スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

0
    • -
    • -
    • -
    • by スポンサードリンク

    『楽園(上)(下)』宮部みゆき

    楽園 上 (1)楽園 下
    楽園 上 (1)楽園 下
    宮部 みゆき 2007/8/10発行 文藝春秋 上巻P.413 下巻P.361      各¥1,700
    ★★★★★ 
    ……それが真実であるならば、人びとが求める楽園は、常にあらかじめ失われているのだ。
     それでも人は幸せを求め、確かにそれを手にすることがある。錯覚ではない。幻覚ではない。海の向こうの異国の神がどう教えようと、この世を生きる人びとは、あるとき必ず、己の楽園を見出すのだ。たとえ、ほんのひとときであろうとも。……
     血にまみれていようと、苦難を強いるものであろうと、秘密に裏打ちされた危ういものであろうと、短く儚いものであろうと、たとえ呪われてさえいても、そこは、それを求めた者の楽園だ。
     支払った代償が、楽園を地上に呼び戻す。

    世間を震撼させた連続誘拐殺人事件で、真犯人をTVの前で暴き出し一躍時の人となったフリーライターの前畑滋子。

    事件をひきずったまま9年の時が経ち、ようやくフリーペーパー専門の編集プロダクション『有限会社ノアエディション』で仕事を再開した滋子の元へ、一人の母親が相談にやってきたことから、滋子はまたもや人間の心の闇の部分に深く関わることに…。

    12歳の一人息子を事故で失って間もない母親は、息子がスケッチブックに残した不可解な絵が、時効を迎えたある殺人事件を透視していたのではないかと人から指摘され、息子、等にそのような能力があったのかどうなのか、真実を知りたいと滋子に縋る。

    そして取り敢えずの事実関係だけでも調べてみることにした滋子は、等が絵に描いた家の中で、両親が当時中学生だった長女を殺害し、家の床下に埋めたまま16年間もの間普通の暮らしを営んでいたという土井崎家の事件の詳細を知るうちに、土井崎家の人びとに隠された謎の部分に強く惹かれていくことに。

    「土井崎家の人びとが、なぜその人生を選んだのか。なぜあんなことが起こったのか。あんなことが起こってもなお、刑事事件としての時効が成立するだけの年月、秘密を守り通せたのはなぜなのか。そして、なぜそれを荻谷等が知り得たのか。…」そして滋子が土井崎家の事件の真相に迫る時、一人の少女の身にも危険が迫り……。

    『「模倣犯」から9年――前畑滋子 再び事件の渦中に!
    自宅の床下で16年間眠り続けた少女の死体。その死体を狷視瓩靴疹年の交通事故死。
    親と子をめぐる謎に満ちた物語が幕を開ける――
    少年の目には何が見えていたのか。少女の死は何を残したのか。
    新たなる拉致事件も勃発、物語は驚愕の結末へ!』だ、そうで。


    上下巻一気読み…(気がつけば朝の四時)。
    これは途中でやめられない、と思う。

    滋子さんが知りたいこと、はそのまま私も知りたいことで、16年前、土井崎家で起こったこと、いかに素行が悪かったにせよ、何故中学生の娘を両親が殺害するに至ったのか、6つ離れた妹は、本当に何も知らなかったのか、突然いなくなってしまった姉の存在をどう捉えていたのか、今現在、両親はどこでどうしているのか…などなど、本当に気になって仕方なかったし、宮部さんのを読むといつも感じることだけど、本当にそこにそういう人たちがいて、そういう事件が現実に起こったと錯覚してしまうほど、登場人物の描写が細かくて丁寧で…。

    その人のことを知ろうとするときに、家系を遡っていくというのも、本当にただ自分一人がぽんとここに生まれて、ここに存在しているのではないということをつくづく思い知らされるというか、血の繋がりというものを改めて考えさせられる。

    人から見れば愚鈍そうな等の母親に至っては、その気の遣い方から、何から何まで、一人の人間を良く知るのに、これ以上の描写はないのではないかと思うほどで…(そこいらの知り合いよりも、この人のことの方が知ってるようなそんな感じ)そしてこの人には絶対に幸せになってもらいたいと、心の底から思えてしまうし、だからこそ最後に涙してしまったのかなと。

    章の合間に挿まれる、一人の女の子の歪んだ性格も…。

    『名もなき毒』とも少し共通するテーマなのかなと思えるけど、本当にそういう人が身内にいた場合、家族や周囲の人間はどうすればいいのか…、奇麗事ではなく、当事者なら、それは仕方のないことだと思えてしまうかも。

    「誰かを切り捨てなければ、排除しなければ、得ることのできない幸福がある。」というのは、多分真実なんだろうと。

    そういう人間は、環境によって作られるのか、それとも生まれつきそうなのか…どんなに優しい両親に愛情を注がれて育ったとしても、そうなってしまうものなのか…、だとすれば、本当にどうしようもないなと。

    そして、全然話は違うけど、これを読んで天童さんの『家族狩り』の話を思い出して、本当に「家族の中」というのは、周囲からは見えなくて、難しいものなのだなと、つくづく怖くなってしまった。

    やっぱり宮部さんの描く犯罪物は最高だし、時代小説もファンタジーも良いけど、こういうのこれからももっともっと読ませていただきたいなと。

    0

      『名もなき毒』宮部みゆき

      名もなき毒
      名もなき毒
      宮部 みゆき 2006年 幻冬舎 P.489
      ★★★★
      かつてジャングルの闇を跳梁する獣の牙の前に、ちっぽけな人間は無力だった。だがあるとき、その獣が捕らえられ、ライオンという名が与えられたときから、人間はそれを退治する術を編み出した。名付けられたことで、姿なき恐怖には形ができた。形あるものなら、捉えることも、滅することもできる。
       私は、我々の内にある毒の名前を知りたい。誰か私に教えてほしい。我々が内包する毒の名は何というのだ。

      日本で指折りの一大グループ企業、今多コンツェルン。
      そんな大企業の、会長自らが発行人に名を連ね、今多コンツェルン・グループ社員すべてを読者とする横断的社内報「あおぞら」の編集部のトラブル・メーカーだったアルバイトの原田いずみは、クビにされた逆恨みから、会長の元へ、編集部に対する義憤と嘘八百を並べ立てた手紙を送りつけ、裁判も起こしかねないという。

      会長に呼び出され、事態の収拾を仰せつかったのは、編集部の平社員であり、会長の娘婿である杉村。

      履歴書に書かれていた以前の勤め先でも、彼女は数々のトラブルを起こしていた。

      以前の勤め先の社長から、その事件の際に、彼女のことを調べてもらったという人物を紹介された杉村は、訪れた探偵、北見の部屋で、近頃世間を騒がせている「連続無差別殺人事件」の被害者の孫だという女子高生、美知香と出会い、そちらの事件にも首を突っ込むことに…。

      何を思ってか、執拗に杉村を付け狙う、欺瞞に満ちた元アルバイト原田の嫌がらせがエスカレートする一方、「連続無差別殺人事件」の犯人が逮捕され、その供述からは、意外な事実が明らかとなり…。

      「連続無差別殺人事件。あらゆる場所に「毒」は潜む。
      著者3年ぶりの現代ミステリー、待望の刊行。」だ、そうな。


      今多コンツェルンの会長の娘婿、杉村シリーズの前作『誰か』が、正直、好きではなかったので、あんまり期待しないで読んだけど、久しぶりに「やっぱり宮部さんだ」と思えて嬉しくなった(『火車』や『模倣犯』ほどの衝撃はないけど)。

      今回は、今多会長の懐の深さと、大物の一抹の淋しさというか、そういうのも垣間見れて、すっかり会長のファンになってしまった。
      「権力者…」のくだりは特に…。

      「原田いずみ」は、全く理解の範疇を超えていたけど、確かにこういう人、私も一人だけ知ってる(ここまでじゃないと思うけど)。

      履歴書にも平気で嘘を書き、やたら被害者意識が強くて、事あるごとに「自分は悪くない」と他人に罪をなすりつけ、「嘘」でみんなの注目を常に自分に向けておきたい人…。
      こんな人、周りにいたら本当に怖いと思う。

      相変わらず、些細な登場人物や背景においてまでディテールが行き届いていて、流石だなぁと感心してしまった。
      現実に、その建物や店がそこにあって、この人たちがそこにいて、そういう生活をしていて、こういう事件が起こってしまったというか…。

      やっぱり宮部さんには、こういうの期待してしまう。

      人間だけが持つという「毒」の正体は何なんだろう。
      パンドラの箱の中身も、そんなんがいっぱい詰まっていたような。
      それよりもっと、現代は複雑になってるのかな…。

      0

        『魔術はささやく』宮部みゆき

        魔術はささやく
        魔術はささやく
        宮部 みゆき 1993年 新潮文庫 P.400
        ★★★★★
        「坊や、私は君の四倍以上の歳月を生きてきた。そしてわかったことが一つある。いつの世にも、真の悪人というものが確かに存在するということだ。」

        新聞で報じられる、相次いで起きた、二人の若い女性の投身自殺。
        一人はマンションの屋上から、もう一人は地下鉄のホームから、それぞれ飛び降りたという。
        そして、さらに数日後、一人の女性がタクシーに撥ねられて死亡するという事故が起き、一連の出来事が偶然なんかではないと、怯えはじめたのは、三人をよく知る女…。

        事故を起こし、加害者として、警察に拘束されることになったタクシー運転手、浅野大造の身を案じるのは妻と娘、そして訳あって、浅野家で一緒に暮らしている、甥の守。

        事故後すぐに始まった、過失であっても、人を殺めたということによる、浅野家に対する嫌がらせの電話や、中傷の数々。

        その中に紛れた一本の電話「殺してくれてありがとう」という言葉が気に掛かり、単なる事故ではなかったのではないかと考え始めた守は、叔父の無実を証明するため、女の身辺を調べてみることに。

        事故で死亡した女の部屋に、ある特技を使って侵入した守が、そこで見つけたのは、ある時期から、かなりの額が振り込まれるようになった預金通帳。

        そして女の部屋の留守電に残された、男からのメッセージの中の『情報チャンネル』という、言葉を手がかりに、守は死亡した3人の女たちの共通点に辿りつく。
        次に狙われるはずの女が存在することにも…。

        やがて撥ねられた女が、赤信号を無視して飛び出したことを証明する男が現れ……。


        『日本推理サスペンス大賞受賞作』なのね。て、これ、今はもうないらしいけど。
        天童さんの『孤独の歌声』も、これの優秀賞か何か受賞してたな…。

        両親がいなくなって、一人ぼっちで、親戚にひきとられた、過去を背負った少年…これって『模倣犯』の少年も確か、こんなだったような…本当に好きなのね、このパターン(こっちの本の方が、ずっと前だけど)。

        いつもながらの緻密な人物背景に、被害者も加害者も、すぐにイメージ出来てしまう。

        「殺すことはないじゃない…殺されるほどのことなんかしなかった」と、女は言う。
        同情はしないけど、選んだ相手が悪かったのか…。

        実際、昔これにひっかかった男の人を知ってたけど「あんた、それ騙されてんで」と、私が忠告しても、頑として「そんなんじゃない!」と、信じきっていた男の人は、案外幸せな人だったのかも…。今も元気なら。

        このやり方で、実際に人を殺しても、ばれないだろうし、絶対捕まったりしないんだろうなぁと思うと、ぞっとする。
        まさか、そういうの悪用したりする人、いないことを願うけど…。

        守のバイト先の、頼もしい警備員の牧野さんの台詞「だいたい、本なんてもんは読みすぎるとロクなことがねぇんだ。女は嫁き遅れるし、男はタマなしになる」に、どきっとしてしまった。
        仰る通りです…。
        0

          『とり残されて』宮部みゆき

          とり残されて
          とり残されて
          宮部 みゆき 1995年 文春文庫 P.351
          ★★★★★
           肉体など、さして意味のないものかもしれない。わたしたちをわたしたちであらしめているのは、感情、思念、そして魂。
           それは残ってゆく。わたしたちが、特別強くそれを抱いた場所に。とり残されて、独りぼっちでじっと待っている。  〜『とり残されて』より〜

          婚約者を事故で失い、事故の相手を「殺したい」という思いにとり憑かれていた女。
          ある朝、女は不思議な少年に導かれ、勤め先の小学校の、人気のないプールで女教師の死体を発見した。
          少年のモンタージュを見た一人の男が「これは20年前の、小学生だった頃の自分」と、名乗り出て…『とり残されて』

          10年前、仲間4人が乗っていた車で「おたすけ淵」に突っ込み、転落死したとされる兄の供養に訪れた妹。
          土産物屋で、兄の名前の刻まれた草木染のハンカチを偶然見つけ、兄の生存を確信した妹は…『おたすけぶち』

          ファンを名乗る男に喧嘩をふっかけられ、生死の境目を彷徨うプロ野球選手。
          過去のトラウマから右腕が使えなくなってしまっていた男の眼の前に現れたのは、彼のために命を落としてしまった少女…『私の死んだ後に』

          商談を終え、東京まで帰る列車の中、たまたま近くの座席に乗り合わせた中年男と、いまどきのあっけらかんとしたOL二人組。
          中年男に興味のあるらしいOL達は、彼の気を惹こうと、近頃会社で起きた、ある男の飛び降り自殺の話を始めた…『居合わせた男』

          喫茶店でデート中の二人の会話に割り込んできた男。
          銀行員の女が語る、上司の「札束が囁いた」という話の顛末を聞いた男は、自分の店から、自分に「囁いていた」というある物を持ち出し…『囁く』

          この世にやり残したことがあるという地縛霊に身体を乗っ取られた男。
          乗っ取られた男は、幽霊の言うままに、エステに連れて行かれ、ウィッグを買わされ、化粧を施されて、ある会社の面接試験を受けに行かされ…『いつも二人で』

          探偵社に飛び込み「たびたび夢で見る場所が、実在しているかどうか調べて欲しい」と、奇妙な依頼をする女。
          日々、具体的になる女の「夢に出てくる場所」のスケッチを見た探偵の表情に次第に変化が表れ…『たった一人』
          の7編から成る中、短編集。

          「この世であってこの世でない、宮部みゆきの怪しい世界七篇」だ、そうな。


          夏の夜の怪談話にちょうど良いような。
          『おたすけぶち』は、オチも効いててなかなか面白い。
          大好きな『悪魔の花嫁』にも、出てきそうな話。

          好きなのは、短くて、ブラックな『囁き』と、男の子なのに女装させられて、あれこれ買い物させられる『いつも二人で』。

          逆に、解説で絶賛されていた『たった一人』は、あんまり好きでない。

          「運命を変えてはいけないなんて、戯言だ。それじゃ生きる価値もない。
          どうしよう?どうしたらまた彼を取り戻すことができる?」
          という主人公が、何だかものすごくしつこく思えて…。

          逃げる男なんて、追いかける価値もない。

          話の内容以上に、表紙のイラストの少年が一番怪しかったかも…。
          0

            『東京下町殺人暮色』宮部みゆき


            東京下町殺人暮色
            東京下町殺人暮色
            宮部 みゆき 1994年 光文社文庫
            ★★★★★
            人間は、死ねば腐るし、においもする。それまでの美しい、愛すべき顔はどこかにいってしまう。殺人が大罪であるのは、人をそんな姿に変えてしまう権利など、誰も持っていないからだ。そして、ごく普通の想像力のある人間なら、人が死ねばどんな姿になってしまうか、心で理解している。だから、よほどのことがないと人を手にかけることなどできないんだ。
            ウォーターフロントとして注目を集める、隅田川と荒川に挟まれた東京の下町。
            新しいものと、昔ながらのものが混在するゼロメートル地帯に、警察官の父親と二人で暮らす中学生、13歳の男の子、八木沢順。
            彼の住む町の、荒川で、スーパーのポリ袋に入れられた、バラバラ死体の一部が発見された。

            順の周囲では、一人暮らしの、ある人物があやしいという噂がまことしやかに囁かれ始める。
            そして、ある夜、事件のせいで帰りの遅い父親を一人で待つ順が、最初に見つけた郵便受けに放り込まれた差出人不明の手紙。
            手紙の内容は噂の人物を告発するもの。

            また、警察に届けられた同じ筆跡の手紙には、バラバラ死体の残りの部分の置き場所が書かれていた。
            その手紙を元に発見されたのは、もう一体別のバラバラ死体。

            絞殺された後、一度は埋められ、わざわざ掘り返された後、バラバラにして別々の場所に捨てられていた死体は、二体分…。

            遅々として進まない警察の捜査に業を煮やした順は、これ以上被害者が出ないで欲しいという思いから、噂の真相を確かめるため、告発されていた画家の家へ単身乗り込み、やがて事件に深く関わっていく。

            そして、殺された二人の身元が判明し「少年法改正」を声高に訴える市民団体の催しに反感を抱く少年達の報復、という見方が強まっていくのだが…。


            父親の心配をよそに、どんどん事件の真相に近づく順、そんな順に力を貸すのは、親友の慎吾と、お手伝いのハナ。
            この二人のキャラクターがすごく良い。
            「ごめんで済めば、警察は要らないんだからさ」と言う順に、慎吾の父親がいつも言ってるという「ごめんという気持ちがあれば、警察が要らないことはいっぱいある」の台詞に、何だか目から鱗。

            ハナは、もう結構なお歳なのに、矍鑠としていて、機転がきいて、稚気に富んで、しかも先見の明があって「やがて女がひとりで歩いているのがぶっそうな世の中になる」というような、ぶっそうなこと言う。
            でも、本当にその通りになってる気がした。
            これが書かれたのが、今から16年も前ということを考えると、尚更すごいと敬服する。

            想像力のない少年達…というのも、今も変わらなそう。
            「しかし、そういう少年たちを育ててきたのは、我々の世代ですよ。」という順の父親の台詞が、何だか胸につきささる。
            確かに、そう。

            この物語には、戦争を体験した世代、その子供たち、そして孫の世代といった3世代の人間たちが登場するので、それぞれの年代の考え方の違いというか、生き様というか…そういうことをすごく考えさせられた。

            ハナさんは、とてもその年齢とは思えないほど、若々しくて、元気で、可愛くて…こんなおばあちゃんになりたいと思える理想のおばあちゃん像だったなぁと、しみじみ思う。

            0

              『蒲生邸事件』宮部みゆき

              蒲生邸事件
              蒲生邸事件
              宮部 みゆき 1999年 光文社
              ★★★★★
              何も終わってなんかいない。これから始まるのだ。これは終わりの始まりなのだ。それなのにどうして、あなたたちは笑う? どうして誰も怒らない? 誰も恐れない? どうして誰も立ち上がろうとしないのだ。これは間違っていると。我々は死にたくないと。
              なぜ止めないんだ。

              平成6年2月25日。
              大学受験全敗後、予備校受験のために上京し、東京の旧蒲生邸跡に建つ、寂れたホテルに宿泊することになった高校生の尾崎孝史。
              孝史は、その日何度か見かけていた同じホテルに滞在している男が、非常階段から飛び降りるのを、偶然見てしまう。
              ところが、落ちたはずの男は、次の瞬間には別の場所に平然と現れた…。

              このホテルには、二・二六事件の直前自決した、蒲生大将の幽霊が出るという噂もあり、不思議に思いながらも、昔の二・二六事件を取り上げた、深夜のテレビ番組を、大した興味もないまま見ながら寝入ってしまう。
              そして、深夜に孝史が、異変を感じて飛び起きたときには、ホテルは火の海となっていた。

              逃げ場を失い、もうだめかと思ったその時、先ほどの男に助けられ、連れて行かれた先は、昭和11年の2月26日未明の蒲生邸の敷地内。
              その日はまさに、ホテルが建つ前の蒲生邸の当主、元陸軍大将、蒲生憲之が自決しようという日、そして二・二六事件が始まりを迎えた日であった。

              助けてくれた男は、平田と名乗り、孝史を助けてくれた彼の能力は、叔母から引き継がれたものであるという。
              彼の叔母は、ある目的で、ある人物のために何度も何度もその能力を使い、そのため衰弱してしまっていた。

              そして同じように、短時間にタイムスリップを繰り返し、弱ってしまった平田が回復するまで、蒲生邸で使用人として働いていた平田の甥ということにして、しばらく蒲生邸に置かせてもらえることになった孝史。

              孝史はやがて、二・二六事件の持つ歴史上の重要さと、蒲生憲之が何を企んでいたのかを知ることとなる。

              けれど、孝史にとって重要なのは、親切にしてくれた、蒲生邸で働く女中のふきを、戦火に巻き込まれないように、何とか生き延びさせること、そして再び会うということ…。


              二・二六事件のことは、私も大して(というより殆ど)知らなかったけど、この本を読んですごく良く解った(気がした)。
              そういうことだったのか…と。
              その後の日本の運命を決定付けるような…。

              もし、この時、タイムスリップによって、修正していれば…というのは、平田の言葉によって打ち消されてしまう。
              「歴史は変わらない」と。
              彼は、何度も試し、そしてそんな能力を持つ自分は「まがいものの神だ」と思い知らされていた。

              一人の命を助けても、別の一人が命を落とす。
              歴史はそうして辻褄を合わせてしまうのだという。
              だからこそ、平田は「人間」として生きるために、この世界に残ることを選ぶという。

              そして、一人平成に戻された、ちょっぴり大人になった孝史のその後…。
              「生き延びろ」と約束をして別れたふきとの、再会の約束の場所に孝史の前に現れたのは…。

              ラストの何ページかは、涙で滲んで文字が読めない、くらいに感動してしまう。
              ふきという女性は、本当に真っ直ぐな芯が一本通っていて、心が温かくて、懐が大きい、というか…。
              読んでいて、本に入り込みすぎてしまった。

              ふきが密かに思いを寄せていた、蒲生家の長男の最後も悲しくて、時代が時代なので仕方なかったんだろうけど…。
              できれば……してほしかったな。

              「蒲生邸事件」は宮部さんの作品の中でも、かなり好きな本。
              教科書も、こんな風ならもっと勉強楽しかったのに…と今さらながら思う。

              0

                『レベル7』宮部みゆき

                レベル7(セブン)
                レベル7(セブン)
                宮部 みゆき 1993年 新潮文庫
                ★★★★★
                本当にレベル7まで行ったら、戻ってこられる人間なんかいないぜ。戻ってこなくてもいいんじゃなくて、戻ってこられないんだ。

                男は夢を見ていた。
                夢がだんだん遠くなり、目覚めるとそこは見知らぬ部屋。
                そして、ベッドの傍らには見知らぬ女が眠っていた。
                記憶が欠けている…。
                今日が、何月何日で、ここは、どこで…
                何より、男には自分のことすら、誰なのか分からない。
                そして、腕に浮かび上がる不思議な文字「Level7」

                目覚めた女もまた、男と同様、記憶が欠落していた。
                彼女の頭に、何故か浮かび上がるのは「トーテム」という言葉。
                真新しい、家具、生活用品。
                部屋を探しても、二人の身元を示す手がかりになるようなものは何もなく、そこに残されていたのは、一丁の拳銃と、スーツケースに詰め込まれた現金、そして血の滲んだタオル。
                自分達は、何か犯罪を犯したのだろうか…と、怯える二人。

                その夜、女の悲鳴を聞いて駆けつけたのは、マンションの隣に住むという謎の男。
                二人のただならぬ様子を見て、男は部屋に入り込もうとする。
                スーツケースの金と拳銃を目ざとく見つけ、そこに犯罪の匂いを感じ取り、警察に届ける代わりに、金を山分けすることで、彼らに協力し、記憶を取り戻すための手がかりを探してやるという。

                そんなとき、別の場所で一つの小さな事件が起こっていた。
                17歳の少女の家出。
                少女の身をただ一人案ずるのは、ある一本の電話から、知り合うこととなった歳の離れた、少女の友達であり、相談相手でもある、一人の女。
                少女の手がかりは、日記の最後に記された文字。
                「明日 レベル7まで行ってみる 戻れない?」

                そして、ある夜、女の元にかかってきた、少女からの救いを求める電話。
                ただの家出なんかではない、と察した女は、数少ない少女の手がかりを必死に拾い集め、ある場所に辿りつく。
                そこに現れたのは、記憶を失くした二人の隣人の、謎の男。

                記憶を失くした二人もまた、謎の男に導かれ、その場所に辿りついていた。
                そして二人は自分達が、ある別荘で起きた殺人事件の生き残りであったことを知り、何者かによって記憶を消されたことを知る。

                謎の男を介して、二つの事件は結びつき、そして事件の裏にある巨大な権力の存在が明かされる…。


                これは、私が初めて読んだ宮部さんの小説(のはず)。
                それまでは、ショートショートや、短編集を好んで読んでいた私が、長編小説の面白さを改めて思い知らされた、記念すべき小説、だったと思う。
                それまでは、こんなぶっとい本、読もうともしなかったので、この本を境に、より長く、重い本を読むようになった、ぐらいに、当時は面白いと感じた。

                二つの異なるストーリーが交互に語られ、最後に集結し、意外な展開を見せる。
                最後の展開は、これでもか、これでもか、みたいな感じ。

                少女を探す役目の女の、過去の悲しい出来事や、父親や娘との絆。
                そして、今は亡き母親の意外な過去。
                記憶を失くした男女の、それぞれの家族にまつわる過去。
                失踪した少女の心の傷となった、哀しい過去の事件。

                宮部さんらしく、それぞれの人物に、きちんと過去が与えられていて、複雑な物語が、きちんと納まって…。
                なんだけど、なんとなく腑に落ちない点も、今思えば、あったかも。

                「レベル7」って、どういう意味なんだろう?と、わくわくしながらページをめくった記憶があったけど…。

                ドラマでは、浅野ゆう子と風間とおるがやってたような…。でもタイトルが同じなだけで、全然話が違ってた気がする。

                この二人のキャスティング見れば、それだけで、時代が分かってしまうかも。
                0

                  『クロスファイア』宮部みゆき

                  クロスファイア〈上〉クロスファイア (下)
                  クロスファイア〈上〉
                  クロスファイア (下)
                  宮部 みゆき 1998年 光文社
                  ★★★★★
                  過ちを正し、不正なものを焼き払い、すべてを灰に返して静謐な無を招来する絶対の力―それが「火」だ

                  使われなくなった廃工場で人が死んでいます―。
                  通報を受けて駆けつけた警察官が目にしたのは、一体の射殺体と、炭化寸前まで焼き尽くされた三つの遺体…。

                  一昨年の秋に発生した「荒川河川敷男女四人焼殺事件」と酷似した手口。
                  性別さえ判別できないほど燃やし尽くされるという残虐な大量殺人事件。
                  その時、生きたまま焼き殺されたのは、女子高生連続殺人事件の有力容疑者だった青年。
                  彼らは、女子高生達を次々に拉致し、監禁し、嬲り者にした後、車で轢き殺すことをゲームのように愉しんでいた。
                  そんな容疑者の主犯格の男が焼き殺された事件。

                  全ては、ある女が一人でやったこと…。
                  ある能力を持ち、その能力を活かし、残虐な人殺し達に「制裁」を加えていく女。
                  女にとっては、殺人とは「戦闘」であった。
                  常に正しい標的に狙いを定め、自らが装填された一丁の銃となり、敵に近づいていく女。

                  そして、次々に発見される焼死体。
                  犯罪に気づきながら、見てみぬふりをしていた少年の母親も、密造拳銃を横流しする男も、彼女にとっては「凶器」にぶらさがる「凶器」。
                  だから、一緒に焼き払うしかない…。

                  そして、彼女の能力を以前の事件で察知し、彼女に近づく謎の組織。
                  彼女を追うのは、彼女の能力を身をもって知らされていた刑事。

                  彼女の力は、もう彼女自身の枠を超えていた。
                  彼女は、殺しすぎた…。


                  誰にも決して心を許さないと決めていた彼女の、心の扉をいともたやすく開けてしまった男。
                  彼女にとって、本当に幸せな夜があったのに…。

                  宮部さんらしい、終わり方だったけど…。
                  切ない…。

                  彼女自身も「自分が間違っていたとは思わない。だけど、正しかったのかどうかもわからなくなってきた。」と感じたように、何が正しいことなのか…。

                  この小説に出てくる彼女の標的となる犯罪者達のことを、焼き殺されて当然だ、とも思うし、けれど、殺されて当然の人間なんて、いるはずもなくて。
                  人間、として、いろいろと考えさせられる小説。

                  イメージとしては、ヒロインは菅野美穂なんだけど(何となく薄幸そうな役が上手そうで、好きなので)…映画では矢田亜希子か…。
                  記憶にある映画のストーリーは、クロスファイアの前の「燔祭」の方が主だったかな…。

                  に、しても一度幸せを味あわせて突き落とすって…何か人生感じるな…。
                  0

                    『理由』宮部みゆき

                    理由
                    理由
                    宮部 みゆき 1998年 朝日新聞社
                    ★★★★

                    人を人として存在させているのは「過去」なのだと、康隆は気づいた。この「過去」は経歴や生活歴なんて表層的なものじゃない。「血」の流れだ。あなたはどこで生まれ誰に育てられたのか。誰と一緒に育ったのか。それが過去であり、それが人間を二次元から三次元にする。そこで初めて「存在」するのだ。それを切り捨てた人間は、ほとんど影と同じなのだ。本体は切り捨てられたものと一緒にどこかへ消え去ってしまう。

                    平成二年、バブル経済の崩壊の年。
                    事件の舞台となる、地上二十五階建ての高層マンション「ヴァンダール千住北ニューシティ」は産声をあげた。

                    それから六年後の六月二日、暴雨の夜「ヴァンダール千住北ニューシティ」ウエストタワー二〇二五号室で起こった大量殺人事件。
                    後に「荒川の一家四人殺し」として人々の記憶に残る凄惨な事件。

                    物語は、事件が終息を迎え、全てが明らかになった後、事件に関係した全ての人々の口からぽつりぽつりと語られる。

                    管理人の言う「縁起の悪い部屋」二〇二五号室で殺された、父親と母親、そして息子、祖母と思われていた人々は、実は本当の家族ではなかった。

                    なぜ、彼ら四人が家族のように、寄り添い合い、この贅沢な部屋で暮らし、誰が、彼らを殺さなければならなかったのか…。


                    家族は、一緒に暮らすものだ、と当たり前に考える女がいる。
                    親と暮らす方がよっぽど大変だった、という少年がいる。
                    このまま一緒に暮らすことで、家庭を壊してしまうと考える男がいる。

                    そして、バブル崩壊後、ならではの悲劇。
                    一度、味をしめてしまうと中々元には戻れない…。
                    一番の謎の人物、まるで二次元の世界で生きているかのような青年もまた、バブル経済から生まれた怪物だったのかな。

                    まるで、実際に起こった事件のワイドショーを見ているような感覚に囚われる小説だった。
                    事件に便乗して名を売り込もうとする人が出てきたり、あることないこと噂が尾ひれをつけて広まったり…。
                    そして何より、インタビューに答える人々にもきちんとした過去や、人格が与えられていて、まるで本当に存在している人達みたいで…。

                    映画(ドラマ?)にもなってたけど、全編通して照明が暗かったので、なんか良くわからなかった…。

                    宮部さんの作品は、映像化しやすそうで、しにくいのかな…。
                    NHKの「茂七親分」シリーズ以外、あんまり良いと思ったことない気がする。
                    0

                      『R.P.G』宮部みゆき

                      R.P.G.
                      R.P.G.
                      宮部 みゆき 2001年 集英社文庫
                      ★★★★★

                      ― ロールプレイング(Role-playing)
                      実際の場面を想定し、さまざまな役割を演じさせて、問題の解決法を会得させる学習法。
                      役割実演法。―

                      杉並区の閑静な住宅街。
                      近隣の主婦の通報により、ブルーシートに覆われた建築中の住宅から一人の男の死体が発見された。
                      男の全身には、刃物による二十数ヶ所にもおよぶ刺し傷が残されていた。

                      殺されたのは所田良介、48歳。
                      事件現場近くに住む、妻と高校生の娘との3人家族。

                      男は、この家族とは別に、パソコンのネット上にも家族を持っていた。
                      皮肉にも、ネット上の娘のハンドル名は、実の娘と同じ「カズミ」…。

                      そして男の死体発見から数日後、渋谷南署では、かつて前例のないような「取調べ」が行われようとしていた。

                      取調室のネット上の家族、と実の娘「一美」とのマジックミラー越しの対面。
                      父親が事件前、見知らぬ他人と話しているのを見かけたことがある、という一美の証言をもとに、その人物を判別してもらう面通し…。

                      そして「ミノル」「カズミ」「お母さん」と次々に現れる、父親の擬似家族たち。

                      この中に父親を殺した犯人がいるのか…。

                      若い女に目がなく、娘ほどの歳の女子大生と不倫をしていた父。
                      そんな父の浮気ぐせを黙認していた母親…。

                      このお父さんが、私にはいまいちよく理解できない人だった。
                      取調室で繰り広げられる、ネット上の家族3人のやり取りが、まあまあ面白かったかな。
                      なるほど、そういうことだったのか…、と最後はみょーに納得してしまう。
                      「クロスファイア」の石津刑事や、「模倣犯」の武上刑事などなど、これまでの宮部さん作品に登場した刑事たちも、火曜サスペンスの「取調室シリーズ」の長さん、さながらで…。

                      そして最後に、ある刑事が諳んじる、西條八十の『蝶』の詩は何となく、ぐっとくるものがある。

                      「やがて地獄へ下るとき
                       そこに待つ父母や
                       友人に
                       私は何を持つて行かう
                       たぶん私は懐から
                       蒼白め、破れた
                       蝶の死骸をとり出すだらう
                       さうして渡しながら言ふだらう
                       一生を
                       子供のやうに、さみしく
                       これを追つてゐました、と」
                       
                      どことなく切なさの残る小説、だったのかな…。
                      0


                        calendar

                        S M T W T F S
                         123456
                        78910111213
                        14151617181920
                        21222324252627
                        28293031   
                        << May 2017 >>

                        読書メーター

                        uririnの最近読んだ本 uririnの今読んでる本

                        新刊チェック

                        selected entries

                        categories

                        archives

                        recent comment

                        • 『夏空に、きみと見た夢』飯田雪子
                          uririn
                        • 『痺れる』沼田まほかる
                          uririn
                        • 『絶望ノート』歌野晶午
                          uririn
                        • 『夏空に、きみと見た夢』飯田雪子
                          いちれん
                        • 『痺れる』沼田まほかる
                          くり
                        • 『絶望ノート』歌野晶午
                          智広
                        • 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』辻村深月
                          uririn
                        • 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』辻村深月
                          苗坊
                        • 『永遠の0』百田尚樹
                          uririn
                        • 『永遠の0』百田尚樹
                          苗坊

                        recent trackback

                        recommend

                        recommend

                        recommend

                        recommend

                        recommend

                        recommend

                        悪人
                        悪人 (JUGEMレビュー »)
                        吉田 修一
                        読み終わった後も余韻に浸りたくなるような…これは、すごい。

                        recommend

                        しずく
                        しずく (JUGEMレビュー »)
                        西 加奈子
                        サイン本買っちゃった。

                        recommend

                        recommend

                        たぶん最後の御挨拶
                        たぶん最後の御挨拶 (JUGEMレビュー »)
                        東野 圭吾
                        猫なんです…。

                        recommend

                        recommend

                        recommend

                        ねこの肉球 完全版
                        ねこの肉球 完全版 (JUGEMレビュー »)
                        荒川 千尋,板東 寛司
                        たまらん。

                        recommend

                        ニャ夢ウェイ
                        ニャ夢ウェイ (JUGEMレビュー »)
                        松尾 スズキ, 河井 克夫
                        たまらん…

                        recommend

                        recommend

                        僕たちの戦争
                        僕たちの戦争 (JUGEMレビュー »)
                        荻原 浩
                        とにかくお薦め。

                        recommend

                        出口のない海
                        出口のない海 (JUGEMレビュー »)
                        横山 秀夫
                        たくさんの人に読んでほしい…

                        links

                        profile

                        search this site.

                        others

                        mobile

                        qrcode

                        powered

                        みんなのブログポータル JUGEM

                        使用素材のHP

                        Night on the Planet フリー素材*ヒバナ *  *

                        PR