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    『イレギュラー』三羽省吾

    イレギュラー
    イレギュラー
    三羽 省吾 2006年 角川書店 P.331
    ★★★★★
    「安心しろ。俺は別に同情なんかしていない」
     とても静かな声だった。
    「被災と避難生活については、俺は何もしてやれん。どれくらい苦しい状況なのか知らないし、積極的に知ろうとも思わない。たかが高校野球の監督風情が救えるような境地じゃない。そうだろ?」
     コーキは何も応えなかった。黙って、輪郭しか判らない結城を睨み付けていた。
    「中途半端に同情されるくらいなら、放っといて欲しいって言うんだろう? 放っといてやるよ、所詮はあかの他人だ」

    台風による水害で、壊滅状態となった村を離れ、未だ復興の目途も立たぬまま避難所の仮設住宅で春を迎えた県立蜷谷高校、通称「蜷高」の野球部の面々。

    中でも、素質は全国レベル、態度ならメジャーレベルの剛速球投手、3年生のコーキは、鬱屈する気持ちを持て余し、町へ繰り出しては、ケンカやナンパ三昧の日々を送っていた。

    そんなコーキ達のために、手を差し伸べるのは、選抜甲子園での活躍も記憶に新しい、名門の私立圭真高校、通称「K高」の野球部の青年監督、結城。

    早速合同練習の初日から衝突する両校のエース(どちらもただの野球バカの)コーキと狭間。

    狭間の不注意な「頑張れ」のひと言にぶち切れたコーキは、K高相手に勝負を挑み、ものの見事に玉砕してしまい、初めて監督に教えを乞うことに。

    もともとの素質の上に、過去には甲子園請負人と呼ばれていた監督、大木のアドバイスを素直に聞き入れるようになったコーキの投げる剛速球は、K高のエース狭間も認めざるを得ないほどで…。

    やがて夏の甲子園大会の地区予選会が始まり、K高と戦うことしか目に入っていなかったコーキの前に立ちはだかるのは、一回戦で当たってしまった、K高に次ぐ優勝候補の千寿工業高校。
    被災した村民たちが見守る中、試合は意外な展開を見せ…。

    「『バッテリー』のあさのあつこ大推薦!!
    まさにイレギュラー! 物語が思いもしない躍動を見せる。
    そのくせ、おもしろさは直球だ。
    そうか、野球と人間てこんな風に繋がるものなんだ。
    『太陽がイッパイいっぱい』『厭世フレーバー』の三羽省吾が描く、ダメダメ野球部のむやみに熱い青春ストーリー登場!!」だ、そう。


    「抱腹絶倒」とは、この本にこそふさわしい、と私は思う。
    太陽がイッパイいっぱい』『厭世フレーバー』と、尻上がりに来て、一気に開花したような…。

    これでもか、これでもかと畳み掛けるような怒涛の展開もさることながら、会話のテンポといい、キャラの設定といい、絶妙で、それでいて、「罹災地のその後」という深刻なテーマを孕んでいて、すごく考えさせられるところもあって…。

    この本の面白さを伝えきる言葉を持ってない自分の語彙の乏しさが情けなくなるくらいに感動した。

    甲子園の地区予選大会までに、彼らにふりかかる数々の困難を「ありえねーっ」ウルトラCで乗り越えるのも、なんか納得してしまうし…いや、もみあげをマジックでって…そこはもう本当に腹抱えて笑ってしまったし。

    狭間君に「野球の神様」が降臨するくだりも…。

    面白感動場面を抜き出そうと思ったら、一晩かかりそうなので、とりあえず未読の方には、是非読んでみてもらえたらと。

    地元の、生え抜きの選手でチームを作るというのも、何か高校野球の本来あるべき姿というか、だからこそ面白くて、応援したくなるんだということを、つくづく思い知らされたかも。
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      『厭世フレーバー』三羽省吾

      厭世フレーバー
      厭世フレーバー
      三羽 省吾 2005年 文藝春秋 P.227
      ★★★★
      今日日どいつもこいつも簡単に「殺したい」「死にたい」「逃げ出したい」などと口にするが、そんなもの儂に言わせれば厭世ごっこだ。喰うにも困らず寝る場所もあり、何が不足なのか。一切分からんし、分かりたいとも思わんわい。

      リストラされた挙句に、ふらりと家を出て行ってしまった須藤家の父。

      たちまち経済状態は切迫し、実家に呼び戻された唯一の働き手である、お兄ちゃんは、やたらと皆に説教を垂れるようになった。
      爺さんのボケ具合は進行し、母さんは昼間から酒浸り、高校生の姉さんは毎日、深夜に帰宅する。

      そして「酔っ払うには若過ぎる、遊び歩くにゃ金がない、周りにとやかく言うには頭が悪い、とはいえボケるにゃハッキリし過ぎてる」14歳の「俺」は、この事態をどう解釈して良いのか分からずに、ただ「ムカついて」いた。

      そんな家庭崩壊の危機に直面した須藤一家の、「14歳」の弟、「17歳」の長女、「27歳」の長兄、「42歳」の母親、「73歳」のお爺ちゃん、それぞれの思いが、1章ずつリレー形式で描かれる。

      「俺がかわりに殺してやろうか。父親が失踪。全力疾走のはてに少年は血の味を知った―家族の崩壊と再生をポップに描いた快作誕生。」だ、そうな(ちょっとニュアンスが違うような…)。


      面白い!
      三羽さんの、一作目『太陽がイッパイいっぱい』より、文章がすっきりした感じで、読みやすくて、めちゃくちゃ面白い。

      家族全員のキャラが良く出来てて…。
      弟の「ムカつき感」も、お姉ちゃんの「醒めてる感」も、お兄ちゃんの「責任感」も、そして何より、お爺ちゃんの「ボケ具合」が何とも良い。

      新聞読んでる爺ちゃんに向かって「何読んでんの? また死亡欄?」て…。

      どの章の話も、ものすごく良くできてると感心してしまった。
      弟の同級生の女の子の家庭の話も…。
      お兄ちゃんの職場の同僚の意味深な言葉の意味も。
      お爺ちゃんの過去も。

      そして、須藤家の諸々のことが徐々に明かされていって…。

      バラバラに思えた家族が、最後のイベントで一気に盛り上がって、最後に訪れる一体感と爽快感。
      本当に面白かった。

      猫の名前に「部長代理」って、可愛いけど、呼びにくそう…。
      お父さんも、帰って来たらいいのにな。

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        『太陽がイッパイいっぱい』三羽省吾

        太陽がイッパイいっぱい
        太陽がイッパイいっぱい
        三羽 省吾 2002年 新潮社
        ★★★★★
        なんだかんだで物事は進む。それを悲劇にするか喜劇にするかは、本人の意志次第だ。だから、ワケが分からなくなったり気が滅入ったりすることの多い世の中だけど、取り敢えずシラけたりせずに頑張っとけ。春は来る。

        講義も、友達関係も、コンパやナンパも、えっちだけの恋愛も、何もかも現実味のない絵空事のような大学生活を送っていた、三流大学に籍を置く、大学生のイズミ。

        イズミは、ただ黙々と身体を酷使し続け、腹がへったら、飯を食い、酒を飲み、酔っ払い、そして眠る、という、いたってシンプルな生活に、それまでの学生生活では感じることができなかった現実味を感じ、痛みを伴うリアリティに魅入られ、大学に背を向け、それまでの日雇いよりも割のいい「マルショウ解体」の親方に引き抜かれたことをきっかけに、解体屋のバイトにどっぷりとはまりこむことにした。

        数ある解体業者の中でも素人集団のレッテルを貼られた「マルショウ解体」の面々は、真剣勝負の一日の肉体労働を終えると、京阪電車の駅近くの、どぶ臭い、ガード下の立ち飲み屋で、下は16歳のヤンキー上がりから、上は60歳のロートルまで、みんなで土手焼きをあてに酒やビールを煽り、てんでに笑い、声を荒げ、野球の話や女の話で盛り上がり、サラリーマンの時間帯になると、交替するように、引き上げていく、という毎日を送っていた。

        そんな「マルショウ解体」の稼ぎ頭でもあり、超問題児でもある巨漢でマッチョな、暴れん坊の「カン」が、いつものように現場に遅れてやってきたことから「マルショウ解体」に危機が訪れる。

        その日もいつものように飲んでいた面々であったが、現場の癸欧任△襦屮潺筌拭廚ら、遅刻のことで絡まれた「カン」が、翌日から現場に来なくなってしまったのだ。

        1.5人分の仕事をしていた「カン」の穴埋めに、残業を強いられ、仕事の後のガード下の一杯にさえ、付き合えないほどにみんなの疲労はどんどんたまっていく。
        そんないっぱいいっぱいの現場で、とうとう第二、第三の離脱者が…。

        一方、デート中、カツアゲ現場に遭遇してしまったことから、たちの悪い「チーム」に戦いを挑むことになる「カン」。

        リストラのために、小さな子供を抱え、ぎりぎりの生活を強いられ、46歳で土方デビューを果たした、元証券会社のサラリーマンの「ハカセ」。

        最低賃金で仕事を引き受けざるを得ない、「マルショウ解体」の、ヤクザもびびる親方の苦悩。

        そして、現場でイズミを見初めた大手ゼネコン会社の「イヤな笑顔」の現場監督の「ツボイ」。

        それぞれのストーリーが絡み合い、イズミの意思に関係なく、決められていくイズミの未来…。

        大阪を舞台に繰り広げられる、「汗、恋、喧嘩、ツユだく大盛り! 工事現場で働きながら、もがき苦しみ笑い転げる青春真っ只中男たち。第8回小説新潮長篇新人賞受賞作。」だ、そうな。


        主人公なのに、なぜかイズミの影が薄かったような。
        ごんたくれの「カン」や、モデルみたいに男前なのに「おもろい顔」専の「クドウ」や「ハカセ」や親方や、あんまり出てこなかった「ハラケン」でさえも、周りのみんなが個性的すぎて…。

        親方がイズミに言った「おもろいおもんないで仕事やられるのは迷惑や、オマエ以外の連中は、イッパイいっぱいのとこでこの仕事をやっとんねん。」の一言は、ほんとにその通りだなと思った。
        イズミが「ハカセ」に言った言葉には、「そのおせっかいが、どんだけ相手を傷つけるのか、わからんのか、このボケが」と、これは私の心の声。

        イズミはやっぱり中途半端で、青臭い。
        まあ、それがイズミの良いところなんだろうけど。
        そして、これからイズミがどんな大人になっていくのか…。
        後悔しないのか…気になるところかも。

        何にせよ、日頃馴染み深い、京阪沿線の「森小路」や「千林商店街」などの地名や、大阪弁、土方の兄ちゃんに、お下劣な下ネタや、さむいギャグ…笑いのツボは、なかなかはまってしまった。

        池上遼一の劇画にバカボンのキャラ…は、やっぱ合わんやろうな…。

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