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    『福袋』角田光代

    福袋
    福袋
    角田光代 2008/2/29発行 河出書房新社 P.232 ¥1,365
    ★★★★
    ……ひょっとしたら私たちはだれも、福袋を持たされてこの世に出てくるのではないか。福袋には、生まれ落ちて以降味わうことになるすべてが入っている。希望も絶望も、よろこびも苦悩も、笑い声もおさえた泣き声も、愛する気持ちも憎む気持ちもぜんぶ入っている。福と袋に書いてあるからってすべてが福とはかぎらない。袋の中身はときに、期待していたものとぜんぜん違う。安っぽく、つまらなく見える。ほかの袋を選べばよかったと思ったりもする。それなのに私たちは袋の中身を捨てることができない。……

    「やばそうな人」と「そうでない人」を見分けることのできる駅ビルの洋菓子屋で働く葛原さん。店に入ってきた一見「やばくなさそう」な見知らぬおばさんから「すぐに取りに来るから」と、中身の分からない大きな段ボール箱を無理矢理押し付けられてしまい、箱の中身を店のみんなでいろいろ想像してみたものの…『箱おばさん』

    別々の部屋に引き込む、生活習慣の異なる夫婦。妻が毛嫌いする「拾いグセ」が治らない夫が今回拾ってきたのは、手書きでタイトルの記された数本のビデオテープ。早速自分の部屋でテープを1本ずつ見始めた夫は、ビデオの元の持ち主に自分たちの姿を重ね…『イギー・ポップを聴いていますか』

    夫婦揃って離婚届を提出した帰り道、夫と別れ、ひとりぼっちになった妻は、公園で見知らぬ若い母親から、赤ん坊を押し付けられてしまい…『白っていうより銀』

    社内で「フシギちゃん」と陰で呼ばれる年長の派遣社員、長谷川さんに彼氏の愚痴をこぼしたことから、一緒にご飯を食べることになった十歳年下の「私」。お酒が進むうち、長谷川さんの壮絶な過去の恋愛話を聞かされて…『フシギちゃん』

    母親の四十九日の法要の後、母の遺言に従って遺産を分配することになった、四人兄妹。それぞれの使い道に思いを巡らせる兄妹たちが、遺言状を開けてみると…『母の遺言』

    別の相手とやり直したいと家を出て行った夫宛てに届いた同窓会の案内状。代理で出席することにした妻は、夫の同窓生達から、自分の知らない大学時代の夫のエピソードを聞かされて…『カリソメ』

    同棲生活をはじめることにした、恋愛経験の少ない似たもの同士の男女。引っ越してきた一軒家の玄関先から動かない一匹の犬を異様に気にする彼女の奇行に、彼女の意外な一面を見た彼氏は…『犬』

    両親から縁を切られたろくでなしの兄の行方を捜すために、兄に逃げられた兄の結婚相手と称する面識のないケバイ女と、土地勘の全くない「大阪」へ遠路はるばるやってきた「私」。兄の行方などどうでもいいと考えていた「私」は、女のペースにすっかり嵌り…『福袋』の8編から成る短編集。

    「私たちはだれも、中身のわからない福袋を持たされて、この世に生まれてくるのかもしれない…
    人生に当たりハズレなんてない!?
    直木賞作家が贈る8つの連作小説集」だ、そうで。


    『母の遺言』の遺言の中身の意外さには驚かされたけど、母親って「女」だし…なんだかものすごく納得できるようなお話で、それ以前の兄妹たちのバトルというか、そういうのも結構面白くて好きなお話。

    『犬』も、お互いのことをまだ良く知らないでいる恋愛馴れしていない男女が一緒に暮らし始めて、こんなことでこうなるのかと、何か身につまされるようなお話で。

    もしも私が結婚したら、きっとこうなるだろうなぁと思える夫婦の関係というのが、なかなか絶妙で、相手のこと、どれだけ知っているのか、本当に知っているのか、知ってなくちゃいけないのか、知らないほうがいいのか、なんだかぐるぐると考えさせられてしまうようなお話が多かったような。

    何が入っているのか分からないからそそらてしまう「福袋」。
    期待しすぎて、開けてがっかりすることの方が多いけど、普段自分では買わないようなものでめっけものなんかがあったりするのも「福袋」ならではなのかもなと。
    結局は自分の心の持ちよう次第と言うか。

    そして、どれだけ相手が分からなくても『フシギちゃん』の、長谷川さんの真似だけは絶対にしたくないなと。こわすぎるし。

    JUGEMテーマ:読書
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      『三面記事小説』角田光代

      三面記事小説
      三面記事小説
      角田 光代 2007/9/30発行 文藝春秋 P.260 ¥1,300
      ★★★★
       私は今から警察にいく。膨れ上がった借金と止むことのない督促に困り果てたからではない。これは私の最後の賭けだ。警察沙汰にすることで、彼の人生に関わることができるか否か。彼の感情を、たとえそれが負の方向へでも動かせるかどうか。私は彼を笑わせたい、笑わせることができないのなら泣かせたい、泣かすことができないのなら怒らせたい、怒らせることができないのなら、絶望させたい。なんでもいい、私はここに、あなたのそばにいるのだということを彼に知らしめたい。            〜『ゆうべの花火』より〜

      夫の浮気を疑い、しじゅう愚痴をこぼしていた姉からの電話がぱったりと来なくなり、心配になった妹は、様子を見に姉夫婦自慢の庭付き一戸建ての家を訪れてみることに。
      近所でも噂になるほど、姉夫婦の評判は悪く、家にはトタンでこしらえたバリケードがはりめぐらされており、顔を覗かせた義兄は家にも入れてくれず…『愛の巣』「26年前に殺害 男自首」平成16年8月23日付 読売新聞

      会社の同僚であり、不倫相手である恋人の気持ちが離れていくのを食い止めようと、ネットの闇サイトに恋人の妻への嫌がらせを依頼する女。
      女の依頼は次第にエスカレートしていき、ついには殺人を依頼したものの…『ゆうべの花火』「警察に相談 32歳女逮捕」平成17年9月15日付 毎日新聞

      離婚後、二人の子供を引き取って育てたものの、子供たちが大きくなるにつれ、疎ましがられるようになる母親。
      ろくに家事もせず、娘の服を無断で拝借し、街をふらつく母親が、時間潰しに立ち寄る漫画喫茶で顔見知りになったアルバイトの高校生と付き合うようになり…『彼方の城』「16歳男子高生にみだらな行為 38歳女逮捕」平成17年11月17日付 中日新聞

      街で出会っても挨拶さえしなくなった、今は別々の高校に通う中学生の頃の親友。
      いつかは東京に戻ってしまう担任の美術教師を慕う親友の為に、当時中学生だった少女が思いついたのは…『永遠の花園』「担任給食に薬物混ぜる」平成17年4月25日付 読売新聞

      有名進学校に通う高校生の姉と、同じ中学を希望したものの受験に失敗し、姉のことを無視するようになった妹。
      小学生の頃いじめに遭い、それからずっと妹だけが頼りだった未だに友達のできない姉は、入学した中学校で沢山の友達を作り、毎日楽しそうに両親にその日の出来事を話す妹の日記を盗み見してしまい…『赤い筆箱』「中一女子殺される 自室で勉強中男が押し入り」平成4年3月5日付 毎日新聞

      認知症の母親ために仕事も辞め、つきっきりで介護する冴えない中年男性。
      かつてはいた恋人との結婚を母親に強く反対され、未だに独身の男は、過去の確執から母親を未だに憎み続ける姉の手を借りることもできず、働くことができるという理由から、生活保護の申請も却下されてしまい、この先どこまで続くのか分からない今の生活に疲れ果ててしまい…『光の川』「介護疲れで母殺害容疑」平成18年2月3日付 朝日新聞

      「私は殺人を依頼しました
      恋人の妻を殺してほしいと頼みました――
      誰もが滑り落ちるかもしれない記事の向こうの世界
      現実がうみおとした六つの日常のまぼろし
      バリケードのような家に住む姉夫婦、妻殺害をネットで依頼した愛人の心の軌跡など"三面記事"の向こう側を鮮やかに描いた小説集」と、いうことで。


      「この小説は実際の事件を発想の発端にしているが、フィクションであり事実とは異なる。」と、最初に注意書き(?)してあるように、あくまでも実際に起きた過去の事件をモチーフにしてあるだけだけど、この想像力というか、創造力は凄まじいものがあるなと。

      角田さんの『八日目の蝉』を読んだ時にも、「あれ?今までと違う」と感じたけど、それがいっそう強くなったというか。

      結構どれも記憶に新しい事件ばかりで、新聞を読んだ当時「なんじゃこりゃ」と不思議に思えた事件も、もしかしたらこういうことがあったのかもしれないなと、これを読んで納得できてしまったような。

      『愛の巣』の、姉と比べて、幸せな結婚生活を満喫していると思い続けていた妹の足元のすくわれ方が結構好きだし、『ゆうべの花火』の、ネットで殺人を依頼する女の、男に対する執着心はあきれるほど馬鹿馬鹿しいけど、そこまで狂えるって逆に凄いなと感心してしまう。

      『彼方の城』の、高校生の男の子を軟禁する主婦の一家は不気味としか思えないけど、被害者扱いの高校生の子も、一体何を考えていたのかなとも思えてしまうし。

      『永遠の花園』の事件は、新聞記事で読んだのを一番覚えてた事件で、事実より、こういう動機であったなら、分かりやすくてまだ納得がいくかなと…。

      仲の良かった姉妹の『赤い筆箱』も、姉の歪み方が何となく分かる気がするし、介護に疲れた中年の息子が母親を殺害してしまうという『光の川』は、他人事ではなくて、きっと誰の身にも起きることかもしれなくて、こうなった時、自分ならどうするかというのを一番考えさせられた事件かも(お金さえあれば…と、常に思っているけど、それが一番大変なんじゃないかなと)。

      新聞の三面記事を読んでも、そこに書いてある少ない情報だけでは事実は全く見えてこないし、その事件の奥に、どれだけの人の思い(憎しみとか悲しみとか妬みとか苦しみとか…)があったのかなんて、他人にはきっと解るはずもないから、こういうの読むと少し安心してしまうのかも。

      に、しても『ゆうべの花火』の、不倫相手の男の要求は可笑しすぎて(それ、普通男女逆じゃないの?というか)、言いなりになる女の気持ちは理解に苦しむし、私なら、男の妻より、この男になら何とか復讐の手段を考えるかもなと(その前に、多分一発グーで殴って、さっさと別れてしまうと思うけど)。
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        『太陽と毒ぐも』角田光代

        太陽と毒ぐも
        太陽と毒ぐも
        角田 光代 2007/6/10文庫化 文春文庫 P.288 ¥550
        ★★★★
        私たち二人ともに欠如したたくさんのものごとのなかに、結婚観と人生観の欠如というのは歴然とあって、それはたとえば、大きな病のようなものだと私たちは思っている。ふだん、白血病のことなんか考えない。それはどこか遠いところにあって、運悪くかかってしまう人もいるが、自分の身には降りかかってこないと楽観的に信じている。結婚も人生もそれによく似た何かで、だからこそ、私たちはへらへらと日々を過ごし、この先、とか、二人の関係、とか、将来、とか、言い合わなかった。そういう気遣いを、相手と自分にしていた。                      〜『未来』より〜

        一週間に二度しか風呂に入らない女「キタハラスマコ」と付き合っている「おれ」。付き合い始めのころは物珍しさから、ワイルドでたのもしいと笑い話にできていたものの…『サバイバル』

        他、記念日フェチ、もしくは予約強迫観念症の彼女…『昨日、今日、明日』

        不用品ばかりを通販でばかばか買いまくる「購入癖」を持つ彼氏…『お買いもの』

        何事も秘密にしておけない、ずばぬけて開けっぴろげな性格の彼女…『57577』

        何かにつけ古めかしい迷信を持ち出しては、それを実行する彼女…『雨と爪』

        彼女の誕生日よりも、ジャイアンツの一勝に重きを置く野球バカの彼氏…『100%』

        三十歳になっても万引きをやめようとしない彼女…『共有過去』

        一日三食をジャンクフードで済ませる彼女…『糧』

        大酒のみで酒癖の悪い彼女…『二者択一』

        付き合って5年、同棲して4年になる上手くいっていたはずのカップルが、始めての海外旅行でお互いの嫌な面をまざまざと見せつけあう…『旅路』

        女癖が悪く、三十を過ぎても定職を持たず、嘘つきで、いつもへらへらしている彼氏。
        だからそんな男とは別れた方がいいと、友人たちからぼろくそに言われても、それでも一緒に暮らしているのは…『未来』

        の、付き合ったり、一緒に暮らしてはいるものの、どうしても許せない相手の性癖や習慣に苛立ちを覚え、別れを切り出そうとして、でもできなくて…といった「だらだら続くしあわせな恋人たち」の「ばっかみたいな日常」を描いた11編からなる短編集。

        「晴れときどき 毒の雨
        恋人たちの平凡な日常に起こる小さなすれちがいや諍いを描いた、キュートな11のラブ・ストーリー。」だ、そうで。


        ラブ・ストーリーとは言っても、なかなかダークなラブ・ストーリーばかりで…男と女の本音の部分がすごく分かる気がする。

        同棲しているカップルたちの「絶対にここだけは譲れない部分」のようなものが殆どの作品に描かれてて、今ちょっと一緒に暮らしたいかなと思う相手のいる私には、身につまされるようなお話が多くて…特にその一緒に暮らしたい理由が最後の短編、『未来』の主人公と似たような気持ちなので、こういうのも全然ありなんだなと安心してしまったというか(愛してるからとか、好きで好きでたまらないとか、そんなんでは全くなく…)。

        そういう経験がないので「同棲」と「結婚」の違いが私にはいまいち良く分からなかったけど、なるほど「同棲」とは、こういうことなのかと…。

        『糧』に描かれてる「食生活」の違いは、私にもきっと耐えられそうにないし、『旅路』の海外旅行先での、旅行に対する思い入れの「男と女の違い」みたいなものは、めちゃくちゃ良く描かれてるし、この二人は、日本に帰ってこの先どうなるのかな…と、とても気になる。

        結構漠然とした終わり方の話が多かった分、リアリティがあって面白かったかも(実際、こんなふうに、どこかで折り合いをつけていくしかないというか、それでも…というか)。

        そして『共有過去』に出てくる「蟹缶丼」がたまらなく食べたくなってしまったので、これはぜひやってみようかなと(もちろん、ちゃんとレジ通して、買った蟹缶で)。
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          『八日目の蝉』角田光代

          八日目の蝉
          八日目の蝉
          角田 光代 2007/3/25発行 中央公論新社 P.346 ¥1,680
          ★★★★★
           ここではない場所に私を連れ出せるのは私だけ――かつて抱いた気持ちが唐突によみがえる。
           そうだ、どこかにいきたいと願うのだったら、だれも連れていってなんかくれやしない、私が自分の足で歩き出すしかないのだ。

          1985年の冬、不倫相手の男の家庭から、赤ん坊を連れ去り、逃亡の果てに辿り着いた地で、束の間、「薫」と名付けた娘と二人きりの親子としての暮らしを許された女。
          どうしても母親になりたかった「希和子」。

          娘に自分の全てのものを与え、少しでも長く、二人きりの時間が続けば良いと、ただそれだけを願っていた希和子の、幸せな時間は、ある写真をきっかけに脆くも崩れ去ることに…。

          そして2005年、20歳になった「薫」は、実の両親の元を離れ、大学に通う傍ら、生活費をバイトで稼ぎ、父親の役目を放棄した父や、家庭を放棄した母を嫌い、自分たちの家庭をめちゃくちゃにした、血の繋がりのない、かつて「母」であった女を憎むことで、かろうじて自分を保ちながら、黙々と、ただ生きることをこなす日々を送っていた。

          そんな「薫」のバイト先に、ある日突然現れたのは、2歳だった頃の「薫」と、ある施設で一緒に暮らし、よく遊んでいたという、千草と名乗る女。

          千草は、自分たちが当時置かれていた特別な境遇に「なぜ、自分でなければならなかったのか?」という疑問を抱いたまま大人になり、その答を求めるために「薫」を探し出して会いに来たのだという。

          そして「薫」も、これまで誰にも言えなかった胸のうちを初めて曝け出し、過去と向き合うことを決心し……。

          「逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか―――   
          理性をゆるがす愛があり
          罪にもそそぐ光があった
          角田光代が全力で挑む長篇サスペンス」だ、そうで。


          久々に魂が揺さぶられるような本に出会ってしまったかな、と。
          角田さんの新境地(全部読んでないから知らないけど)というか、これはなんだか凄まじい。

          かなりドキュメンタリータッチで、誘拐犯として逃げる女の逃げ場所も、かなり特殊な場所で、実際こうやってそういう場所に逃げ込む人たちもいるんだろうなと思わされるし、その受け容れ先のずるさも奥が深くて、生き延びるための人間の知恵のフル回転というか…。

          犯人なんだけど、赤ん坊を連れて逃げる女の切実な思いは、充分過ぎるほど解ってしまうし、このまま…とさえ思えてしまった。
          被害者なのに世論に叩かれる、実の両親の「どうしようもなさ」も…、なんとなくは理解できるかも。

          「なんでこんなしょうもない男の子供が、そんなに欲しい????」と、第三者なので思えるけど、実際の恋愛とは、そういうものかなとも(そういう男ばかりを好きになる、昔の自分の愚かさも知ってるし)。

          そうして、大人たちの身勝手すぎる行動で、何の罪もない子どもたちが、こんなに苦しんで苦しんで、心に空洞を抱えたまま、大人になってしまうというのは、読んでいてとても辛かったかな。

          なので「憎みたくなんか、なかったんだ。」という「薫」の台詞のくだりには、心底胸が熱くなってしまったし、「愛情」を充分知っているはずの「薫」が、これからしようとしていることにも、「きっと大丈夫」と言いたくなるような。

          タイトルの『八日目の蝉』の意味もすごく良いし、ラストの光景もあまりにも美しくて、いつか私もその景色を見たいなと…(近くだから、GWにでも本当に行こうかな、素麺食べに)。
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            『トリップ』角田光代

            トリップ
            トリップ
            角田 光代 2004年光文社刊 2007/2/20文庫化 光文社文庫 P.262 ¥520
            ★★★★★
             どうして結婚したのかと、どうして家庭をつくろうと思ったのかと、ときおり疑問に思うことがある。それは後悔ではなく、純粋な疑問だ。きっと今と逆のことをしていても、同じ疑問を抱いたと思う。どうして結婚しないのか、どうして家庭をつくろうとしないのか。つまるところ、あたしは高校生だったあのときと同じことを考えている。いったいあたしに選択権なんてものがあるのだろうか。何かを選んだつもりで、結局何ひとつ選んではいないのではないか。選択権も可能性も持たず、ただただ、待つためにここにいるのではないか。
            待つ。何を?                        〜『トリップ』より〜

            東京から電車で一時間半の私鉄沿線にある、何の変哲もない地方町。

            さびれた駅前のロータリーをまるく縁取るように本屋、不動産屋、喫茶店、居酒屋、古本屋、パチンコ屋などの数軒の店が並び、アーチをくぐれば、肉屋、八百屋、花屋、豆腐屋が軒を連ね、不思議なにぎわいを見せる商店街がある小さな町で、この町の暮らしに倦み、けれど、この町から出て行くという選択肢も持たないままに暮らし続けていくしかない人たち…。

            駆け落ち相手にすっぽかされ、日常生活に戻るしかない、道を踏み外してみたかった女子高生…『空の底』

            幼い子供を抱えてもなお、クスリに走ってしまい、夫は自分との結婚を後悔しているに違いないと考える専業主婦…『トリップ』

            独占欲の強い同棲相手の提案を受け入れ、仕事を辞め主夫業に専念することになった、ヒモ同然の専業主夫…『橋の向こうの墓地』

            さんざん男と遊んだ挙げ句にお見合い結婚し、肉屋に嫁いで15年。来る日も来る日も油にまみれたカウンターの中で客の相手をするだけの、まるでパートのような主婦…『ビジョン』

            酒屋に嫁いだ大学の同級生に片思いし続け、彼女のためにこの町に住み、ストーカーのように後をつけまわす男…『きみの名は』

            他、離婚と引き換えに店を貰った喫茶店の女主人…『百合と探偵』、学校でひどいいじめに合いながらも、新しい父親に期待する花屋の一人息子…『秋のひまわり』、ひがみ根性が染み付いた35歳の独身女、仕事の続かない古本屋のアルバイト店員…『カシミール工場』、不倫の末に家を出た女と一緒に暮らすことになった年下の男…『牛肉逃避行』。

            そして、この町からの脱出を試み、海外でホテル暮らしをする女…『サイガイホテル』の10編から成る、小さな町のどこかの場所で誰かと誰かが微妙にリンクする連作短編集。

            「平凡な街に暮らすふつうの人たちも 誰にも言わない秘密を抱えている。
            小さな不幸と小さな幸福を抱きしめながら生きる人々を、透明感のある文体で描く珠玉の連作小説。直木賞作家の真骨頂。」だ、そうで。


            『ビジョン』の主人公、さんざん恋愛して「そういうのはもういいの…」と、見合いでさっさと結婚を決めた、自身が最大の「はずれくじ」と自嘲する肉屋のおかみさんが、結婚を決めた理由「ゆるされている」という感じは、すごく良くわかるかも。

            『カシミール工場』の、ひがみ根性丸出しで、他人とうまく関われない主人公の「ショタコン」や、これまでもらったプレゼントの中身には、ちょっとひいてしまったけど…最後に彼女にこの品を選んでくれた人の思いやりに、ちょっと嬉しくなってしまった。

            そして『百合と探偵』の、喫茶店の女主人の「たぶん、今のあたしを、たとえば十七歳のあたしが見ていたら、……将来がこれだと知ったら、簡単に絶望していた…」という台詞を聞いて、そうならないために、ちょっと今から努力しとこうかなー、と反省したりして。

            たぶん昔の自分が見たらがっかりしてしまいそうな、今の自分の生活を、改めて考えさせられてしまったような一冊。

            『ビジョン』の主人公の友達の、五年後、十年後の「ビジョン」の話は、かなり本当だと思うし。

            実際高校生の頃、モジリアニの絵に憧れて「フランス人と結婚する」と言っていた同級生は、本当にフランス人と結婚して向こうで暮らしてるし…、そういう「ビジョン」をまず思い描かなければ、今の生活を変えることは出来ないのかもしれないなと(変えたいかどうか、そこが微妙なところなんだけど…ぬるま湯だし。でも、このままだと老後が心配だし…ううっ、三十年後、大金持ちになってたい)。
             
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              『薄闇シルエット』角田光代

              薄闇シルエット
              薄闇シルエット
              角田 光代 2006年 角川書店 P.256 
              ★★★★
              みんなが点のように通過していくその場所場所に、私だけが立ち止まり、今いるここにまで点ではなく線を引っぱってきて、そうしていつでもその線をたどりそこへ戻れると思っている。みんな戻ってきてくれるのだと思っている。だれも、そんな場所にはもういないというのに。

              大学時代からの友だち、チサトと二人で、下北沢の古着屋「チェルシー」を共同経営し、並みの男よりは稼ぎがあるという37歳、独身のハナ。

              仲間との飲み会の席で、彼氏の「タケダくん」が、みんなの前で言い放ったひと言に違和感を覚えてしまったハナは、「プロポーズされた幸せな女」を演じることができなくなってしまい…。

              それ以来「タケダくん」との関係はうやむやなまま、「結婚がすばらしい、よきものであって、それは自分にもたらされて当然の幸福だ」とはどうしても考えられないハナは、今の場所に留まり続けるための恋愛や、仕事について模索していくのだが…。

              「惑いまくったって、いいじゃんか。
              人生の勝ち負けなんて、誰が分かるというのだろうか。
              圧倒的リアルと共感が心にささる傑作長編。」だ、そうで。


              同世代で独身の私には、かなり「痛い」話…。
              「並の男より稼ぐ」、は抜きにして、「結婚」に対する考え方や、これまでの生き方はハナとかなり似てるかも。ひねくれてるし。

              「作り出すことも、手に入れることも、守ることも奪うこともせず、私は、年齢だけ重ねてきた」というのも、本当におっしゃる通りで、ごめんなさいという感じ。

              チサトとの関係も、こういう「取り残された感」や「嫉妬」や「見栄張り感」みたいなのは、昔さんざん感じた気持ちだなと…ようやく出来たかさぶたをはがされて、傷口に塩を塗り込まれるような痛みを感じてしまった。とっくに忘れてたのに…。

              「どうして結婚はしたくないのに恋愛はしたいの?」と訊かれてハナは「退屈してるから」と一応答えるけど…結局私もそういうことなのかなー、いや違うんじゃないのかなーと、色々と考えさせられてしまった。

              でも、今の私は「タケダくん」の言う、「今までしたくないって遠ざけてたことを、したいにひっくりかえしてやってみようと思った」に、一番共感できたかな。

              私が一番遠ざけてたこと…年末には本気で大掃除しないといけないなと(風水的にも良くないらしいし)。

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                『12星座の恋物語』角田光代、鏡リュウジ

                12星座の恋物語
                12星座の恋物語
                角田 光代,鏡 リュウジ 2006年 新潮社 P.252
                ★★★★★
                恋人と長続きしないのは、男運が悪いのだ、と言いたいけれど、本当は違う。薄々依子にはわかっている。自分は臆病なのだ。うんとうんと好きになったその先にどうなってしまうのか、わからなくてこわい。お金を貸してくれといわれれば消費者金融に借りてでも貸すかもしれない……     〜『ゆっくりさん 山羊座の私』より〜

                角田さんが紡ぐ、12の星座の「彼」と「私」の、ショートショートストーリー
                3.21‐4.19  牡羊座の彼…トップくん   牡羊座の私…まっすぐちゃん
                4.20‐5.20  牡牛座の彼…やすらぎくん  牡牛座の私…くいしんぼちゃん
                5.21‐6.21  双子座の彼…ライトくん   双子座の私…クールさん
                6.22‐7.22  蟹座の彼…ファミリーくん  蟹座の私…おうちちゃん
                7.23‐8.22  獅子座の彼…トクベツくん  獅子座の私…スペシャルさん
                8.23‐9.22  乙女座の彼…気づかいくん  乙女座の私…ちくちくちゃん
                9.23‐10.23  天秤座の彼…アンテナくん  天秤座の私…バランスちゃん
                10.24‐11.22 蠍座の彼…まるごとくん   蠍座の私…ヒミツさん
                11.23‐12.21 射手座の彼…スピードくん  射手座の私…わくわくちゃん
                12.22‐1.19  山羊座の彼…こつこつくん  山羊座の彼…ゆっくりさん
                1.20‐2.18  水瓶座の彼…風変わりくん  水瓶座の私…パンクちゃん
                2.19‐3.20  魚座の彼…はちゃめちゃくん 魚座の私…ラブ子ちゃん

                プラス、それぞれの物語の後の、鏡リュウジさんによる、各星座についての解説「○○座君の正しい見極め方」、「○○座女の本当のホント」、「○○座女性のテーマ」。

                「24の短篇小説と12星座の占星術。かつてない夢のコラボレーション!双子座の彼の本命は? 蠍座の彼女の謎の言動のわけは? 水瓶座男は何を考えているの? 乙女座さんが誰にも見せない秘密の趣味は? 星が教えてくれる本当のあなたの姿と彼の気持ち。12星座それぞれの男女を主人公に角田光代さんが書いた小説を、メディアで大人気の鏡リュウジ氏が占星術からガイドする、本邦初の星座小説。」だ、そうで。


                占いと小説のコラボって…まさに、どちらも好きな私には堪えられない一冊。
                数ある占いの中でも、星占い自体はあんまり信じてない方だけど、朝は「ズームイン派」の私は「今日の心配さん」の日は、やっぱりちょっと気にしてしまったりする。

                そして、読んでみて、自分の星座(山羊座)のところで、ちょっとびびってしまった。
                好きになった男に言われれば、消費者金融……、何か昔そんなこともあったかなぁと。
                まあ、「一緒に死んで」と言われたら、今の私なら、確実に「一人で死んで」と言うと思うけど…。

                でも、確かにものすごく臆病で、先のこと考えすぎて(自分ではこの性格を「石橋を叩いて壊す」と呼んでるけど)…その辺は良く言い当てられてた気がする。

                自分以外の、友達や知り合いの星座のところでも、「あー、そんな感じ」、「意外だけど、実はこんな面もあったりするのかな」とか、読みながらいろいろ楽しめたりした。

                愕然としたのは、昔付き合った人達の誕生日を、きれいさっぱり忘れてしまってたこと。
                まあ、遡れば何十年も前だったりするので、それも不思議ではないか…。

                なので、逆に本に書いてある「彼」のパターンから、「あの人は絶対獅子座だったに違いない」とか「あの人は蠍座っぽい」というような読み方になってしまったけど、それもまた面白いかも。

                でも、おそらく大半が「天秤座」だったような(解説を見てもらえれば、その理由は分かるかと…)。

                小説としても、占い本としても楽しめて…この先付き合うことがあるとすれば、この星座がいいなとか、まあ勝手に想像するだけでも楽しめたかな。

                何に対してもいい加減な私には、やっぱり「乙女座」が一番相性が良いのかも。
                かと言って「誕生日は?」と、いきなりは聞かないし…。
                結局同じ過ちを繰り返しそうな。

                0

                  『ドラママチ』角田光代

                  ドラママチ
                  ドラママチ
                  角田 光代 2006年 文藝春秋 P.265
                  ★★★★★
                  この十年近い年月、何をしてきたかといえば待つことしかしていない、来し方行く末に思いを馳せたこともなく、仕事か家庭かという贅沢な悩みすら抱いたこともなく、資格も取らず預金もせず、ただひたすら待つことで日を送ってきた。女友達が結婚だの離婚だのを乗り越えているあいだ、私は一歩も動けず同じ場所にいるのだ。〜『ヤルキマチ』より〜

                  陽の当たらない路地にある薄暗い喫茶店で、「夫の恋人」の仕事が終わるまで待ち続け、ストーカーのように女の後をつけまわすことが日課のようになっているという、時間を持て余す妻が、心待ちにしているのは…『コドモマチ』

                  十年近くも不倫相手の離婚を待ち続け、何もかもにやる気を失くし、人を見下すようになったという女。
                  男の妻をひと目見てやろうと、以前に調べた男の家を訪ねて行き…『ヤルキマチ』

                  落ちぶれてきたモデルの女は、彼女のことなら何でも知りたいという取り巻きの男の一人を、子供の頃住んでいた懐かしい街に連れてきたものの…『ワタシマチ』

                  クリスマスが来る度に、彼氏イナイ歴を更新する女。
                  結婚したばかりの女友達の新居に呼ばれ、引き合わされた男とデートをし、一夜を共にしたものの…『ツウカマチ』

                  歳とともに居づらくなった会社を退職し、喫茶店を開いて五周年を迎えた女。
                  彼女の恋愛運を全部吸い取っているかのような自由奔放な親友が、男にくっついて行った沖縄から戻ってきたと、久しぶりに店に顔を出し…『ゴールマチ』

                  昔憧れていた男と、付き合って6年、同棲して2年、騙されるように連れて行かれた男の田舎で、勝手に結婚を決められた女。
                  ここ数年の男のあまりの変身ぶりに幻滅しつつも、男の言うがままに、新居となるマンションを見に行き…『ドラママチ』

                  二世帯住宅で別々に暮らしているはずの義母にこき使われる嫁。
                  実の娘達でさえ付き合っていられないという、口の悪い義母の言動が近ごろ益々おかしくなり始め、病院帰りの義母に連れられて向かった先は、吉祥寺の駅近くの、やけに古めかしい喫茶店…『ワカレマチ』

                  結婚して五年、ある理由からセックスレスになってしまった夫婦。
                  自分から夫を誘うこともままならず、身体を動かすことで持て余している性欲を発散させようと、ジムでひたすら汗を流す妻は、アルバイト先の年下の男の子から個展に誘われ…『ショウカマチ』

                  「妊娠、恋愛、プロポーズ……女はいつも何かを待っている
                  女が求めているのはドラマなのだ!
                  中央線沿線の「マチ」を舞台に、小さな変化を「待つ」ヒロインたちの8つの物語。」そうかな〜?と、何も待つものがない私にとっては、少し不満の残る帯の文句。


                  まあ、どれもこれも、結構「痛い女」の話だったような…。
                  (角田さんが描く女の人は、それでも嫌いではないんだけど。)

                  言ってることは分かるけど、やってることはあまり良く分からないというか。
                  それとも、いくつかの話は、やってきたけど忘れてしまったことかな(思い出すと痛いから、封印した記憶かも)。

                  「りぼん」と「なかよし」の話は、懐かしくて面白かった。
                  そう言えば、昔、陸奥A子が大好きだった私は「りぼん」派だったなぁ、とか。

                  物語に必ず登場する、それぞれの街の喫茶店は実在しているらしくて、写真付きで、ブログで紹介されているのを見て、『ワカレマチ』に出てくる喫茶店にすごく行ってみたくなった(近ければ…)。

                  待つことが苦手な私が、あえて、何かを待っているとするならば「キュウリョウマチ」かな。
                  明日だし。

                  0

                    『対岸の彼女』角田光代

                    対岸の彼女
                    対岸の彼女
                    角田 光代 2004年 文藝春秋 P.288
                    ★★★★★
                    大人になれば、自分で何かを選べるの?
                    女の人を区別するのは女の人だ。既婚と未婚、働く女と家事をする女、子のいる女といない女。立場が違うということは、ときに女同士を決裂させる。

                    母親たちのしがらみを避け、公園を転々とすること。
                    娘が自分そっくりに一人ぼっちで遊んでいること。
                    自分と同年代の女性達が買うブラウスの相場がわからないこと。
                    働きはじめれば、これら全てのことが解決できるのではないか、と考え、仕事を探し始めた小夜子。

                    幾つもの会社の面接を落ち、やっと採用された旅行会社の、試験的に立ち上げたばかりのハウス・クリーニング部門を任されることになった小夜子は、厳しい研修期間中、仕方なく娘を預かってもらうことになった義母や、夫の嫌味にも耐えつつ、汚れのこびり付いた他人の家を綺麗に磨きあげ、研修が終わってからも顧客の獲得に懸命に働き、周囲からも認められる存在となった。

                    旅行会社の女社長、サバサバした性格の葵は、偶然同じ大学の出身で、同い年ということもあり、話もはずみ、何かと小夜子を気に掛けてくれる。

                    初めて新規の契約が取れた記念すべき日、小夜子は葵に誘われるままに、熱海行きの電車に乗った。
                    けれど、ふと、現実に戻された小夜子は、葵を残して、一人帰ることに…。

                    そして、会社の同僚たちから、葵の「暗い過去」を聞かされた小夜子は、葵が、高校生の頃、興味を惹かれた「心中事件」の主人公だったことを知り…。

                    小夜子の視点と、葵の過去の話が交互に描かれ「立場の違う二人」が、他者との関わりに一筋の光を見つけるまで、を描いた友情物語。
                    第132回 直木賞受賞作。


                    何で、今まで読まなかったんだろう…と後悔した。
                    多分、同年代の女の人なら、こういった「友達関係」で、一度は壁にぶち当たったことがあるような…。

                    お互いに、持っているものと、持っていないものが、あまりに違いすぎると、友達にはなり難いと思う。
                    熱海の海岸での、二人の決裂のシーンは圧巻で、どちらの言うことも、すごく良く分かる気がした。

                    葵の高校時代の友達「ナナコ」が、ものすごく愛しく思えた。

                    読み終わってからも、しばし余韻に浸ってしまうほど、色んな言葉が心に残る。

                    高校生の頃、友達と熱海のペンションに泊まりに行ったこと、思い出した(何かすごくおしゃれな気がして「ペンション」と名がつけば、どこでも良かった頃のこと)。

                    立場が違ってしまっても、一度「壁」をぶち破ってからの、会えば、相も変わらず馬鹿な話ができる友達って、有難いなと、つくづく思えた。

                    0

                      『空中庭園』角田光代

                      空中庭園
                      空中庭園
                      角田 光代 2005年 文春文庫
                      ★★★★
                      家族というのはまさにこういうものだとあたしはずっと思っていた。電車に乗り合わせるようなもの。こちらには選択権のない偶然でいっしょになって、よどんだ空気のなか、いらいらして、うんざりして、何が起きているのかまったくわからないまま、それでもある時期そこに居続けなければならないもの。信じるとか、疑うとか、善人とか、そんなこと、だからまったく関係ない。

                      田畑と高速道路に周りを埋め尽くされた「グランドアーバンメゾン」という何語かも意味も良くわからない正式名称を持つ巨大マンション。
                      通称「ダンチ」と呼ばれるこの集合住宅で暮らす、一見何の変哲もない、ごく普通の四人家族、京橋家。

                      京橋家のモットーは「何ごともつつみかくさず、タブーをつくらず、できるだけすべてのことを分かち合おう」。
                      かくさなければならないような恥ずべきことなど何もない京橋家には、決して秘密なんてないはずだった。

                      もうすぐ16歳になる長女のマナは、両親が自分を仕込んだのが「野猿」という名前のラブホテルだったことに、軽いショックを受けていた。
                      誕生日のプレゼント代わりに、ボーイフレンドにせがみ、両親の思い出のそのホテルに入ってみるのだが…『ラブリー・ホーム』

                      「あー、逃げてえ」という娘のボーイフレンドの口癖が、近頃癖になってきた一家の主、貴史。
                      貴史には、17年来の不倫相手がおり、最近はさらに会社に出入りする、巨乳の若い女とも付き合っている。
                      夫婦の関係は一度浮気がばれてから、キスさえも拒否されていた。
                      物分りの良かったはずの、お古の愛人が最近やたらと情緒不安定で彼につきまとう…『チョロQ』

                      少々ヒステリックなほどに幸せな母親を演じる京橋家の母、絵里子。
                      京橋家は絵里子の「完全なる計画」の元に作り上げられた家庭であった。
                      子供のころ、完全犯罪を夢見ていた絵里子が殺したかった相手は、今は離れて暮らす実家の母親。
                      実の母親に「母親失格」だと罵ったことのある絵里子は、自分は理想的な母親のつもりでいたのだが…『空中庭園』

                      絵里子との過去の関係を何とか修復したいと考える祖母。
                      バスの路線が複雑になって、「ダンチ」まで出かけて行くのがおっくうになった祖母は、あちこち身体の不調を訴え、何かにつけて電話で呼びつけ、絵里子にさらに疎まれる日々。
                      そんな祖母の元へ、孫が問題を起こしたという電話がかかってくる…『キルト』

                      長男コウの家庭教師の「ミーナ」。
                      彼女は自分の両親との関係から、「家庭」というものに嫌悪感を抱き、自分は家族を持たないと決めていた。
                      彼女の誕生日を京橋家で祝ってくれることになり、お招きに預かることにしたのだが…『鍵つきのドア』

                      姉から「ひきこもり」っぽいと思われている、京橋家の長男、中学3年生のコウ。
                      同じ「ダンチ」の別の棟に住む「ミソノ」という1つ年上の女子高生と、秘密の関係がある。
                      彼女は「前世が見える」という技をもっており、それによるとコウの前世は、19世紀のアンダルシア地方の貧しい家に生まれたヤリ○○で…。
                      そして前世の報いを現世で受けているのだという…『光の、闇の』

                      京橋家の家族と、家庭教師の6人の視点から語られる連作短編集。


                      読み始めは、なんとあけっぴろげで明るい、変な家族だろうと思ったら、実はどろどろだった。

                      この中では、コウの家庭教師の「ミーナ」に一番共感できたかもしれない。
                      おばあちゃんと「ミーナ」の対峙のシーンは、「何でこうなるの?」というか、想像しただけでも可笑しくて、気まずくて。

                      『空中庭園』のラストは、絵里子さんの心が砕ける音が聞こえてきそうで、とても怖かった。

                      最後に絵里子の兄が言った一言は、客観的に見ると全くその通りだと思う。
                      「母親のようになりたくはない、自分ならもっと幸せな家庭を作ってみせる」と、思っていても、実は母親と同じような母親になってしまっている。
                      「母親」って、そんなもののような気がする。

                      に、しても妻からも義理の母親からも、愛人からも「馬鹿」扱いされている、このどうしようもない夫って…。
                      映画のキャスティングを見て、妙に納得してしまった。
                      板尾か…うまいなぁ。
                      0


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                        読み終わった後も余韻に浸りたくなるような…これは、すごい。

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                        とにかくお薦め。

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                        横山 秀夫
                        たくさんの人に読んでほしい…

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