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    『家日和』奥田英朗


    奥田英朗 2007/4/10発行 集英社 P.235 ¥1,470
    ★★★★
    この子たちを産んでよかった。考えてみれば、ずっと家族からしあわせをもらっていた。……
    紀子は何度も花に目をやり、その都度「ありがとうね」と言った。
    このしあわせな気持ちで、あと十年は平気だと思った。
    自分には家族がついている――。         〜『サニーデイ』より〜

    妹から勧められて始めたネットオークションにはまる主婦。
    落札者から良い評価をもらう度に心に張りが出て、肌まで若返っていくことに気付き、とうとう物置に眠っていた夫の大切にしていたギターにまで手を伸ばし…『サニーデイ』

    会社が倒産してしまい、突然無職になってしまった一家の主。
    そして段取り良く妻が昔の職場に復帰し、当然のように家事を受け持つことにした夫は、自分の意外な才能に目覚め…『ここが青山』

    冷却期間を置くために妻と別居することになり、家具のなくなったマンションに一人取り残された夫。
    とりあえず、カーテンとソファーだけでも…と、店を巡るうち、これまでの妻好みのインテリアで飾られた部屋の居心地の悪さに気付き…『家においでよ』

    他、『グレープフルーツ・モンスター』、『夫とカーテン』、『妻と玄米御飯』の6編から成る「家庭」がテーマの短編集。

    「いい人は家にいる。
    ずっと外にいた夫の王国か。ずっと家にいた妻の城か。
    ビター&スウィートな〈在宅〉小説。
    2007年 奥田英朗のオンリー・ワン!」だ、そう。


    前作の『町長選挙』から約一年ぶり?の奥田さんの待望の新作(たぶん)。
    『マドンナ』や『ガール』の路線かな。
    やっぱり奥田さんの本は、安心して楽しめるというか…。

    ネットオークションに嵌って、開き直る主婦の「ばれたらそのときだ。喧嘩になったら泣いてやる。」の台詞がやけに可愛くて、この手は使えるなと。

    『ここが青山』の「人間到る処青山在り」という諺は全く知らなかった(無知?)ので、またひとつ賢くなってしまったなと。
    そして、ここに出てくる夫が息子に何とかブロッコリーを食べさせようと、あれこれ工夫する姿が涙ぐましくて…でも、なんでそこまで拘る???と思わなくもない。
    この妻の逞しさは絶対見習いたいし。

    『家においでよ』の、部屋を次々と自分好みにしていく夫の気持ちはすごく良く分かるし、家に帰りたくない夫たちの気持ちも…男の人って家に居場所がなくて大変だなと。
    ここに出てくる部屋は夫たちの理想なんだろうだけど、女の私にとってもかなり理想的(雑誌に出てくるような部屋はお洒落だけど、実際は居心地悪そうで、そんなとこに住みたいとは思わない)。

    『グレープフルーツ・モンスター』の在宅の主婦の、たまの訪問者への期待感も、『夫とカーテン』の妻がどんどん夫を見直していくのも、『妻と玄米御飯』での、結局は妻に頭のあがらない夫の姿も、奥田さんが書くから、こんなに面白くなるんだろうなと。

    殆ど家の中での話なので、家の中大好きの私には結構たまらんし、これ読んで「家庭を持ちたい!」と、今さらながら結婚願望がむくむくと…、遅すぎたかもだけど。
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      『真夜中のマーチ』奥田英朗

      真夜中のマーチ
      真夜中のマーチ
      奥田 英朗 2003年 集英社
      ★★★★★
      …重ねた手の上に、ストロベリーがお手をした。思わず三人で見る。ストロベリーは涼しい顔だった。
      「急展開ですね」とミタゾウ。
      「引き返せないね」と千恵。
      ヨコケンが「ナウズ・ザ・タイム」と節をつけて言い、手を切った。アルファロメオを発進させる。
      この先は危険がいっぱいだ。でも怖くなかった。一人じゃないし、十億だし。

      「男性は一流企業、国家公務員限定」の出会い系パーティー。
      企画したのは「お持ち帰りしたい放題」の噂を自らインターネットで流し、モデルの卵をサクラで雇い、カモをひっかけ、美人局の要領で脅しをかけ、金をせしめるプロデュース会社「ビパップ」の25歳の若き社長、ヨコケンこと、横山健司。

      その日のカモは、何と旧三田財閥、三田グループの御曹司?
      首尾よく女に食いついた三田を相手に、やくざの古谷と手を組み、要求した額は三千万。
      しかし古谷の事務所に現れた三田という男は、どんな脅しにも屈しないばかりか、家柄にそぐわないはずの女との結婚も厭わないという、変り種…。

      取り損ねた三千万のカタに、自慢のポルシェを取り上げられてしまった上、マンションの賃貸契約の保証人にさせられたヨコケン。
      何も知らされず、マンションの賃貸契約を結ばされたミタゾウこと、三田総一郎。
      二人が借りさせられた高級マンションでは、夜な夜な金持ち相手の賭場が開かれているという…。

      そんなこんなで手を組んだヨコケンとミタゾウは、古谷の開く賭場のアガリをくすねようと、人気のなくなったマンションに忍び込み、そこで別口の侵入者、全身黒ずくめの美女に遭遇し、いつの間にやら、女の計画に乗せられ、彼女の父親から十億もの大金を横取りすることに……。

      「獲物は十億円。男二人と美女一人+犬一匹 目指すは完全犯罪……だったのに。
      泥棒がいっぱい。
      新たなるスラップスティック小説の誕生!」
      だ、そうです。


      まさに、ドタバタ。
      十億の金を巡って、三人の他に、やくざや中国マフィアが絡んできて…って、ベタな展開のようだけど、やっぱり奥田さんならでわのキャラが良いので、なかなか面白かった。

      「人生の目標は、大金をつかんで派手に遊ぶこと。そして大物扱いされること。」が最大の望みだという、若くして、少しの労力で大金を手にする快感を覚えた、ヨコケン。

      リゾート開発もされていない最後の楽園、キリバス共和国への移住を夢見る、一流商社のダメ社員、むっつりすけべで鈍臭い、けれど驚異的な記憶力と集中力の持ち主、ミタゾウ。

      金にも男にも不自由することなく育ち、無理に笑顔を作ることに嫌気がさし、モデルの仕事を開店休業中の「平凡な人生など願い下げ」と言い切る、高飛車で、クールなクロチェこと、黒川千恵。

      クロチェが誰よりも信頼している愛犬、賢くて頼もしい、ドーベルマンのストロベリー(私も、一番好きかも)

      そして、売り出し中のやくざのフルテツ、クロチェの豪気な父親の白鳥、馬鹿ブラザーのタケシ…みなさん、それぞれ個性が強くて…。

      物語が進んで、視点がヨコケン→ミタゾウ→クロチェと移っていくにつれ、ヨコケンが、どんどんただの気のいい兄ちゃんになっていくようで…、ミタゾウは、逆に生き生きしてくるような。

      このドタバタ劇が、どういう結末を迎えるんだろうと…とわくわくしながら読んだけど、なるほど、そうくるか、と感心してしまった。

      やくざのフルテツには、少し気の毒なような気もしたけど…。

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        『ウランバーナの森』奥田英朗

        ウランバーナの森
        ウランバーナの森
        奥田 英朗 2000年 講談社文庫
        ★★★★★
        「しあわせ?」と聞かれれば嘘でも「しあわせ」と人は答える。それはまるで、そうありたいための自己暗示のようなものだ。
        けれどそれのどこが悪いというのか。うぬぼれと思い込みがなければ、人生はつらいばかりじゃないか――。

        1979年の夏、軽井沢で4度目の隠遁生活を迎えた世紀のポップスター、38歳になったジョンは、人生で初めての便秘に苦しんでいた。

        下剤も浣腸も、何をどれだけ試してもいっこうに出てくる気配もなく、やがて胸まで苦しくなり、下腹部の激痛に耐えられなくなったジョンは病院へ行くことにした。
        そんなジョンのために妻が探してきたのは、夏の間だけ開いているという「アネモネ医院」。

        そして通院することになった医院からの帰り道、森の中で、ジョンは会うはずのない人間に遭遇し、昔の恨みを晴らされ、ボコボコに殴られる。

        次の日にもまた、会うはずのない、昔のガールフレンドの母親と遭遇する。
        ジョンは昔、彼女にひどいことを言ったことを、とても後悔していた。

        そして、さらに絶対に出会いたくない人を夢に見てうなされる。
        ○○○は出なくなって、もう10日以上だ…。

        若い頃、さんざん悪事をやり倒したジョンは、息子が生まれたことで少しずつ変わり始め、日本で平穏な生活を送っていたかのように見えたのだが…。


        文庫版のあとがきに「フィクションで彼の伝記の空白部分を埋めてみたかったのだ。」とあるように、実在していた「世紀のポップスター」をモチーフにした物語。

        私は、全く洋楽を聴かないけど、それでもこのグループの曲ぐらいは知ってる。
        でも、その人がどんな人物だったのかまでは知らない。
        知らないけど、この本を読んでものすごく親近感を覚えてしまった(実際はそうじゃないんだろうけど)。

        前半部分は、本当に出るものが出ないことの苦しさが延々と描かれていて、それはそれでめちゃくちゃ面白かったけど、いったいこの物語はどこへ行くのか心配になった。

        トイレでのふんばり方が、それはもう…、本当に痔になるのでは、と心配するぐらい。
        馬鹿馬鹿しいけど。

        後半は、え?便秘からこうくるのか…というような意外な展開。
        彼の出会う亡霊の謎や、彼が一番愛してほしかった母親との関係が明らかになっていって…。

        なるほど日本の、この時期には、そういう意味があったのかと感心してしまった。
        「ウランバーナ」って、そういう意味なのか…と、勉強になった。
        そして、最後はすっきり。

        に、しても、ジョンの子どもの頃の性格は、まるで伊良部のようで、奥さんの性格は「サウス・バウンド」の母親のようだ。
        なるほど、ここが原点…なのかな。

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          『マドンナ』奥田英朗

          マドンナ
          マドンナ
          奥田 英朗 2005年 講談社文庫
          ★★★★★
          これまで思いきったことは何ひとつしてこなかった。周囲がそうするように大学を出て、会社に就職した。結婚して家を建てた。口では自分を一匹狼タイプだと言っていたが、そんなものは嘘だ。結果を恐れ、欲望を抑えてばかりいたのだ。これを言うと、あとが気まずくなるとか、人間関係が壊れるとか……ぶち壊してみたい。痺れた頭で思った。どうせ人に語られるような人生ではないのだ。大事に生きてどうなるというのか。

          荻野春彦42歳、営業三課課長。
          結婚して15年になる彼は、これまで三度、部下になった女子社員に恋をしたことがある。
          ただし、一度もそういう関係に至ったことはなく、ただ夢想をして楽しむにすぎない。頭の中で恋愛をして楽しむ、罪のない遊び。
          決して妻が怖いからではなく、ただ、勇気がないのだ。
          そして今回、定期人事異動で三課にやってきたのは、完全に彼好みのタイプの女の子。
          しかも、部下の一人も、どうやら彼女に気があるらしい。
          飲み会の後、同じ方向のタクシーに乗り込む部下と彼女を見送り、家に帰ったあとも、二人のことを考え、悶々とする。
          「好きになってはいけない」自分に言い聞かせる。けれど、好きになってしまった。この気持ち、どうすればいいのか…『マドンナ』

          田中芳雄46歳、営業四課課長。
          高校二年生になる息子が「大学へは行かない。ダンサーになる。」と言い出した。
          ダンスなんかで食っていけるものか。
          同期の五課の課長のことでも頭を悩ませている。
          運動会や、社員旅行に参加せず、部下にも自由にさせているこの同期の存在を疎ましく思う上司から、何とかしろと釘を刺されているのだ。
          芳雄の片付けなければならない問題は二つ。
          息子に、大学受験をさせること。
          同期の男を、会社の方針に従わせること。
          けれど、心のどこかでは、そんな彼らがちょっぴり羨ましかったりする…
          『ダンス』

          恩蔵博史44歳、総務部第四課課長。
          彼には、二年後に局長のポストが待っている。
          局長候補は、一旦現場から外すのが彼の会社の習わしとなっており、彼にとっては初めての事務系部署への異動だった。
          営業とは全く勝手の違う、ぬるい総務の雰囲気に戸惑いを隠せない。
          しかも、何やら業者と癒着があるらしい。
          契約書もなしに、ただ同然の場所代で、地元の商店に購買部を任せているという。
          業者からの袖の下もつっぱね、これまでの慣例を打ち破ろうとする彼に、周囲の人間は何とか懐柔しようとするのだが…『総務は女房』

          田島茂徳44歳、鉄鋼製品部・第一課課長兼部次長。
          前任者の部長の異動に伴い、次は自分が…と一人小躍りしたのも束の間、新しい部長は、他の部署から抜擢された、同い年の女だった。
          外資系の銀行を経て、中途採用でこの会社に入社した新しいボスは、海外勤務が長かったため、ほとんどの社員が顔も知らないような人物。
          「中途採用の女より、自分の評価は低いのか」と、予想もしなかった事態に、一人毒づき、ため息をつく。
          しかも新しいボスは、美人で、切れ者で、結婚もして、子供までいて…。
          その女には、まるで隙がなかった…『ボス』

          鈴木信久45歳、営業推進部第一課課長。
          彼の勤める土地開発会社が手がけた巨大プロジェクト「港パーク」。
          蓋を開けると、オフィスビルや、高層アパートは完売したものの、お台場に人気をさらわれ、土日には人が集まらず、ゴーストタウンと化してしまう街。
          彼のオフィスから見下ろせる、港パークの店舗テナントはいつも閑古鳥が鳴いている。
          そんな閑散とした、店舗の中庭のベンチで、いつもゆったりと本を読む老人。
          その風貌から、密かに「おひょいさん」と呼んでいた。
          彼には、その老人の姿が、自分の父親と重なり、ある時、つい声をかけてしまう。
          次の日から「おひょいさん」は中庭に姿を見せなくなってしまった…『パティオ』
          の、5編から成る短篇集。


          「上司の事、お父さんの事、夫の事を知りたいあなたにもぴったりの一冊です。」と書いてあるように、40代半ばの中間管理職の気持ちが、すごくよくわかる。

          部下の女の子に恋をしても、何とか自制しなくてはならず(そうでない人もいると思うけど)、子供の将来に頭を悩ませ、親の老後を心配し、部下にも、上司にも気を遣い、あげく妻からは邪険にされ…。
          なんだかほんとに一番大変な時期なのかもしれないな…。
          ストレス溜まりそうで、可哀相。

          しかも、出てくる女子社員や、妻や、女性の気持ちもすごくよく描かれててびっくりする。
          可愛がってくれる上司には、多少お愛想をふりまくし、かといって踏み込まれては困るし、そのさじ加減は難しい。
          家に招いて、きちんと釘を刺す妻も、賢くて…。

          『ダンス』の、女子社員に人気のある「スナフキン」と呼ばれる、五課の課長みたいな人、実際に身近にいて、確かにそういう人、私も好きなので笑ってしまった。
          『パティオ』に出てくる「おひょいさん」も好き。
          私も年を取ったら、こんな風になりたいと思った。

          職場の、40代の男の人達に、これからは少し優しくしてあげようかな、と思わせるような本。
          まあ、人にもよるんだけど…。

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            『町長選挙』奥田英朗

            町長選挙
            町長選挙
            奥田 英朗 2006年 文藝春秋
            ★★★★
            神経科がある地下に行くと、そこは薄暗く、すえたような臭いがした。おい、ここかよ。そうひとりごちてドアをノックする。中から「いらっしゃーい」という甲高い声が聞こえ、中に入るとよく太った中年の男がいた。名札には「医学博士・伊良部一郎」とある。

            『イン・ザ・プール』『空中ブランコ』に続く、トンデモ精神科医、伊良部シリーズ3作目。

            今回、伊良部のもとを訪れたのは、
            プロ野球界の再編問題で世間を騒がせた、日本一の発行部数を誇る「大日本新聞」の代表取締役会長であり、プロ野球・中央リーグの人気球団「東京グレート・パワーズ」のオーナーでもある田辺満雄、通称「ナベマン」。

            オーナーたちに嫌われたため、プロ野球界への参入こそ失敗に終わったが、カリスマ経営者としての名声をほしいままにした若きIT長者、安保貴明。通称「アンポンマン」。

            「中年なのに若々しい」という理由で、四十歳を過ぎてからブレイクし、今やドラマに引っ張りだこの、東京歌劇団出身の女優、白木カオル。

            プロ野球のオーナーは、暗闇や閉所に脅える「パニック障害」に悩まされていた…『オーナー』

            若きIT長者は「若年性アルツハイマー」で、幼稚園児生にもできるようなことが、できなくなっていた…『アンポンマン』

            自然体が売りの女優は、目の下の一本の小皺が気になり、精神安定剤を必要としていた…『カリスマ稼業』

            どこかで聞いたような話、の3編と、
            4年に1度の、町長選挙を控え、町をあげての壮絶な選挙戦が繰り広げられる、東京都でありながら、ある意味、治外法権の離島に二ヶ月間赴任することになった伊良部。
            伊良部の素性を知った町長候補たちは、何とか伊良部を選挙戦の味方につけようとあの手、この手で伊良部を懐柔しようとするのだが…表題作『町長選挙』の計4編から成る、連作中短編集。


            これまでとは、ちょっと趣が変わっていて、これはこれで風刺が効いてて、面白い。
            どんな有名人が相手でも、伊良部は好き放題、押さえ込み、大好きな注射を打ち、失礼な言葉を浴びせかける。

            ナベマンに往診を依頼されても「いやだよーん」で一蹴し、アンポンマンに「ぼくがネクタイ締めないの、何でか知ってます?」と聞かれれば「首が太いから?」と最もな答えを返す。

            しかも、この二人の主治医であることが世間に知られ、一躍「名医」と祀り上げられたりする。

            そして、やっぱりみんな、伊良部のもとを訪れずにはいられなくなってしまうのである。


            今回のマユミさんのキャラ、ちょっとこれまでと違う…。

            「カリスマ稼業」のラストのページは、心にぐさぐさぐさぐさ突き刺さる。
            ほんと、なんと情け容赦ない…。
            とほほ。
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              『サウスバウンド』奥田英朗

              サウス・バウンド
              サウス・バウンド
              奥田 英朗 2005年 角川書店
              ★★★★★
              世の中にはな、最後まで抵抗することで徐々に変わっていくことがあるんだ。奴隷制度や公民権運動がそうだ。平等は心やさしい権力者が与えたものではない。人民が戦って勝ち得たものだ。誰かが戦わない限り、社会は変わらない。おとうさんはその一人だ。

              東京の下町で喫茶店を営む母、広告会社の経理をしている歳の離れた姉、二つ下のおしゃまな妹。
              そして、ぼくは、学校で友達と遊ぶのが大好きで、学校帰りには先生に行ってはいけませんと言われるような、ちょっといけない場所にも立ち寄る、ごく普通の小学6年生の11歳の男の子。

              そんなぼくらの父は、元過激派だったらしい。
              今は自称小説家で、いつも家でごろごろしている。
              区役所の年金課のおばさんが家に取り立てに来れば「年金を払うのが国民の義務だというなら、じゃあ国民やめた」と胸を反らせて言い放ち、学校の先生が家庭訪問にやって来れば「君が代」や「天皇制」について、無茶な質問をして困らせる。
              その返答が気に入ったのか、先生を訪ねて学校まで押しかけ、修学旅行の積立金の高額さに不正を感じ、抗議し、ぼくを困らせる。
              何より「学校なんて行かなくていい」と常日頃から口にする父。

              ぼくは涙ながらにこう思う「普通のおとうさんがいい。会社へ行くおとうさんがいい。」

              そんな父親だけでも悩みの種なのに、ぼくと、ぼくの友達は皆から恐れられている地元の中学生に目をつけられてしまい、小汚いトレーディングカードを渡され、一万円で売り捌けと命令される。言うことを聞かなければ、容赦なく殴られる。

              「不良中学生と、地雷のような父。どっちかにしてくれよと神様に言いたくなる」ほど、心を曇らせる毎日。晴れ晴れとした気持ちで、ご飯を腹いっぱいに食べたいと心から願うぼく。

              そして、父を頼って居候をしていたおじさんの、ある事件をきっかけに家族は東京の家を引き払い、父の故郷である沖縄へと、突然引っ越すことになる。

              不良少年ともきっちりカタをつけ、大好きな友達や、ちょっぴりいいなと思っていた女の子とも別れを告げ、一家は、姉一人を残して、東京の暮らしを捨てて、沖縄の西表島へと移住する。

              電気もガスも通っていない、ジャングルのような廃村の廃屋に住み着いた一家。
              そこでの父は、人が変わったように、朝からよく働き、生き生きとしている。
              母も何だか若返ったように見える。
              近所の住民達からの援助もあって、食べ物には苦労しない。
              ペットに(本当は乳搾り用)、山羊ももらった。
              ようやくここでの生活に慣れた頃、また父の「腹の虫」の治まらない問題が起き、父は自分の信念に従い、闘いを開始するのだが…。


              奥田さんの頭の中って、どうなってるんだろう…。
              何を書いても、面白くて、心に響くし、笑わせて、泣かせる。
              父親の破天荒さもすごいけど、その父にとことんついて行こうとする母親もまたすごい。
              どうして結婚したの?というぼくの問いに「もらってくれたから」と答える母親がとても素敵だと思った。

              東京での友達、黒木や、居候のアキラおじさんや、西表島で出会う、ベニーさんや、巡査さんたちも、みんなみんな魅力的で、大好きだ。

              こんなお父さん、いたら困るかもしれないけど、こんな人間は、たくさんいたらいいなと思う。
              何より、自分もそんな風に生きられたら、いいなとも。
              パイパティローマが本当にあったらいいな。

              最後の「アカハチ」の話の締めくくりに、涙が出てしまった…。

              「南風」といえば、ラッツ&スターの歌の歌詞が真っ先に頭に浮かんでしまうんだけど。
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                『最悪』奥田英朗

                最悪
                最悪
                奥田 英朗 2002年 講談社文庫
                ★★★★

                少しでもいいことがあると、その数倍の量で悪いことが自分にのしかかってくる。
                まるで人の運命を弄ぶかのように、悪魔がどこかでほくそ笑んでいる。
                もうたくさんだ。殺してくれてかまわない。

                従業員がたったの二人、の小さな町の鉄工所の社長は、月曜の朝、まだ早いうちから、午前8時に納品しなければならない荷物を積み込み、タイヤの擦り減ったトラックを走らせていた。

                親の勧めるまま、銀行員になった女は、湿気のこもった電車に揺られ「つまらない毎日だ」と思いながら仕事に向かう。

                パチンコとカツアゲで、日々を食い繋ぐプータローの男は、バタフライナイフをポケットに突っ込み、アパートを後にした。

                月曜日で、雨降りで…。
                そんな「最悪」の日が、彼らにこれから訪れる、本当の「最悪」の始まりの日となった。

                工場の社長は、近隣の住民から、工場から出る騒音のことで苦情を受けていた。
                プータローの男は、仲間から、工場のトルエンを盗む計画をもちかけられていた。
                銀行員の女には、銀行の恒例行事である「新歓キャンプ」の回覧が回ってきていた。

                そして、最初は些細な出来事から、底なし沼に足を踏み入れるように、3人は、それぞれの「最悪」の事態を迎える。

                そしてある日、3人は、それぞれの立場で、必然的に出会ってしまう。
                二人の銀行強盗と、一人の人質として…。

                そこから三人の奇妙な逃亡劇が始まるのだが…。


                一旦物事が悪いほうへ転ぶと、連鎖的に悪い方向へ向かってしまうことは、経験上よくあることで…。
                に、しても、気の毒なのは、工場の社長だと思う。
                彼は本当に悪くない。
                どちらかと言えば、人が良すぎる。
                そして、その人の良さゆえにこうなってしまうのだけど…。
                何だかそれは、やり切れない。

                数年前、ハードカバーのこの本を見つけて、タイトルが目に飛び込んできて、思わず手にしてしまった。
                普段文庫にしか手がでないのに、何故か本に呼ばれた気がした。
                きっとその時の自分も、こんな気分だったんだと思う。
                そして、読み終わってみて、何だかとてもすっきりしたのを覚えてる。

                少し、希望が見えた気がして。

                ドラマでは、沢田研二が町工場の社長を演じていたから「えっ、あのジュリーが…」と絶句した。
                だって、私の中のジュリーは、樹木希林が、ポスターの前で「ジュリー」と、身悶えていた、あのジュリーのままなので…。
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                  『空中ブランコ』奥田英朗

                  空中ブランコ
                  空中ブランコ
                  奥田 英朗 2004年 文藝春秋
                  ★★★★★
                  伊良部総合病院の地下一階…。
                  「経営者一族なんだから、もっと日当たりのいい部屋にしろよ」
                  と、言われてしまうほど、薄暗い倉庫のような場所に掲げられた「神経科」のプレート。
                  おそるおそるドアを開けると「いらっしゃーい」という場違いな伊良部の明るい声。
                  「イン・ザ・プール」の続編。

                  サーカスの花形、空中ブランコのフライヤーの男は、キャッチャーを信用できず、不眠症に悩まされていた…「空中ブランコ」
                  先端恐怖症のやーさんの男は、さんまの頭にさえ恐れおののく生活を送っていた…「ハリネズミ」
                  伊良部の学友の男は、いつか義父のかつらを掴み取ってしまいそうな衝動に駆られていた…「義父のヅラ」
                  人気者のルーキーの出現が面白くない野球選手は、思うところに返球できないことに悩んでいた…「ホットコーナー」
                  人気女流作家は、渾身の作が思うように売れず、嘔吐症に悩まされていた…「女流作家」
                  以上の5篇から成る傑作連作短編集。

                  やっぱり今回も爆笑させていただきました…。
                  学生時代の伊良部もやっぱり伊良部のまんまで…。
                  医学部の厄災と呼ばれた伊良部。
                  子供の相手ならできるだろうと小児科にまわされたが、子供と同じレベルで喧嘩をするため、神経科に転科した伊良部。
                  日本医師会の有力者を父親にもつ伊良部。
                  国家試験に受かったときには、フリーメーソンの関与説まで出た伊良部…。
                  今回も、患者たちは伊良部のとんでもない荒療治によって癒されていく…。

                  そして今回もマユミさんはやっぱり良い人だ。
                  小説が書けなくなってしまった女流作家に最後にかけた一言…。
                  「言葉は宝物だ」とまで感動させるたった一言の重み。

                  続編もあるそうなので、とても楽しみ。



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                    『イン・ザ・プール』奥田英朗

                    イン・ザ・プール
                    イン・ザ・プール
                    奥田 英朗 文藝春秋 2002年
                    ★★★★★
                    伊良部総合病院の地下一階、倉庫のような、運動部の部室のような…すえた臭いまでただよってきそうな、そんな廊下の先にある「神経科」のプレートのかかった診察室のドアをおそるおそる開けると、中からは「いらっしゃーい」という甲高い声が響く…。
                    そこには、色白の丸々と太った医者と雑誌をめくり面倒くさそうに対応する看護婦がいた…。
                    ここに足を踏み入れる患者は必ず伊良部の大好きな注射を打たれる。
                    そして二度と行くものか、と思いつつ、また足を運んでしまう…。
                    そして不思議とどんな心の病も、いつの間にか治ってしまうのだ。

                    『イン・ザ・プール』には、表題作の他、『勃ちっ放し』『コンパニオン』『フレンズ』『いてもたっても』の5篇が収められている。
                    伊良部は、一言でいえば金持ちの苦労知らずのボンボンだ。
                    だけどちっとも嫌味じゃない。
                    好奇心旺盛で、新しいものにはすぐに食いついて、何にでもチャレンジする。
                    マザコンで、泣き虫で、自分勝手で、恥知らずで…。
                    こんな可愛い魅力的な人間見たことないラッキー
                    そして看護婦のマユミさんも、一見無愛想で、怖そうなんだけど、本当はとても優しい…。
                    『フレンズ』の主人公の携帯中毒の少年に「友達いないんですか」と聞かれて「いないよ」とへーぜんと答える。
                    「淋しくないの」と聞かれて「淋しいよ」「でも、ひとりがいいの、らくだし」と答える。
                    正直で、強くて、とても魅力的な人だ。
                    伊良部とマユミさんと患者さんあっての物語、そして読んでる私も、伊良部に心癒されてしまう。

                    3月に文庫化されるそうなので、そちらの装丁もどんななのか楽しみ。
                    持ってるだけでも、本の装丁見てるだけでもすごく嬉しくなるような本だから…。
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                      邪魔

                      邪魔〈上〉邪魔〈下〉

                      邪魔〈上〉
                      邪魔〈下〉
                      奥田 英朗 2004年 講談社文庫
                      ★★★★

                      小さな綻びから、取り返しのつかない事態へと自ら破綻していく男。
                      つまらない夫を持ったがために、しなくてもいい苦労を強いられ、追い詰められる女。

                      本屋さんで「邪魔」というタイトルを初めて見たとき、無性に心惹かれた。
                      「邪魔」「邪魔」「邪魔」って…考えれば考えるほど残酷な二文字だと思う…。
                      女は裏切られ、利用され、踏みにじられて、それまでの平凡な主婦から、どんどん逞しくなっていく。
                      家族を守るためには何だってする。

                      最初に手にした奥田さんの本がこれだったから、その後をものすごく期待していたのに、最近この手のもの、書いてくれなくて少し淋しい…。伊良部も好きだけど…。


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