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    『走るジイサン』池永陽

    走るジイサン
    走るジイサン
    池永 陽 2003年 集英社文庫 P.178
    ★★★★★
    いいなあ猿は。食って寝るだけだろ……おまけにおめえは頭の上に座っているだけだ。わしは近頃、おめえが羨ましくてしようがねえよ。人間は駄目だ、いろんなことを考えすぎる。金のこと、女のこと、これから先のこと。そんなこと考えてもどうにもならねえんだけど考えちまう。考えちまうとにっちもさっちも身動きがとれねえように縛られちまう……不自由なんだよ人間は。

    頭の上に猿がいる。

    作次がそのことに気付いたのは、共働きの息子夫婦と一つ屋根の下に暮らし始めて、三ヶ月が過ぎた頃。
    「私は年寄りが嫌いです。」
    嫁の京子さんに、いきなり宣告された、その日から、作次の頭の上に、ぽってりとした赤いお尻の、一匹の日本猿が住み着いた。

    頭の上なので、実際見えるわけはないのだが、作次にはそこに、他の誰にも見えない猿が見えるようになったという。
    この猿は、いったいどこからやって来て、どうして頭の上に乗っかっているのか、さっぱり見当もつかないままに、作治はこの現実を受け容れることにした。

    以来、頭の上の猿を相手に、からかってみたり、とりとめもない話をするうちに、猿との共同生活にもすっかり狎れてしまった作次。

    仕事から退き、隠居生活を送る作次にとっては、べらぼうに長い一日の、午前中いっぱいは、近所の馴染みの喫茶店で、老人仲間と雑談して過ごすものの、午後になって家に帰り、お昼ごはんを食べてしまうと、もう途端にすることがない。
    かといって、昼寝をしてしまうと、夜に寝付かれなくなって困るので、昼寝も出来ず、一人の時間をもてあます作治。

    そんなある日、めずらしく昼間にうとうとしてしまい、目を覚ますと、枕許に嫁の京子さんが、何故かうなだれ、正座をしていた。
    そして、慌てて跳ね起きた作次に、京子さんが、とんでもないことを口にする。

    近頃頻繁にかかってきていた奇妙な電話の主に、強迫されているという京子さんは、作次に自分の過去を全て話した上で、もし次に電話がかかってくるようなことがあれば、その相手と会って、一言、言ってやってほしいという。

    嫁の京子さんに初めて頼られたことを嬉しく思う作次は、少しばかりの興味もあって、男の会社へ乗り込んで行くのだが…。

    「老いのやるせなさ、そして生の哀しみと可笑しさを描く、第11回小説すばる新人賞受賞作品。」だ、そうな。


    作次は、決して偏屈でもなければ、頑固でもなく、自分が建てた家なのに、息子夫婦に日当たりの良い部屋を奪われ、挙句の果てに、二階には決して上がるなと息子に言われ、素直に従ってしまうような、お人好しのお年寄り。

    なので、息子の嫁の京子さんが、なぜ、あんなことを言ったのか、最初は理解できなかったけど、彼女には彼女の深い事情があって…。

    「お年寄り」の日常生活がものすごくリアルに描かれていて、読んでて身につまされてしまった…。

    「もう自分は必要な人間ではないのかもしれない」と、作次は考えるけど、御飯だって作れるし、喫茶店のマスターの娘さんの相談にも乗れるし…誰に迷惑をかけるわけでもなく、生きているのだから、それで充分じゃないのかな…と思ってしまう(私なんか、もっと誰の役にも立ってないし、迷惑かけてるし…)。

    年寄りにとって足は宝物だとか、目が見えにくくなると、目測を誤り、階段をふみはずすとか、一度トイレを失敗してしまうと、途端に老いが進行してしまうとか、大きく切った野菜は、のどを通らなくなるから、小さく切らないといけないとか…年を取って、身体が言うことをきかなくなるのは、本当に辛くて哀しいことなんだと、思い知らされた。

    いつかは絶対(生きていれば)、自分も年寄りになるのは分かっていても、その生活の不便さは、まだまだ想像もできないんだけど…。

    大阪から流れて来て、作次の家の近くのアパートで暮らし始めた、仲の良すぎる夫婦の生き様を、とても羨ましいなと思う。

    年寄りは年寄りらしく…の「らしさ」って、本当に何なんだろう。

    「頭の上の猿」って…突拍子もない話なのかと思ったら、ものすごくまともな、すごく考えさせられる、それでいて、ものすごく面白い良い本だった。

    いつか年寄りになって、目がちゃんとしてたら、また読んでみたいかなと思う。
    その頃、私の頭の上にも、お猿さんが乗っかっていてくれれば、案外幸せなのかもしれない。

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      『コンビニ・ララバイ』池永陽

      コンビニ・ララバイ
      コンビニ・ララバイ
      池永 陽 2005年 集英社文庫 P.329
      ★★★★★
      一人息子を失って、精神的に参っていた妻の有紀美を家に一人で放っておくわけにはいかなかった。できれば一日中そばについていてやりたかった。……
      本当は小さなコーヒー専門店でもひっそりとやりたかったのだが、
      「賑やかだけど乾いているから…」
      こんなことをいってコンビニエンス・ストアに固執したのは妻の有紀美だった。

      40歳を過ぎてから一人息子と妻を相次いで交通事故で亡くし、すっかりやる気を失くしていたコンビニエンスストアの店長、幹郎。
      いつ潰れてもおかしくないという経営状態の、小さな町の、小さなコンビニエンス・ストア「ミユキマート」には、幹郎と同じように悲しみや悩みを抱えた人間達が集う。

      息子の死後、事故に巻き込まれた妻の死が、実は自殺だったのではないかと疑念を抱いていた幹郎は、妻の遺したメモの意味を量りかねていた。
      「…しあわせでした」そんな風に言われるようなことは、何一つしてこなかった、寧ろ家庭を顧みない夫であり、父親であったはずなのに。
      「…」の部分に妻の悪意を感じてしまうという幹郎だったが…『カンを蹴る』

      「ミユキマート」のベテラン従業員の治子に、好意を抱き、真面目に誘ってきたのはヤクザの八坂。
      治子の一言で、ヤクザの世界から足を洗い、堅気となって再び「ミユキマート」に姿を現した八坂。
      けれど八坂の両肩に入れられた刺青を見て、治子の身体がどうしても彼を拒んでしまい…『向こう側』

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      前の会社を辞めたのは、夫との離婚を周囲の人間に詮索されたくなかったから。
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      だらしない情夫のせいで、借金取りから逃げ回っている、「ミユキマート」の常連客だった克子。
      新しい街で働き始めたスナックの常連客から、結婚を前提に付き合ってほしいと言われ、生まれて初めてのプロポーズに心は浮き立つのだが、今の男は別れてくれそうにもなくて…『あわせ鏡』

      「ミユキマート」で万引きすることで、イライラした気持ちを解消させる女子高生の加奈子。
      中学生の頃から付き合っている「優等生」の彼氏の紹介で、歯科医のおやじと援交もやってる。
      ちょろいはずだった「ミユキマート」での万引きを、ある日幹郎に見咎められ、奥に連れて行かれた加奈子は「体で払う」と、幹郎をたらしこもうとするのだが…『おやじ狩りの夜』

      「ミユキマート」の店の前のベンチでデートを重ねる老年のカップル。
      家族からの猛反対にもめげず、幹郎たちの応援も受け、愛を育む二人の前には、戒律と言う壁が立ちはだかり、お互いに求め合っていても、それ以上前には進めないでいた…『ベンチに降りた奇跡』

      の7編から成る、心温まる連作短編集。


      大人な話だなぁ…と、しみじみ。
      少し生臭くて、汚い部分もいっぱいあって…真実の大人の愛の物語、というか。
      みんな真面目に生きすぎてるような気がしなくもないけど。

      「本妻さん」と「愛人さん」の話は、なかなか良かった。
      二人で男の悪口を言い合うというのが、すごく良くわかる。
      女同士って、そうやって男を罵ることで、仲良くなれることもあるような…。

      『ベンチに降りた奇跡』の、二人のラストには憧れてしまうかも。
      そう願って、そうなれれば良いと。

      でも、確かにお年寄りの恋愛って、なかなか世間的に受け入れられないのは何でだろう…と、ふと考えさせられてしまった。
      もしもお互いに、一人ぼっち同士なら、若い頃の恋愛と、何ら変わらないはずなのに、何でうんと年下の息子や娘に、怒られないといけないのかなぁ…と。

      私が「おばあさん」になる頃には、そういう偏見、なくなってたらいいなぁと思う。
      でも、同い年や年上の「おじいさん」に相手にもされなかったりすると、ちょっとショックかな。

      やっぱり大金持ちになって、少しでも若い男に走るしかないか…。
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