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    『底なし沼』新堂冬樹

    底なし沼
    底なし沼
    新堂 冬樹 2006年 新潮社 P.485
    ★★★★★
    どんな理由があろうと、死を選ぶのは負け犬だ。
    死んだら、残るのは喉仏と灰だけだ。
    蔵王は、誰かに裏切られ死を選ぶぐらいならば、誰かを嵌め、死に追い込む道を選択したかった。

    優しすぎだがために、情けをかけた債務者たちに裏切られ、果ては自ら死を選んだ父親を反面教師にして育ち、世の中の「債務者」たちを地獄に叩き落すことを心に誓った蔵王金光。

    父親の死後、荒みきっていた蔵王は、闇金業界の黒幕的存在であるヤクザの組員、市之瀬に拾われ、金貸しのノウハウを叩き込まれ、メキメキと頭角を表し、今では同業者からも畏れられる存在に。

    「債権回収機構」を立ち上げ、独立した蔵王のシノギは、サラ金業者から債権を買い取り、完済しているはずの借金をさらに払わせる「二重取り」。

    相手が老人であろうと、障害者であろうと、死体であろうと、その取り立ては容赦なく、驚異の回収率を誇る泣く子も黙る(黙ったあとにもう一度泣くという)「取り立て屋の帝王」蔵王にたてつき、怒りを買うことになるのは、部下の借金の保証人となったことから一度は地獄に突き落とされたものの、借金を完済し、地獄からの生還を果たし、再び冨を成した結婚相談所の社長、日野。

    蔵王の女が働くキャバクラで、客として来ていた日野に一方的に恥をかかされた蔵王は、日野の過去を調べ上げ、日野から一億を毟り取ることを画策するのだが…。

    「借金で借金を返す這い上がれない無間地獄。返せないのに、なぜ借りる!
    真の闇金をえぐる極悪金融小説、迫力のノンストップ・パワープレイ!」だ、そうな。


    そう言えば何年か前に、初めて『ミナミの帝王』と出会ったのも、こんな年の瀬だったなぁと、しみじみ。
    蔵王のキャラは、萬田銀次郎とは、似ても似つかないけど、父親のこととか、取り立ての「エグさ」は少しかぶるかも。

    完済してる借金の取り立てなんて出来るのか?と、疑問に思ったけど、なるほどこんな仕組みがあったのかと…闇金ならでわの恐ろしさに震え上がってしまった。

    日野が経営する結婚相談所のシステムは、なかなか良くできていて(もしかして、どこもそうなのかな)。
    金儲けする人間は、こういうこと考えてるのかと、ものすごく勉強になったというか、世の中が信じられなくなったというか。

    なので、日野と蔵王の頭脳戦(?)のあたりまでは、結構面白かったけど、後半に進むにつれ、事が大きくなってからは、新たな登場人物が次から次へと現れて、これ誰よ?と、整理しきれなくなってしまった。

    そして、ラストの展開には、ただただ唖然、呆然。
    「んな、あほな」としか…。
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      『最後の恋』阿川佐和子、他

      最後の恋
      最後の恋
      阿川 佐和子,角田 光代 2005年 新潮社 P.278
      ★★★★
       最後の恋。これで最後。それは、ラスト、という意味じゃなくて、ベスト、という意味なんだ。今、好きなひと。今、好きになったひと。そのひとのことが、今まででいちばん好き。そういう意味なんだ。だったらあたし、これが「最後の恋」でいい。
      〜『LAST LOVE』より〜

      三浦しをん、谷村志穂、阿川佐和子、沢村凛、柴田よしき、松尾由美、乃南アサ、角田光代、8人の人気女性作家による「最後の恋」をテーマにした、ちょっと大人で豪華なアンソロジー。

      老若男女問わず、誰からもモテモテの、かっこよくてスタイルも良くて、そのうえ性格も温厚な、非の打ち所のない「春太」と、「春太」が身も心もひとすじに愛する麻子との物語…『春太の毎日』三浦しをん

      年に一度だけ戻ってくる、世界中を飛び回る恋人に会うため、北海道から東京の自宅へと急ぐ、瑞江の恋物語…『ヒトリシズカ』谷村志穂

      父親から譲り受けた田舎町の海辺の食堂を切り盛りする二人きりの姉妹の物語。
      性格が正反対な妹の行く末を案じる姉は、病に臥せった妹の見舞いに次々やってくる男たちに唖然とし…『海辺食堂の姉妹』阿川佐和子

      たったひとつの取り柄が「スケジューリング」だと自覚する天音妙は、毎年決まって友人達と過ごす22歳の誕生日に、自分の今後の人生をスケジュールすることを決心し、計画通りに恋愛相手を見つけ…『スケジュール』沢村凛

      5年の付き合いを、メール一本で終わらせた男の「最後の恋」の行方を知るために3年の後、再び会うことにしたキャリア・ウーマン真由美の物語…『LAST LOVE』柴田よしき

      大学の文芸部で編集長を押し付けられた「わたし」が、来月号の締め切り前に部室で見つけた作者不明の原稿。決して振り向いてもらえない相手を思う、悲しい恋の物語を書いたのは、8人いる部員のうちの誰なのか?…『わたしは鏡』松尾由美

      思い詰めるほどの恋をしていた15歳の少女の頃に、神様に誓ったばっかりにそれが最後の恋になってしまったと、仕事帰りに立ち寄るバーのマスターに話す、バツ一の「孤独な私」に訪れる「最後の恋」の物語…『キープ』乃南アサ

      誰にも話したことのない過去の話を、荷造り中の妻に話すことにした男。貧乏学生だった頃、一つ上の綺麗な女性をデートに誘いたいがために、アパートの隣人から勧められた高額なバイトをすることにした男がそこで出会った、一人の老婆との不思議な物語…『おかえりなさい』角田光代

      『こんなに誰かを好きになるのは、この恋で最後かもしれない。
      どんな結果に終わろうと、永遠に輝きを失わない恋がある。“最後の恋”をテーマに、人気女性作家が個性と情熱で磨き上げた、宝石のような8つの物語。
      ホームページ「YEBISU BAR」「Yahoo!Books」で話題を呼んだ、大人のための上質な恋愛アンソロジー、登場』だ、そうな。


      去年までなら絶対に読まなかったと思う、この手の恋愛小説ものを読む気になったのが、今年一番の進歩だったかも。

      特に印象に残って、ラストに感動したのは、柴田よしきさんの『LAST LOVE』。
      メール一本で恋愛を終わらせる男なんかが「最後の恋」の相手でなくて良かったねと(心痛む思い出があるもので)心から、そう思う。

      初めて読む阿川佐和子さんの『海辺食堂の姉妹』は、なんとなく異国情緒漂うような、おとぎ話のような可愛いらしいお話だなぁと…、これもなかなか好きなお話。

      三浦しをんさんの『春太の毎日』は、モテモテの「春太」がどんなに嫌みな奴なのかと思ったら、そりゃ誰にでも愛されるよな、この男なら…と。
      これもなかなか心温まるお話で。

      谷村志穂さんの『ヒトリシズカ』と、松尾由美さんの『わたしは鏡』は、ラストに驚かされてしまった(全然種類の違う驚きだけど)。

      そして意外にも、これまで、あんまり好きでなかった乃南アサさんの『キープ』の主人公には、一番共感してしまったかも。

      神様に「これが最後の恋にしてください」と願うのも、過去何十回そんな言葉を日記に書き綴ったことか…(しかもわざわざ出雲大社に行ってまで、そんなことをのたまわってしまったから、願いが聞き入れられてしまったのか…、解除とかしてもらえないかな)。

      「私は誰も愛していない。
       私には思い浮かべる人がいない。
       私は誰も好きじゃない。」

      私も、ふとそう考えて「空っぽ」な自分に気づいて愕然とすることが、最近よくある。
      一人でいるのは好きだけど、「好きな人」が全くいないというのは、淋しすぎるかも。

      いろいろ心配事が多かったこの三年の「大殺界」をようやく抜けられそうなので、来年は本ばかり読んでないで「最後の恋」の相手を見つけに走ろうと、密かに誓いを立ててたりなんかして。

      『LAST LOVE』の「最後の恋」の相手みたいな人が現れればいいけど…(要するに動物に優しい人ってことかな)。

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        『不思議の国のペニス』羽田圭介

        不思議の国のペニス
        不思議の国のペニス
        羽田 圭介 2006年 河出書房新社 P.154
        ★★★★★
        こんなデートの王道みたいな行動、恥ずかしいじゃん。南達だけでなく、おれ達もこんなことしてていいのか? 映画見て、ハーゲンダッツでアイス食べて、歩きながら服でも物色して、プリクラ撮って、飲み屋にでも行って、その頃には暗くなっているから、その後は……。今日は道具を持ってきてはいないのだ、つまり……。

        放課後は部活にも行かずフラフラし、童貞のクラスメイトたちと、駅前のマクドナルドの一角を占領しては、周囲を憚ることなく下ネタで盛り上がる、附属の男子校に通う、高校一年生の「オレ」こと遠藤。

        そんな他愛もない学生生活を送る遠藤は、童貞の友人達を尻目に、月に数回、ホテルで行うナオミとの「SS」プレイのために、オタクでにぎわう「A」街において唯一風格の漂う、通称「エロタワー」にせっせと通い、アダルトグッズを買い漁る、自称「エロセレブ」。

        女子高の文化祭で逆ナンされ、成り行きでラブホテルに入ってしまい、偶然の思いつきから始まった、二つ年上のナオミとの「SM」ならぬ「SS」の関係を、何とか先に進めたい遠藤には、実は人には言えない、深刻な悩みがある。

        ある日、遠藤が「変態ロリコン男」と密かに蔑む幼馴染、南のデートを、ナオミと尾行することになり、その日からナオミとの関係に変化が訪れるのだが…。

        「“エロ”から始まり、“ラブ”に落ちた ぼくとナオミの恋の行方
        逆送する恋愛小説の傑作 共同通信、『群像』創作合評他、各紙誌絶賛!
        『黒冷水』の著者が贈る文藝賞受賞第一作」だ、そうで。


        まあ、おぼっちゃまな男子校に通う童貞君たちなら、こんな感じなのかな。

        「SS」の関係って…、もっとハードなのを期待していたのに(うそです)、「は?なんじゃこの生ぬるさは…」と、拍子抜けしてしまった。
        小学生のケンカみたいだし(ハードな兄弟喧嘩の前作、『黒冷水』も、そう言えば「SS」と言えなくもないか)。

        男子校に通う、妄想だらけの男の子たちの下ネタは、おやじギャグに匹敵するほどで(「性器大将軍」に「坂上田村摩羅」などなど、勉強してる子ならではなのか…)。

        「包茎」について、そんなに熱く語られても、女の私にはイマいちピンと来ないけど、同年代の男の子なら、激しく共感できるのかも(もしかして、同年代以上でもかもだけど)。

        馬鹿馬鹿しいところは、結構面白く読めたけど、女の子側の「ナオミ」の気持ちが、解らなさすぎたのが、どうも…(若い子なら、理解できるのかな?)。

        借りるときは躊躇するようなタイトルで…でも、読み終わってから、タイトルの意味を考えると、なかなか絶妙かもと思えてしまった。
        これって昔の映画『パンツの穴』みたいな感じかな。

        そう考えれば、男の子の「性」の悩みは、何十年経っても変わらないのねと、何だか哀れに思えてしまった。
        みんな頑張って大人になってね、と言うしかないかな。
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          『累犯障害者−獄の中の不条理−』山本譲司

          • 著:山本 譲司
          • 出版社:新潮社
          • 定価:1470円(税込み)
          累犯障害者
          livedoor BOOKSで購入
          書評データ
          ★★★★
          「山本さん、俺たち障害者はね、生まれたときから罰を受けているようなもんなんだよ。だから罰を受ける場所は、どこだっていいんだ。どうせ帰る場所もないし……。また刑務所の中で過ごしたっていいや」

          議員時代、政策秘書給与の流用事件で実刑判決を受け服役していた著者が、433日間に及ぶ獄中生活の懲役作業で関わることになったのは、福祉のネットワークから零れ落ち、司法という網に引っかかることによって、ようやく生き長らえてきた「触法障害者」と呼ばれる、罪を犯した障害者たち。

          「これまで生きてきたなかで、ここが一番暮らしやすかった…」とつぶやき、服役後の再犯をほのめかすかのような受刑者の言葉に衝撃を受けたという著者は、国会の中では見えなかった「福祉の現状」を、刑務所の中で目の当たりにすることになり、出所後、彼らのように受刑者に成り果ててしまった障害者たちに焦点をあて、それぞれの事件の現場を訪ね歩く…。

          序 章 安住の地は刑務所だった――下関駅放火事件
          第一章 レッサーパンダ帽の男――浅草・女子短大生刺殺事件
          第二章 障害者を食い物にする人々――宇都宮・誤認逮捕事件
          第三章 生きがいはセックス――売春する知的障害女性たち
          第四章 閉鎖社会の犯罪――浜松・ろうあ者不倫殺人事件
          第五章 ろうあ者暴力団――「仲間」を狙いうちする障害者たち
          終 章 行き着く先はどこに――福祉・刑務所・裁判所の問題点

          そして「あとがき」へと続く、犯罪者となってしまった障害者たちを取り巻く環境や、事件に至った経緯など、驚くべき事実をあぶり出す事で「現代の日本の福祉の実態」、ひいては「日本の闇の部分」に鋭くメスを入れる、衝撃のノンフィクション。

          「罪を犯さねば、生きられない――。
          マスコミが絶対に報じない驚愕の現実。現代日本の「究極の不条理」を描く問題作。」だ、そうです。


          確かに、どれも一度は聞いたような事件ばかりだけど、その後のことは全く知らないような。
          判決が出るまでは、そういうもんなんだと思ってたから、敢えて障害者の起こした事件について、マスコミがタブー視していたとは…知らなかった。

          「日本のマスコミは、努力する障害者については、美談として頻繁に取り上げる。……だが一方で、健常者と同じように、問題行動を起こす障害者もいる。」というのも、言われてみて初めて気がついたと言うか、私の頭の中では、「障害者=罪を犯さない人たち」みたいなイメージが勝手に出来上がっていたのは、そういうことだったのかな。

          そのイメージの方が、もしかしたら差別してることになるのかなと、思わなくもない(健常者に罪を犯す人と、被害者になる人がいるのと同じように、障害者にも、それは同じようにあって当然なんだと…そもそも、なんかこの「健常者」とか「障害者」という言葉自体、しっくり来ないと言うか、変な言葉だなと思うんだけど)。

          裁判になっても、自分を守る言葉が相手に上手く伝えられなくて(知的障害者のケースや、手話の通訳を介さなければならないような、ろうあ者のケースなど)、心証を悪くしてしまうというのは、国として、どうにかならないもんなのかと、気の毒に思えてしまう…。

          「刑務所は、行き場を失った障害者たちを保護する施設」…と言うのは、障害者のみならず、高齢者にとっても同じことが言えるような(最近テレビで、そういうお年寄りを取り上げていた番組を見た記憶が…)。

          福祉のネットワークからもれてしまい、生活に苦しむ障害者たちがいる一方で、福祉の枠の中で、恋愛さえも取り上げられ、「いまのあたしって本当に人間なの?」と呟く女性がいるというのも、考えさせられる話で…。

          「クレーム覚悟でこの本を書いた」という、元国会議員の著者の、福祉に対する意気込みと言うか、憤りみたいなのがすごく伝わってきて、これからの活動も頑張って欲しいなと思うけど、じゃあ私に何が出来るのかと言うと、こういった本を読むことで「福祉の実態を知った気になる」ことぐらいしかないのが、申し訳ないような気がしてしまった。
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            『月光』誉田哲也

            月光
            月光
            誉田 哲也 2006年 徳間書店 P.332
            ★★★★★
             世の中には、知らない方がいいことだってある。このことは、まさにそれだと思う。知ったって、誰も幸せにはなれない。だから、あたし一人の胸にしまっておく。
             それで、いいよね、お姉ちゃん――。

            半年前に事故死した姉の死に、一人疑問を抱き、両親の反対を押し切ってまで、姉と同じ都立の進学校に入学した妹の結花。

            入学後、姉と同じ写真部に入部し、姉の遺した写真にたびたび写っていた人物から、事故を起こした後、退学処分を受けていた生徒の名前を聞き出すことに成功し、今は更生して真面目に働いているという姉の同級生だった男に会うため、現在の居所を懸命に探そうとする結花。

            コンクールで何度も入賞するほどのピアノの腕前を持つ結花は、大好きだった姉の死以来弾けなくなってしまったピアノをもう一度弾くために、そして姉の死から立ち直れずにいる両親のためにも、不可解な姉の死の真実を知りたいと願うのだが、果たして、全てを知ってしまったとき…。

            「夜の学園にピアノ・ソナタ第14番が流れたとき、罪は生まれた! 姉の死の真相を知るため、同じ都立高校に進んだ結花。だがそこには、覗いてはならない姉のおぞましい秘密が-。学園の闇、罪と罰を描く書下ろし長篇。」 だ、そう。


            何ともえげつない話で…。

            聖人君子のような姉、涼子の行動もいまいち理解し難いけど、やっぱり涼子に関わる人達のしたことは、もっと理解不能。

            でも実際、こんな鬼畜のような捩れた人達はいるんだろうな…。
            綺麗に仕上げようとしても、その過程を思えば、ただのエロおやじだし、大の大人が何をしておるのか…と、グーで殴りたくなる。

            結花と、二人の人物、それぞれの視点から話が進むけど、序章に出てくる人物、そこだけ読むと、全く更生してないし、むしろ前より酷いし(というのが、現実なのかもしれないけど)。

            姉の涼子は、学校では人気者だったのに、そんな辛い目に遭ってるときに相談できる友達とかいなかったのかな…と、それとも高校生だから、そんなこと誰にも言えないのか…。

            に、しても、結構痛ましい事件なのに、登場人物の誰一人として、同情も共感も、何の感情移入もできなかったというのも珍しくて、そこが面白いといえば、面白かったのかも。

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              『きつねのはなし』森見登美彦

              • 著:森見 登美彦
              • 出版社:新潮社
              • 定価:1470円(税込み)
              きつねのはなし
              livedoor BOOKSで購入
              書評データ
              ★★★★★
              町が夕闇に沈みだすと、横に伸びた路地は神秘的に見えた。懐かしいようでもあり、不気味なようでもある。その奥へ入って行くと、そのまま迷って出られなくなるような気がした。枝分かれした路地の奥で何かが私を待ちうけているように思われた。雨が降り始める前は、ことさらそんな気配が漂う。〜『魔』より〜

              京都の一乗寺にある、小さな古道具屋、古くて面白いものであれば何でも扱う「芳蓮堂」。
              頼りなげな女主人が一人で切り盛りしている「芳蓮堂」で、バイトをすることになった大学生の「私」が、お得意様である風変わりな客との取り引きに応じて、差し出してしまった大切なもの…『きつねのはなし』

              大学生の頃、「先輩」が住んでいた一乗寺の古いアパートに入り浸り、飲めない酒を飲みながら「先輩」の話してくれる様々な話に耳を傾けるのがとても好きだった「私」。
              そんな「私」の前から姿を消し、もう二度と会うことのない「先輩」との思い出の日々…『果実の中の龍』

              家庭教師の教え子の自宅、御所の東側の入り組んだ狭い路地界隈で、近ごろ次々と人が襲われる事件が起きていると聞かされた「私」。
              ふと覗いた近所の煙草屋の店先で「私」の顔を見て何故か奥へ逃げ込んだ老婆は、夜な夜な人を襲っているものの正体は、人間ではないと話しているらしく…『魔』

              鹿ヶ谷にある屋敷に一人で暮らしていた祖父が亡くなり、その通夜に起きた不思議な出来事。
              深夜、寝ずの番を務める「私」と伯父たちの前に現れた「芳蓮堂」の女主人が、祖父から預かっていたものは…『水神』
              の、4編から成る、微妙な繋がり方の連作集。

              「熱狂的支持を得た、『太陽の塔』から三年、京の骨董店を舞台に現代の「百物語」の幕が開く。
              端整な筆致で紡ぐ、妖しくも美しい幻燈に彩られた奇譚集。」だ、そうで。


              これまた京都独特の古めかしさと、怪しさが醸し出す、不思議な感覚に陥る話で…。
              現代の話、なのに(数年前の出来事だとしても)何故か懐かしい匂いがするような。

              つい最近、京都新聞に掲載されていた森見さんのインタビュー記事を読んだばかりなので、本当に京都にとりつかれちゃった人なんだなぁと思ってたけど(写真で見る限りは、かなりの男前…)、それだけに、出てくる場所が、なかなか地味な京都の路地だったりするのでちょっと嬉しかったりして。

              読んでいて、子どもの頃に怖がっていたものを次々と思い出してしまった(今見れば何でもないようなもの、何故か家に飾ってあった能面とか、おばあちゃんの部屋の床の間の掛け軸とか、何となく不気味なもの)。

              そういう類の「怖さ」がひしひしと…。

              『魔』を読んで「逢魔が刻」の言葉が真っ先に頭に浮かんだので、意味を調べてみたら何だかすごく、この本にしっくりきたような。

              黄昏時は、沈んでいく太陽を背にして、その人が誰であるか分からない状態、誰彼(たそがれ)であり、近づくまで誰であるか分からない、近づいて初めて人か魔物なのかを知ることになる、魔物と会う時間…。

              「逢魔が刻」に、入り組んだ京都の路地をうろうろしてしまったら(似たような路地が多いし)、本当にとりつかれてしまうのかもしれないなと思わされてしまう。

              そんな「怖さ」の中で、一つだけ種類の違う「怖さ」が味わえた『果実の中の龍』が一番「ぞわっ」としてしまった。

              やっぱり人間の心が一番怖いのかも…。

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                『鴨川ホルモー』万城目学

                鴨川ホルモー
                鴨川ホルモー
                万城目 学 2006年 産業編集センター P.281
                ★★★★★
                 俺ははじめ、目の前で展開されているものの意味を理解することができなかった。
                 だが、これこそが京大青竜会に代々伝わる舞である、と気がついた瞬間、俺の頭のなかを強烈な痺れがぐんぐんと広がっていった。
                 一糸乱れぬ、統一された舞とともに、彼らの歌う野太い旋律が、静まり返った境内に響きわたった。
                 俺は、その歌を知っていた。どういうわけか知っていた。

                全ては、何をするサークルだかさっぱりわからない「京大青竜会」のサークル勧誘の、一枚の怪しいビラから始まった。

                時は五月、この春二浪の末、めでたく京都大学に入学したばかりの安倍は、葵祭のエキストラのバイトを終えた帰り道、同じくエキストラで参加していた京都大学の新入生、京大ファッション全開の男「イカキョー」な、帰国子女の高村と、上賀茂神社を「たまたま」一緒に歩いていたところを呼び止められ、新歓コンパにぜひ参加するようにと、ビラを渡された。

                すわ、何かの宗教関係か、と訝しがりながらも、この数ヶ月はコンパを渡り歩いて食い繋ぐしかない「びんぼうひまなし」の安倍は、とりあえずタダ飯を食べさせてもらおうと、ビラに書かれていたコンパ会場、三条木屋町の居酒屋へ。

                適当なところで切り上げるつもりが、そこに参加していた同じく新入生の女の子の「鼻」に一目惚れしてしまい、気づいたときには、このわけのわからないサークルの新たなメンバー、十人のうちの一人としてカウントされ…。

                そして、嵐山バーベキュー、比叡山ドライブ、琵琶湖キャンプと、牧歌的なサークル活動を経て、迎えた祇園祭の宵山の日、安倍たち新メンバーは初めて「京大青竜会」の真の姿、「ホルモー」たるものの何たるかを知ることに……。

                「第4回ボイルドエッグズ新人賞受賞作!
                京都の街に巻き起こる、疾風怒濤の狂乱絵巻。都大路に鳴り響く、伝説誕生のファンファーレ。
                前代未聞の娯楽大作、碁盤の目をした夢芝居。『鴨川ホルモー』ここにあり!!」だ、そうで。


                タイトルの「ホルモー」って何だろう、何だろうと、本屋さんで見かけるたびに気になって仕方なかったけど、やっとすっきり。

                出てくるのが馴染みの深い場所ばかりで、あんなところで、こんな儀式を…と、その光景を思い浮かべると大爆笑なんだけど…、しかし何故にあの歌が?(まあ、うまいこと春夏秋冬になってたなと、感心したけど…)

                「いかにも京大生」な、すごくおぼっちゃまらしき高村と、大木凡人似の楠木さんのキャラには、結構やられてしまったかも。

                いや、しかし安倍のにぶさときたら…(そこが京大生なのか)。

                そして何より「まさし」ファンの私としては、安倍の持ってる特別編集のビデオを是非ともお借りしたいかなと。
                そこはかなり「ツボ」に嵌った。

                これから、市内を歩いててどこかから「ホルモオオオォォォーッ」の叫び声が聞こえてきたらどうしようかと…(京都には、そういうのが現れてもおかしくない妖しげなところが確かにあるなぁと)。

                0

                  『春の魔法のおすそわけ』西澤保彦

                  春の魔法のおすそわけ
                  春の魔法のおすそわけ
                  西澤 保彦 2006年 中央公論社 P.271
                  ★★★★★
                   要するにあたし、ひとりぼっちなんだ。……
                  このままどんどん歳をとって。老いさらばえて。都会の片隅で、ひとりぼっちのまま死んじゃうんだ。
                   なんて、むなしい。こんなむなしい末路のために、これまで一生懸命、生きてきたのだろうか、あたしは?
                   なんのために。
                   この苦しみは、寂しさは、虚しさは、いったい、なんのため?
                   答えてくれる者はいない。誰も。

                  記憶を失うまで飲み続け、酔っ払ったまま電車に乗り込み、二日酔いで意識の朦朧とした朝を迎え、気づけば武道館へと続く道を歩いていたという売れない女流作家、もうすぐ45歳の誕生日を迎える鈴木小夜子。

                  こみ上げる嘔吐感に堪えきれずに道ばたでリバースしてしまい、何か口を拭う物をと、持っていたバッグをまさぐり、そこで初めて自分の物ではないことに気づき、バッグの中を見て愕然とし、コンビニのトイレにかけこみ、中身を確認してみると、そこには札束が20束。

                  取り敢えず、そのまま出るのも気がひけ、札束から一枚抜き取り、ビールと日本酒を買い込み迎え酒を決め込んで、千鳥ヶ淵公園へと向かう途中、入学式へと向かう親子連れの団体に出会い、はたと昨夜の記憶が蘇り、ひとりぼっちの寂しさに押しつぶされそうになった小夜子は、2000万をネコババすることに。

                  そしてすっかり「ご乱心」してしまった小夜子は、何を血迷ったか、公園のベンチにたたずむ美青年に思わず「きみ、いくらなの?」と声をかけ、バッグの中身と交換に……

                  「『ある朝、わたしは、すべてが嫌になりました』
                  ちょっとミステリアスで、あたたかくて、思わず涙する 
                  ヤケな女流作家と謎の青年の不思議な出会い
                  あたたかく、美しい再生の朝を――女はいつでも、手に入れることができるんです」だ、そう。


                  なんともまあ、羨ましくなる「夢」のようなお話で…。
                  小夜子さんの飲みっぷりは、酒飲みの私でも、読んでて少々気持ち悪くなるほどだけど、酔いから醒めて理性を取り戻せば、ご乱心できなくなるから飲み続けるというのも分かるかな(いや、でも、ここまではちょっと…)。

                  小夜子の申し出をやすやすと受け入れる美青年の「謎」が解き明かされれば「なーんだ」なんだけど、それでもちょっと切なくなる(いや、これも羨ましい)。

                  色気のある話なんだか、ない話なんだか良くわからなかったけど、読み終わった後は何故か「私ももう一度、頑張ってみようかな…」と思えたような。

                  にしても、主人公の小夜子さん、もう少し身奇麗にしててほしかったかな(これからその年代を迎える身として、ちょっと許せないかも)。

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                    『学校の事件』倉阪鬼一郎

                    学校の事件
                    学校の事件
                    倉阪 鬼一郎 2006年 幻冬舎文庫 P.242
                    ★★★★★
                    たまたま同時代に同地域に生まれたというだけで、赤の他人と机を並べ、さまざまな活動を共にする。考えてみれば不可解な話である。その結果、忘れたい出来事でも同級生の記憶にはしっかりと残ったりする。他者の集合体である同級生の記憶をすべて消し去るわけにはいかない。皆殺しにでもしない限り。

                    都会には遠く、さりとて胸を張れるような田舎でもない、人口約六万人の地方の小都市、青山県の辺境に位置する吹上市を舞台に、次々と起こる不可解な事件。

                    吹上一帯では唯一無二の進学校、県立吹上高校にこの春から赴任し、早速鬱病に罹り、休職中の古文の教師堂島は、同僚の体育教師と教え子との仲を勘繰り、妄想を膨らませ…『一学期 ラジオ体操殺人事件』

                    「ジェイソンになる」と心に誓い、その異常な人生の第一歩を記した思い出深い林間学校に舞い戻ってきたのは、吹上工業高校で生徒会長に立候補し、一度は「吹上独立計画」を実行しようとしたものの、挫折して故郷を捨てたはずの男…『夏休み 吹上四十人殺し』

                    一命を賭して生徒を救い、美談の主として一躍有名人となり、人々の心に「教育熱心な教師」として深く刻まれることとなる、吹上私立西中学校の歴史教師高本の生前の、実直な仮面に隠されていた心の闇…『二学期 蔵書印の謎』

                    吹上市立山田小学校の教諭と、売れない作家との二足の草鞋を履きながら、いつかは専業作家になることを夢見ていた田村は、定年後に開いた小説教室から、自身が叶わなかった夢をやすやすと手に入れる生徒を輩出し、複雑な心境に陥り…『冬休み 吹上駅よ、さようなら』

                    「早稲田と何でもいいから全国レベルのスポーツ」を目標に掲げる、吹上では唯一の私立校、生徒集めに躍起になる吹上中央高校で、ようやく全国レベルにまで名を馳せるようになった軟式野球部の部長を押し付けられた英語教師、北見を襲った悲劇…『三学期 部長の殉職』

                    五年ぶりの同窓会に、猛毒を手にして出向いたのは、密かに復讐の機会を窺っていた吹上高校の卒業生…『春休み ホームルーム・グッドバイ』
                    の6編と、『エピローグ』から成る連作短編集。

                    「放課後の完全犯罪、その完全なる失敗。
                    思いどおりに犯罪をとげられない人々の悲しさと可笑しさをオフビートに描いた連作短編集。」だ、そうで。


                    表紙のイラストの人物が、高校の時の社会科の先生にあまりに激似だったもので、ついつい懐かしさのあまり、手にとってしまったけど…。

                    こんな気持ち悪い展開になるとは、全く予想もしてなかったから、途中でちょっとひいてしまった。
                    ここに出てくる先生たち、実際にいそうで余計に怖いかも(いたら嫌なんだけど…)。

                    最後は、よくあるいじめの話かと思ったら、そうではなくて、そこはちょっと意外で「ああ、なるほどね」と、うまくまとめられてたのかなという感じ。
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                      『蝶か蛾か』大道珠貴

                      蝶か蛾か
                      蝶か蛾か
                      大道 珠貴 2006年 文藝春秋 P.285
                      ★★★★
                       繰り返し、っていうのが、だめ。頭がおかしくなりそう。いつまでもつづく感じは、怖い。いつかは終わってしまうとわかっていながらつづけるのも、おんなじくらい、怖い。

                      二人の子ども達を無事に育て上げ、中学校で「給食のおばさん」をしながら、田舎での一人暮らしを満喫し、風の吹くまま気の向くまま、したい放題自由に生きる猿飛満々子、47歳。

                      「病院にかかるまでではないんだけど、頭がどっかおかしい」と、近所の人たちからは噂され、自分でも、産後の肥立ちが悪かったせいで、おかしくなってしまったという満々子。

                      春になると、おしりがむずむずし、梅雨が来れば気分も落ち着く…という満々子の送る一年間はと言うと…癌に罹った友だちを足繁く見舞い…『チョウチョがまとわりつく季節になるといよいよ』

                      職場で中学生相手に本気でケンカし…『梅雨だわよ』

                      ムスメに雇われ、探偵の真似事をし…『やっぱし夏は出会いのシーズンだわよ』

                      夏に知り合った年下のボーイフレンドが家にやって来て…『とうとう秋がはじまっちゃったわよ』

                      商店街の「キッチンえっちゃん」でバリバリ働き…『クリスマスも正月も、それどころじゃなくって』

                      恋をしようと、同窓会を企画し…『また、ばかになるにはうってつけの春』

                      そして『だれにも黙って旅に出ました』で終わる、連作短編集(?)。

                      「どこへ行くのか、猿飛満々子。まずはキャベツ畑でオシッコ…。無重力なこころの放浪記。」だ、そうで。


                      まるで「一週間」という歌のようなお話。
                      変わった文体だなー、というのが第一印象で、最初の5ページぐらいで読むの止めようかな、と思ってしまった。

                      散文的と言うのか、何と言うのか…、ほんとうに、満々子さんが頭の中で、ぱっぱと考えたことをそのまんま書いてあるというか、わけ分からんというか。

                      で、多少いい加減に読み続けていくと、満々子さんや満々子さんの母親、「オババ」の強烈なキャラに慣れてきたのか、今度はやたらと面白くなってきてしまって、止まらなくなってしまった。

                      満々子さんは最強かも。
                      二時間もののサスペンスにでも出てきそうな、どろどろした話も、この文体と満々子さんのキャラで、さらりと読めるし、まるで川上さんの「センセイの鞄」のような、先生との話も、満々子さんらしくて…。

                      何より、満々子さんの二人の子どもたちがまっとうに(多少変わってるけど…)育ってて、良かったなと。

                      70歳をとうに超えてる「オババ」の、ファッションセンスと、そのたて巻ロールには憧れてしまうし、いくつになっても女を捨ててないところに妙に感動してしまった。

                      満々子さんの「遺書」に書いてある言葉も印象的。
                      死ぬ日を楽しみにして生きるというのは、案外発想の転換としてはいいのかも、と思えてしまった。

                      満々子さんの苗字の「猿飛」と言えば、「佐助」か「エッちゃん」を思い浮かべてしまって、「さるとびエッちゃん」の主題歌が頭から離れなくなってしまった…。
                      「ヘンだな、ヘンだな、エッちゃん♪」の歌詞は、満々子さんにも通じるのかも。

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