思う)。

              『コドモノクニ』は、説明しずらかったから書けなかったけど、昔話のタイトルがついた4つのお話からなっていて、それぞれの主人公の子供たちの、子供特有の恐れとか、怯えとか、愚かさとかがすごく良く描かれていて、最後がまた悲し…。

              『小さなふしぎ』も、動物ものに弱いので「チュンスケ」の健気さに涙し…。

              『逆井水』は、どこかで聞いたような話だけど、最後のオチが好きだし、『蛇霊憑き』も、これまた先が読めるけど、その場面を思い描くと怖くて堪らない(楳図かずおの「へび少女」好きとしても、堪らないかも)。

              『山から来るもの』は、救いがないというか、酷な話。

              『磯幽霊』も、怪談話なのかと思いきや、もっと恐ろしい現実の女の執念みたいな話で。

              『八十八姫』は、日本に伝わる忌まわしい風習に憤りを感じたけど、最後に大きな気持ちになれるというか、考え方を変えれば、それはそれで幸せなのかなと(それでも切なくて泣いてしまうんだけど…)。

              読み終わって、装丁の表と裏を見て思わず微笑んでしまったし、いつまでも心の片隅に「しーちゃん」を留めておきたくなるような、落ち込んだときに読み返したら、絶対元気が出ると思えるような、是非小学校の教科書に採用してもらいたいような『いっぺんさん』は、本当に素晴らしく良いお話。

              「いっぺん」だけ叶えてもらえる願いごとなら、できることなら自分のためじゃなく誰かのために使いたいと思える人でありたいなと(思うだけかもしれないけど)。

              0

                『約束』石田衣良

                約束 (角川文庫 い 60-1)
                約束 (角川文庫 い 60-1)
                石田 衣良 2007/6/25文庫化 角川文庫 ¥500 P.240
                ★★★★
                自分の人生だってしっかり生きられないのに、遥かに豊かなはずのヨウジの分までどうやって生きていけばいいのだろう。人はみな平等だというけれど、ほんとうだろうか。それではあの通り魔とヨウジも平等だったのだろうか。カンタには自分とヨウジが同じとは、どうしても思えなかった。倒れていただけの自分が生き残り、自分を守ってヨウジは死んだ。その結果まで平等で、命に同じ価値があるといえるだろうか。それなら、なおさら自分が死んでヨウジが生きればよかった。……        〜『約束』より〜

                スポーツも勉強も何でも出来るクラスの人気者、幼馴染で親友の「ヨウジ」に憧れ、「ヨウジ」になりたいと本気で願っていた「カンタ」。
                ある日いつものように二人で下校する途中、ナイフを持った通り魔に刺されてしまった「ヨウジ」。
                「僕が変わりに死ねば良かった」と考え、自傷行為を繰り返す「カンタ」が、最後の場所に選んだのは、通り魔事件のあった場所。そこで「カンタ」が出会ったのは…『約束』

                事故で片足を失い、我が儘放題になった息子のために全財産を使い果たし、この先生きていても何も良いことがないと考えるサラリーマンの父親。
                今度は街で見かけたポスターに惹かれ、ダイビングを習いたいと言い出した息子の為に奔走し…『青いエグジット』

                不倫旅行先の事故で夫を失い、女手一つで幼い二人の子供たちを育てる母親。
                突然息子の耳が聞こえなくなり病院に連れて行くと、心療内科を紹介され「心の問題」と診断され…『天国のベル』

                小学生と勝負をしても負けてしまう、モトクロスを始めたばかりの高校生ライダー。
                いつものように河川敷で練習を続けていると、散歩途中の女性から「へたっぴ」と言われてしまい…『冬のライダー』。

                寒い冬の公園のベンチで日がな一日を過ごす、当たり前のように学校生活を送ることに疑問を感じ、不登校になってしまった少年。
                ひょんなことから、毎日側を通る廃品回収のおじさんの仕事を手伝うことになり…『夕日へ続く道』

                地元の人間以外は知られていないような人気のない岩場で、孤独な一本桜「ソメイヨシノ」を撮り続けるカメラマンに声を掛けたのは、夫を病で亡くしてから、前に進めずにいるという女…『ひとり桜』

                人並み以上の幸せな暮らしを実感していた主婦を襲った突然の悲劇。
                サッカーが大好きで、健康そのものだった小学四年生の一人息子が出かけ先で倒れてしまい、救急車で運ばれた病院での検査の結果、脳に腫瘍があると医師から告げられ…『ハートストーン』

                「かけがえのないものを失くしても、いつか人生に帰るときがくる。
                苦しみから立ちあがり、もういちど人生を歩きだす人々の姿を鮮やかに切り取った短編集。たくさん泣いたあとは、あなたの心にも、明日を生きるちいさな勇気が戻っているはず。」ということで。


                「I・W・G・P」シリーズ以外の石田さんのを久々に読んだけど(アンソロジー以外で)、しょっぱなの『約束』から、すっかりやられてしまった…。

                朝の通勤電車で読み始めて、小さな「カンタ」の苦悩ぶりに、涙が溢れて困ってしまったし。
                そしてラストの『ハートストーン』の祖父の「祈り」に、またしても帰りの車中で涙、涙…。

                あまりの人の優しさというのに、かなり弱い私には、この短編集はなかなかツボに嵌ってしまったかも。

                主人公と同い年の私には『ひとり桜』の、その歳まで一人で生きてきた男に訪れた運命というか、そういうのもすごく嬉しくなってしまったし、ラストがとても好き。

                この本を読んで流したのは多分温かい涙で、「あとがき」を読んで、石田さんがこの本を書かれた理由に、また心が温かくなったというか、「物語」に出来る仕事というのは偉大だなぁと改めて感心してしまった。

                人の心を自由自在に動かせることが出来るというか、何というか(ただ単に私が単純すぎるのかもしれないけど)…。

                まあ、だから本が好きで、こうして本ばっかり読んでるのかもしれないけど。
                0

                  『映画篇』金城一紀

                  映画篇
                  映画篇
                  金城 一紀 2007/7/30 集英社 P.363 ¥1,470
                  ★★★★★
                  でも、何よりも大切なことを話そうとすると、いつだって言葉は僕の口をすり抜け、音にならないままどこかに消えてしまう。僕はいつでも拙い話し方のせいで大切な言葉がうまく伝わらずに、にせものの響きが宿ってしまうのを恐れた。そんな臆病な僕が、一度だって龍一を救えたはずはなかった。誰よりも身近で、誰よりも最初に救わなくてはいけない存在だったはずなのに。             〜『太陽がいっぱい』より〜

                  デビュー小説が映画化されることになり、撮影現場を訪れた原作者の「僕」は、そこで撮影スタッフとして働く、懐かしい同級生と再会することに。
                  特別に親しい間柄ではなかったその女性に、一番聞きたかったこと「龍一はどうしてる」の言葉を言えずにいた「僕」。
                  そんな「僕」に彼女がぜひとも渡したいというのは、かつて「龍一」にやったはずの「ブルース・リー」のブロマイド。
                  奇妙な縁で繋がった中学生の頃、一緒に映画を見倒し、夜が更けるまで川辺で感想を熱く語り合った「龍一」との過去と、疎遠になってしまった、それからと…『太陽がいっぱい』

                  理由も分からず夫が自殺した後、マンションの一室に引き篭もり電話線も抜いたままにしていた「わたし」が、心配のあまり手紙を寄越した母親に促され電話線を繋ぐとすぐにかかってきたのは、ずっと掛け続けていたという、レンタルビデオ店からの督促の電話。
                  夫が自殺したその日に借りてきたビデオを返却するために数ヶ月ぶりに外に出た「わたし」に、アルバイトの店員が渡してくれたのは、彼のお薦めだというコメディ映画。
                  その日から、「わたし」はビデオ店に通うようになり…『ドラゴン怒りの鉄拳』

                  初めて会話を交わした日を境に学校に来なくなった、「席が隣なだけ」だったはずのクラスメイトから突然映画に誘われた「ぼく」。
                  その日は彼女の誕生日だと打ち明けられ、そして彼女の父親から大金を強奪するという計画を打ち明けられた「ぼく」は、「ぼく」自身のために彼女の計画に乗ることに…『恋のためらい/フランキーとジョニーもしくは トゥルー・ロマンス』

                  夏休みの自由研究用の映画を借りに出かけたレンタルビデオ店の前で、クラスのいじめっ子たちに取り囲まれた小学生の「ぼく」を救ってくれたのは、全身黒ずくめの女ライダー。
                  映画の主人公のような女性を想像した「ぼく」の前でヘルメットの中から現れたのは、真ん丸えびす顔でパンチパーマの、中年のおばちゃんライダー…『ペイルライダー』

                  60年連れ添った連れ合いに先立たれた後、息子にも先に逝かれてしまい、すっかり「だいじょうぶオーラ」を失くしてしまった「ぼく」たち五人の孫の大切なおばあちゃん。
                  おじいちゃんの一周忌の法要に集まった「ぼく」たち五人は、「ぼく」たちの避難場所的隠れ家でもあるおばあちゃんの家の存続を守るために、おばあちゃんに元気を取り戻してもらおうと、おばあちゃんとおじいちゃんの楽しかった思い出を蘇らせるという計画を立てるのだが…『愛の泉』

                  「友情、正義、ロマンス、復讐、
                   そして、
                  笑いと感動――。
                  五つの物語の力が、あなたを救う。現実よ、物語の力にひれ伏せ。
                   金城一紀の最高傑作
                   今すぐ映画が見たくなる。今すぐ誰かに読ませたくなる。笑いと涙と感動が詰まった完全無欠のエンターテイメント!」だ、そうで。


                  8月31日に区民会館大ホールで上映される、入場無料の『ローマの休日』というのが物語のキーワードというか、それを軸にそれぞれの物語がうまく繋がっていて、最後に「あ〜、そういうことか…」と。
                  そしてまた、最後の最後のオチがなんとも良くて…。

                  金城さんとは同年代だから、ここに出てくる映画の多くは「懐かしい〜」と思わず声に出してしまうほど懐かしくて、忘れてた記憶も蘇ってきて、ついでにその頃の感傷に耽ったりなんかして、読むのにものすごく時間がかかってしまった。

                  初めて見た映画とか、初めてデートで行った映画とか、大好きだった映画とか、大好きだった俳優さん(特に、スティーブ・マックィーンとか、リバー・フェニックス!)とか、とにかくいろんな「映画」に纏わるあらゆることどもが頭をぐるぐる巡って、脳みそがパンクしそうなくらいに、一気に色んなこと思い出せたというか(最近記憶力が乏しくなってるなぁと実感していたので、余計に嬉しくなってしまって…)。

                  お話の方は、最初の『太陽がいっぱい』(アラン・ドロンと言えば当時の男前の代名詞みたいなもんだったなぁと…)の友情物語は、金城さん自身の話なのかな?と思える話で、良い意味で裏切られたし、『ドラゴン怒りの鉄拳』(子供の頃、自家製ヌンチャク作って振りまわしてたなぁと…)の10代の頃のような恋愛の始まりもちょっと可愛くて良かったし。

                  『恋のためらい/フランキーとジョニーもしくは トゥルー・ロマンス』と『ペイルライダー』(大好きなクリント・イーストウッドが、うちの父親と同い年と知って愕然としたなぁとか…)は、話の途中から意外と重い話になって愕然としてしまった。

                  そして何といってもラストの『愛の泉』のおばあちゃんとおじいちゃんのエピソードがすごーーーーく好き。
                  おばあちゃん思いの孫達も良いし、孫からこんだけ慕われるおばあちゃんのキャラも良いし、60年連れ添っても、おじいちゃんを好きでい続けるおばあちゃんが本当に可愛くて、私もこうありたいと心から思ってしまった。

                  「アホアホパワー」のケン坊はじめ、五人の孫のキャラも良いし。

                  そして『ローマの休日』、これはもう何十回と見ても全く飽きないし、面白いし、オードリ・ヘップバーンは可愛いし綺麗だし、グレゴリー・ペック(うちの母親の理想の男性だったそうで…)は渋いし、男前だし…こんなに美しくて切ない映画は後にも先にも見たことないかも。

                  アン王女の記者会見での「ローマ」の言葉…ここでは拍手喝さいだったけど、私はいつもここで涙がどっと出てしまったりするし…。
                  思い出しても、やっぱりものすごく切ない……本当に切ない…。

                  唯一、どのお話の中でもクソみそに言われていたくだらないフランス映画、てっきり『エマニエル夫人』かと思ったら、そうではないみたいだし、うーん、それもとても気になる…。
                  0

                    1

                    calendar

                    S M T W T F S
                          1
                    2345678
                    9101112131415
                    16171819202122
                    23242526272829
                    30      
                    << September 2007 >>

                    読書メーター

                    uririnの最近読んだ本 uririnの今読んでる本

                    新刊チェック

                    selected entries

                    categories

                    archives

                    recent comment

                    • 『夏空に、きみと見た夢』飯田雪子
                      uririn
                    • 『痺れる』沼田まほかる
                      uririn
                    • 『絶望ノート』歌野晶午
                      uririn
                    • 『夏空に、きみと見た夢』飯田雪子
                      いちれん
                    • 『痺れる』沼田まほかる
                      くり
                    • 『絶望ノート』歌野晶午
                      智広
                    • 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』辻村深月
                      uririn
                    • 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』辻村深月
                      苗坊
                    • 『永遠の0』百田尚樹
                      uririn
                    • 『永遠の0』百田尚樹
                      苗坊

                    recent trackback

                    recommend

                    recommend

                    recommend

                    recommend

                    recommend

                    recommend

                    悪人
                    悪人 (JUGEMレビュー »)
                    吉田 修一
                    読み終わった後も余韻に浸りたくなるような…これは、すごい。

                    recommend

                    しずく
                    しずく (JUGEMレビュー »)
                    西 加奈子
                    サイン本買っちゃった。

                    recommend

                    recommend

                    たぶん最後の御挨拶
                    たぶん最後の御挨拶 (JUGEMレビュー »)
                    東野 圭吾
                    猫なんです…。

                    recommend

                    recommend

                    recommend

                    ねこの肉球 完全版
                    ねこの肉球 完全版 (JUGEMレビュー »)
                    荒川 千尋,板東 寛司
                    たまらん。

                    recommend

                    ニャ夢ウェイ
                    ニャ夢ウェイ (JUGEMレビュー »)
                    松尾 スズキ, 河井 克夫
                    たまらん…

                    recommend

                    recommend

                    僕たちの戦争
                    僕たちの戦争 (JUGEMレビュー »)
                    荻原 浩
                    とにかくお薦め。

                    recommend

                    出口のない海
                    出口のない海 (JUGEMレビュー »)
                    横山 秀夫
                    たくさんの人に読んでほしい…

                    links

                    profile

                    search this site.

                    others

                    mobile

                    qrcode

                    powered

                    みんなのブログポータル JUGEM

                    使用素材のHP

                    Night on the Planet フリー素材*ヒバナ *  *

                    PR