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    『真相』横山秀夫

    真相
    真相
    横山 秀夫 2006年 双葉文庫 P.336
    ★★★★★
    犯人は捕まった。
    佳彦の最期を知った。
    事件のすべてを知った。
    いや……。
    あと一つ。     
    〜『真相』より〜

    自慢の息子だった佳彦が殺されて10年…。
    犯人逮捕の一報に、ようやく「あの日」の全てを知ることができると、興奮さめやらぬ父親の耳に入ってきたのは、息子が「万引き」していたという事実。
    そして、その場にいたはずのもう一人の意外な人物…『真相』

    村長選挙戦に担ぎ出されたのは、一度は村を捨てて順調にエリートコースを突き進むはずだった男。
    周囲からは当選確実と太鼓判を押され、全てを捨てて選挙に臨む男には、今回の選挙戦に勝ち、どうしても隠し通さなければならない秘密があった…『18番ホール』

    リストラされ、金のためにと始めた人体実験のようなアルバイトのせいで眠れなくなってしまった男。
    深夜、気がつけばかつての職場へ足を向けてしまった男が、その夜すれ違ったのは、同じ団地の住人の車…そして、その直後に聞こえてきたパトカーと消防車のサイレンの音。
    近所で起こった「放火殺人事件」の聞き込みに訪れた刑事に、目撃した事実を話した男は、やがてそのことを激しく後悔することに…『不眠』

    大学時代の空手部での猛烈なしごきに耐え、社会に出て躓いてしまった男。
    農協を不本意な形で辞めさせられた男が、再就職のための面接で「これまで一番嬉しかったことは何か」と問われ、心に浮かんだ言葉は「友人が死んだ時――。」
    12年前の空手部の合宿中に起こった仲間の死の真相が明かされたとき、もう一つの悲劇が訪れる…『花輪の海』

    過去の犯歴がインターネットで晒され、アパートの大家からいきなり立ち退きを迫られ、住む所にも窮する夫婦。
    どこに逃げても珍しい苗字のせいで、やがては追われることとなる二人に、思わぬ助け舟を出してくれたのは、贖罪のために夫婦が課していた毎朝の清掃途中に出会う老人。
    老人の家に住まわせてもらうことになった二人が、老人の死後に託されたものは…『他人の家』の、5編から成る短編集。

    「隠蔽、誤算、保身、疑心暗鬼  
    事件の真相は、奥の奥の奥にひそんでいる。
    人間の心理・心情を鋭く描いた傑作短編集。」だ、そう。


    どれもこれも結構地味で暗い話だけど、それだけに他人事でない「大人」の話だなぁと、しみじみ…。

    帯にあるように、本当に事件の「真相」が奥の奥の奥にあって…「え、これだけじゃないの?」と、愕然としてしまう。
    本当に奥が深いというか、渋すぎるというか。

    特に印象に残ったのは『花輪の海』の過去の壮絶なしごきの場面。
    友人の死を、そんな風に思ってしまうほどの、人間が人間じゃなくなるほどのしごきに何の意味があるのか、女の私には良く分からなかった。
    今ならきっと大問題だなと。

    何か働き盛りの中高年のおじさまたちの悲哀がひしひしと伝わってくるような、辛いお話が多かったから、本当に心の底からエールを送りたくなってしまった。
    「愛は地球を救う」じゃないけど…「負けないで」と。
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      『震度0』横山秀夫

      震度0
      震度0
      横山 秀夫 2005年 朝日新聞社 P.410
      ★★★★★
      淡路島の映像が流れていた。道路が寸断され、地中の裂け目がぱっくりと口を開いている。
      大地なんて脆いもんだ……。
      警察組織も同じだと思った。日頃は「一枚岩」を装っているが、ひと揺れくればこのざまだ。あちこちに裂け目ができて、各部の連携も協力も寸断されて、それぞれが離れ小島のように存在している。

      日本列島に激震が走った朝、罹災の地、神戸から七百キロ近く離れたN県警を震撼させたのは、一人の男の失踪事件。

      組織の「へそ」であり、扇の要とも言える、N県警三千人の職員を抱える組織の筆頭課長、人事を司る警務課長の不破が、昨夜から官舎に戻らず、携帯にも繋がらないと言う。

      その日の朝、警務部長室では部長会議が招集され、トップシークレットとして、不破の失踪事件についての案件が扱われることに。
      不破の乗用車が意外な場所で発見されたことから、事態はよりいっそう深刻さを増し、失踪ではなく事件に巻き込まれたのでは、との見方も出てきた。

      いずれにせよ、このままではすまされない非常事態――。

      いなくなった不破の机の中に何か手がかりが残されていないか調べろと命令する、N県警ナンバー2、警務部長の冬木。
      頑なに冬木の命令を阻止しようとするのは、トップに立つ本部長の椎名。

      なあなあのはずの「キャリア兄弟」警察庁キャリア組の二人の間に突然生じる亀裂。

      そして会議に出席した準キャリアの警備部長、堀川、地元生え抜きの叩き上げの三部長たちは、それぞれの思惑と、野心を秘め、不破の失踪事件について、でき得る限りの情報を収集し、掴んだ情報をどう使うか、己の保身のみを考える。

      調査が進むうち、県警幹部6人の敵対関係をはじめ、それぞれの出世とプライドをかけた駆け引きが露わになり…。

      「このミステリーがすごい!2006年版国内編第3位 組織と個人の本質を鋭くえぐる本格警察サスペンス!」だ、そうな。


      「不破の失踪がN県警全体にとって重大かつ深刻な問題であることは確かだが、………ましてや、こんな時に内輪揉めなどしている神経は理解に苦しむ。」
      一人の男の、この台詞に尽きるかも。

      まともな神経の持ち主は、この人と、姿を消した、不破の奥さんだけだったような気が…。

      公舎内の人間関係が、妻達も含めて、あまりにも醜くて、滑稽で、読んでいてあほらしくなってしまった(特に元婦警の奥さん達)。

      震災の被害の甚大さがニュースでどれだけ伝えられても、この人達の心には全く届かず…。
      「震度0」という言葉を初めて知ったけど、なるほど「人間が感じない無感地震を震度0とし…」というのが、良く分かった。

      貫井さんの『愚行録』が可愛く思えるくらいの、本物の「愚行録」だったような…。

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        『影踏み』横山秀夫

        影踏み
        影踏み
        横山 秀夫 2003年 祥伝社 P.328
        ★★★★★
        十五年前のあの日、真壁は法を捨てた。
        焼き殺され、黒焦げになった啓二を、焼き場の釜で焼く。炎に包まれ、もがき苦しみながら死んでいったであろう弟を、もう一度、炎の中に送り込む。規則だと言われた。それが法律なのだと親戚と役人は口を揃えた。我を失った。拳を握り締めて走った。啓二の柩を焼き釜に送り込もうとする男たちをなぎ倒した――。

        15年前、家族三人を一度に失った真壁は、「ノビ」(深夜、寝静まった民家を狙い現金を盗み出す忍び込みのプロ)として、警察からは常にマークされる存在となっていた。

        2年前の事件で懲役を食らい、出所したばかりの真壁が真っ先に向かった先は、県立図書館。
        真壁が調べたかったのは、2年前に侵入した民家の主の生死。
        深夜に忍び込んだ真壁が、その家で目にしたのは、鼾をかいて寝入っている夫を見つめていたであろう、女の白いうなじ。
        その家にあるべきものが、ないことに気づき、女は、その時、夫を殺そうとしていたと考える真壁は、事件後離婚して行方のわからなくなっていた女の消息を追う…『消息』

        真壁とは馴染みの深い、雁谷署刑事一課の盗犯係長が溺死した。
        容疑者の一人として、任意の取調べを受けた真壁には、「仕事」をしていたその時間のアリバイがない。
        自分の無実を証明するため、刑事が入れ込んでいた女の元を訪れた真壁の目に留まったのは、女の肌に刻まれた赤い傷跡…『刻印』

        探偵を雇い、真壁の居場所を突き止めたのは真壁の幼馴染でもあり、しばらく連絡を断っている真壁の恋人、久子の友達でもあった。
        「久子を手離してはいけない」という女の真意は…『抱擁』

        真壁が「仕事」をしている界隈で、近頃発生していた「盗人狩り」に遭い、病院に運び込まれた真壁。
        「盗んではいけないものを盗んだ泥棒」の、とばっちりを受けた真壁は、自分をこんな目に遭わせた犯人を探し出し…『業火』

        クリスマスの夜、服役中に、刑務所内である男に頼まれた代理のサンタクロースになるため、プレゼントを探すことになった真壁。
        昔住んでいた家の荷物を預かってくれている屋敷を訪ね、たった一つ残った父親の遺品を受け取り…『使徒』

        顔見知り程度の中だった、泥棒仲間の死に立ち会うことになった真壁。
        意識があった頃、真壁の名を呼び、何かを託そうとしていたという男の、暗号のようなメモを頼りに、男の父親を探すことに…『遺言』

        疎遠になっていた恋人、久子が真壁を訪ねて、真壁の常宿「旅館いたみ」にやって来た。
        そしてその夜、旅館は炎に包まれ、真壁達は命からがら逃げ出した。
        久子をストーカーしていたという、見合い相手の男を疑う真壁は、男に会いに行くのだが…『行方』
        の7編から成る、連作短編集のような長編作?

        「横山秀夫が描く静かな感動。
        一人の女性をめぐり業火に消えた双子の弟。残された兄。三つの魂が炎のように絡み合うハードサスペンス。」です。


        行き場のない魂となった真壁の弟、啓二との会話に、最初は不思議な感じがしたけど、途中から、たまに啓二が答えてくれないと、淋しくなってしまった。
        19歳のまんまの啓二は、それよりも幼い感じで、すごく可愛い。

        横山さんにしては珍しく、警察ものではなくて、警察に追われる立場の泥棒という設定も、なかなか面白くて。
        一口に泥棒と言っても、その手口によって色々種類があるものだと、感心してしまった。
        隠語にも。

        読み始めは、地味な印象があったけど、だんだん面白くなって、心温まる話『使徒』には、ほろりとさせられ、最期は切なくなってしまう。

        ただ、弟の啓二がなんで泥棒になったのか、その選択がイマイチ良くわからなかった気がするんだけど…。
         
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          『出口のない海』横山秀夫

          出口のない海
          出口のない海
          横山 秀夫 2006年 講談社文庫 P.344
          ★★★★★
          我慢比べをしているだけではないのか。誰もが死にたくなくて、なのに、死にたい、死んでやる、と虚勢を張っている。そうではないのか。
          だが、そうだとは決して言ってはならない現実がここにある。その現実の中で今日、選ばれた人間となった。父も母も知らない。美奈子も知らない。誰も知らない世界で選ばれた人間となり、ひとり死んでいくことが決まった。

          太平洋戦争の火蓋が切られた1941年12月8日、その日、一人の若き投手が、「魔球」を投げることを宣言した。

          高校野球界では、甲子園の優勝投手として名を馳せ、有名大学から引く手あまただったにも拘らず、弱小野球部しかないA大学に入学した並木。
          将来を嘱望されていた並木だったが、肘を痛め、大学での3年間を棒に振り、再起は絶望視されていた。

          並木は復活のための「魔球」を完成させることを、瞳を輝かせ、バッテリーを組む剛原に打ち明ける。
          それは、野球部の仲間達の夢にさえなっていく。

          しかし、開戦から半年が経ち、それまでの日本軍の快進撃は影を潜め、戦局が逆転していく中、大学のリーグ戦は解散を通達され、徴兵が猶予されていた大学生達の中にも「自分たちだけ、のうのうとしてはいられない」と次々と志願し、出兵していく者が続出する。

          そしていよいよ、戦局は悪化し、「学徒出陣」が閣議決定され、否応なく並木自身も軍隊へと送り込まれ、ばらばらになる野球部の仲間達。

          その頃、海軍内部では秘密裏に、ある計画が推し進められていた。
          「爆薬を満載した改造魚雷に人が乗り込み、たったひとり暗い海の中を操縦し、敵の艦隊の横腹めがけて搭乗員もろとも突っ込む。それは筆舌に尽くしがたい壮絶な特攻兵器」人間魚雷「回天」の開発…。

          「魔球」の完成に一縷の望みを託していた並木が、なぜ自ら志願し、この決して生きては帰れぬ人間魚雷に、搭乗することを決意したのか、そして彼は死を目前にして何を思うのか…。


          「お国のため、家族のため、愛する人のため」に、自らが魚雷の部品の一部と化して、敵の艦隊へ突っ込んでいく。
          「日本は負ける」と、身に染みて感じていながら、並木は先を争うように「回天」の搭乗を志願し、度重なる厳しい訓練に耐えてまでも、死に急ごうとする。

          行きの燃料だけを積んだゼロ戦での特攻隊の話は知っていたけど、海の特攻兵器であった「人間魚雷」のことは、耳にしたこともなかった。
          なのでその存在を知って、愕然とした。

          整備不良やエンジンの故障で、出撃できずに基地へ戻ってきた者達に対する周りの目は冷酷で無慈悲で…。
          「何故生きて戻ってきた」と、蔑まれ、罵倒され、暴力を振るわれる。
          決して自ら、逃げたわけではないというのに…。

          共に出撃した者達や、共に夢を語り合った仲間達は、彼を置いてけぼりにして、どんどん先に逝ってしまう。
          そしてそんなことが何度も続くと「早く死ななければ」と強迫観念に囚われる。
          生きて帰ることが「恥」なのだと、嫌というほど、身体で覚えさせらる、それが軍国主義の時代。

          そんな定められた「死」の恐怖と真っ向から向き合い、「死」への執着と葛藤しながらも、「魔球」に込める思い。

          一度は夢を捨てようと、海に投げ捨てたボール。
          みんなの夢を託され、寄せ書きされたボールが、何度も波に押し戻されるシーンに、胸が痛くなる。

          「回天」のことを後世に語り継ぐために、死んでいくのだと語る並木。
          「魔球」を完成させることを、この世に生きた証にしようと決意する並木。

          今まで誰にも教えてもらったことのない、悲壮な歴史の真実に触れたような気がした。

          「さっきまで隣にいた人が明日にはいなくなる。それが戦争というものなのだろう。」

          「戦争なんて勇ましくも男らしくもない。ただ、悲しいだけだ――。」

          子供の頃は、まだ戦後が近かった。
          そして今、戦争がどんどん遠くなってる気がしてしまうので、こうして、小説や映画で「本当にあったこと」を思い知らされなければ、申し訳ないような気持ちになってしまう。

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            『クライマーズ・ハイ』横山秀夫

            クライマーズ・ハイ
            クライマーズ・ハイ
            横山 秀夫 2003年 文藝春秋
            ★★★★★
            下りるために登るんさ――。
            安西の言葉は今も耳にある。だが、下りずに過ごす人生だって捨てたものではないと思う。生まれてから死ぬまで懸命に走り続ける。転んでも、傷ついても、たとえ敗北を喫しようとも、また立ち上がり走り続ける。人の幸せとは、案外そんな道々出会うものではないだろうか。

            これまで挑んだ幾百人もの命を奪い「ワースト・オブ・ワースト」の異名を持つ標高差330メートルの衝立岩。
            そそり立つ衝立岩の岩壁に無謀にも挑もうとしているのは、間もなく定年を迎える、新聞社に勤める悠木和雅、57歳。
            17年前、同僚だった安西に誘われ、一度は挑戦しようとしたものの、その約束は果たされることはなかった。

            そして、今、共に衝立岩に挑もうとしているパートナーは、地元山岳会の若きエース、安西の忘れ形見である一人息子の燐太郎。
            切り立った岩壁を眼前にして、悠木は17年前を振り返る。

            昭和60年8月。
            世界最悪の航空機事故、日航ジャンボ機墜落事故。
            40歳になったばかりの悠木は、地元で起きたこの未曾有の巨大事故の全権デスクを命じられ、血気盛んな若き新聞記者たちに指示をとばしていた。
            類を見ない大惨事がために、情報は錯綜し、翻弄される悠木たち。

            いち早く現場に辿り着いた二人の記者たちの心に刻み込まれた凄惨な地獄絵図。
            過去の遺物にしがみつき、若い記者たちに嫉妬する社内の老兵たちとの確執。
            そして悠木に背を向け、拒絶する息子。
            当時の様々な思いが悠木の胸に去来する。

            あれから17年の歳月を経て、安西の残した謎の言葉の答えを求めて、悠木は衝立岩を、自分自身の手と足で、攀じ登っていく…。


            あまりの絶品さに、圧倒されてしまった。
            緊迫感といい、臨場感溢れる、壮絶な男の戦いといい…。
            「新聞社といえども、会社組織であることに変わりはない。」
            というのが、ものすごく良く解った。
            家族を背負って生きていくことの、しんどさも、男のプライドも、人間の弱さも。
            そして、父親って、こんな風に考えるものなのかと、すごく考えさせられた。

            随所に散りばめられている伏線の生かされ方も、上手いなぁと、ただただ感心。そして感動。

            事故現場が確認されたときの「山も深く傷ついていた…」のくだりは、心が震えてしまった。
            そういえば、遥か昔から、山は単なる景色ではなかったのだと…。

            そして、ラストは、こうなることを想像していなかったから、何だか得した気分になってしまった。

            「クライマーズ・ハイ」の意味も、よく解った。
            私は高所恐怖症なので、ロッククライミングとかしてる人を見るだけで尊敬してしまう。
            でも、そういう気持ちになれるのなら…羨ましい。

            NHKのドラマで、佐藤浩一さんが主人公やってたけど、ぴったりだったな…。
            何だか私はNHKのドラマしか、覚えてないみたいな気がしてきた。


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              『半落ち』横山秀夫

              半落ち
              半落ち
              横山 秀夫 2005年 講談社文庫
              ★★★★
              藤林は幾つもの強い視線を感じた。
              佐瀬がこっちを見ていた。植村も。そして、傍聴席の志木も。
              同じ質の視線だった。
              脅しではない。懇願でもなかった。ならばいったい何だ?
              藤林は息を呑んだ。
              当てはまる言葉が脳を突き上げたのだ。
              見守っている――。

              「人間五十年」
              その一言だけを書き遺して、妻殺しを自首してきた現職の警察官。
              梶聡一郎、49歳。勤続31年のW県警の警部であった。
              優しげな面立ちの生真面目な男。
              夫妻は、7年前に一人息子を白血病で失っていた。
              その息子の命日の夜、アルツハイマー病に侵され、壊れていく妻は、夫に「殺してほしい」と懇願したという。
              嘱託殺人――。

              取調にあたる、志木の疑問はただ一つ、妻を殺害した後、何故、実直な警察官であった梶が、自ら死を選ばなかったのか…。
              梶には、妻を殺害してから自首をするまでの二日間、空白の時間があった。
              その空白の時間は、とりもなおさず県警を揺るがす事態をも招きかねない。
              しかし、梶は犯行後の行動については、口を堅く閉ざしていた。

              そして、事件に関わる全ての人間が見守る中、裁判所で梶に下されたのは「懲役四年」の実刑判決。
              梶の心の中は、本人だけにしかわからないまま…。

              物語は、取調官の志木和正から、検事の佐瀬銛男、新聞記者の中尾洋平、弁護士の植村学、裁判官の藤林、刑務官の古賀誠司へと引き継がれていく。

              梶と対面した彼らは「梶をどうか死なせないでくれ」と後を頼む。
              彼らが何故、梶のことを見守り「死ぬな」と願うのか…。
              何故、50歳なのか。


              警察と検察の攻防もさることながら、様々な立場の人間の気持ちが、ものすごくリアルで、鬼気迫るものがあった。

              完全な男の世界、でありながらも、ちょこっと出てくる女性達に救われたりもする。
              人が生きていくことの意味や、本当の「優しさ」とは、何なのか、考えさせられた。
              そして、みんな優しい。

              「人間50年」の意味も…優しい。
              最後に見えた希望の光も。

              「あなたは誰のために生きているんですか――」
              この台詞は、結構胸につきささる。
              私自身は…。きっと今は自分のためにしか生きていないと思うから。

              に、しても、映画での梶役の寺尾聡が、もうそんな歳なのか…と「ルビーの指輪」を小学生の頃に聞いてた私は思う。

              私も歳取ったもんだ…。あの頃歌の歌詞の意味がよく分からなかったけど、今では痛いほどよく分かるし。
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                『第三の時効』横山秀夫

                第三の時効
                第三の時効
                横山 秀夫 2006年 集英社文庫
                ★★★★★
                砂漠ではなかった。
                いや、F県警捜査一課の砂漠には、水も緑もあった。

                F県警本部捜査第一課、強行犯捜査一係の三人の刑事たち。
                一班の班長、過去の事故のせいで決して赦されることのない罰を科される、朽木。
                二班の班長、公安上がりの冷血漢、楠見。
                三班の班長、人間離れしたカンの持ち主、村瀬。
                彼らは個性も捜査方法も、それぞれ異なるが「事件を食って」生きてきたという点においては、同種の匂いを放つ、まさに、捜査の鬼たちである。

                そんな彼らを統括する捜査一課長の田畑。
                田畑には、彼ら三人の桁外れの検挙率の高さゆえ、生え抜き警察官としては最高職となる刑事部長のポストが約束されている。
                そして彼らを取り巻く、部下の刑事たち。
                さまざまな犯罪捜査において、それぞれの男たちが織り成す6編から成る連作短編集。

                「完落ち」したはずの強盗殺人犯に土壇場で裏切られ、法廷で「無実」を叫ばれるのは、一班、村瀬のところに送り込まれたばかりの島津。
                あまりに人間的過ぎるが故に、島津は難航する取調べに焦れ、あせりを感じ、犯人の罠に堕ちてしまった…『沈黙のアリバイ』

                時効を迎えたはずの15年前の「タクシー運転手殺害事件」。
                しかし、逃亡中の犯人は、殺害後、国外に滞在していた期間があり、その間の時効は進行が停止され「第二の時効」までは、実はあと7日残されていた。
                真の時効成立の日時を知らず、犯人がある女の元へ電話をかけてくる可能性に賭ける捜査一課の男たち。二班の班長楠見は、その女を「餌」と呼んでいた。
                そして、第二の時効も成立を迎えようとしていたそのとき、冷血漢、楠見が口にした「第三の時効」とは…『第三の時効』

                あまりに優秀な部下を持ちすぎたため、発言力を失ったと感じる一課長、田畑。彼ら三人は、課内の覇権を激しく競い合い、ともすれば、田畑の指示を無視して独断で突っ走る。
                そして現在彼ら三人がそれぞれ抱えている三つの事件。
                彼ら三人は、お互いに牽制し合い、ホシを挙げることに躍起になっている。
                そんな三人とは別に、田畑には、退官前に事件を解決し、笑顔で去ってほしいと願う、一人の苦労人のベテラン刑事のことが心に引っかかっていた…『囚人のジレンマ』

                三班の班長、村瀬が病で倒れ、その後を引き継ぐべき人物は、自分なのだと、班長代理を務め、捜査に当たる東出。しかし、彼の捜査に借り出された暴力団対策課の捜査員達との軋轢、そして同期でありながら、部下の立場に立たされてしまった石上。彼らは独自に動き、犯人を取り逃がしてしまう。そして責任の所在を追求する会議にかけられ、お互いに罪を擦り合おうとしていた…『密室の抜け穴』

                子供の頃に、何も知らず、ある犯罪の片棒を担がされるはめになり、その事件のことを後にテレビで知ってしまってからは「笑顔の仮面」がはずせなくなってしまった矢代。そんな彼が、自分と同じように、幼い頃、ある犯罪に関わってしまった青年と出会い…『ペルソナの微笑』

                夫婦と幼い男の子が惨殺された「一家三人刺殺事件」
                捜査に当てられたのは、現在別の事件の捜査に当たっている二班を除く、犬猿の仲の、一班と三班。
                何とか相手を出し抜くことしか考えない彼ら、のはずだったのだが、朽木があるものを目にしてしまったがために…『モノクロームの反転』


                専門用語とか、分かってないから書くの難しい…。
                ただ、骨太な小説だと思った。

                気に入っているのは『囚人のジレンマ』
                やっぱり、義理人情に厚い人間が好きなので…。
                映像化したら、このベテラン刑事はやっぱり、私の中ではいかりや長介だ。
                加藤茶が、何と言おうと、いかりやさんのお芝居が私は好きだったので。

                『ペルソナの微笑』は、読みながら「あれ?これ前に読んだ気がする…」と思ったら、2時間もののサスペンスで、確かやってたような…。
                誰が出てたのかは全く忘れたけど、男の子が、テープに声を吹き込まされていたシーンが、何となく記憶に…。
                「笑え」なくなった朽木が、「笑う」しかなくなった矢代の仮面を見抜いたシーンが印象に残る。二人とも、心に背負うものは似ているのかな…。

                に、しても楠見はどうしてあんなに女の人に対する目が厳しいんだろう…。
                どこかに書いてあったのに、見過ごしてしまったかな。過去のトラウマ、みたいなの。
                うーん、わからん。

                まあ、女と見れば鼻の下伸ばす男よりは、よっぽど好感が持てたんだけど。

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                  『動機』横山秀夫

                  動機
                  動機
                  横山 秀夫 2002年 文春文庫
                  ★★★★

                  生きていくしかなかった。どれほど無様な生きざまであろうと、すっかり投げだしてしまえる人生などないに違いなかった。

                  魔が差した…。
                  これまで女の方から近づいてこられた経験などなかった男に、突然差しかけられた赤い傘。
                  女は簡単にホテルへと連れ込めた。
                  すべてははじめから彼女の企みのうちだった。
                  女に金を要求され、逆上され、脅された男…。
                  気がつけば、傘の先端は彼女の背中につきささっていた。

                  女子高生殺し。

                  少女の父親が証言台で男を指差し「この男を殺してください」と訴えた悲痛な叫び声は法廷内に響き渡った。

                  それから12年、刑期を終えて出てきた男は、父親の古くからの知り合いだという保護司の世話になり、葬儀屋の運転手をしてつつましく暮らしていた。

                  そんな男の元に再三かかってくる電話…。
                  それは、男に完全犯罪を依頼する電話だった。
                  「カサイ」と名乗るその人物は、男の過去を全て知っていた。
                  そして、誰も知らないはずの、彼の口座に金は振り込まれる。
                  男にも金が必要な事情があった…『逆転の夏』

                  警察官の父親を持つ男。
                  父と同じ警察官の道を選んだ男。
                  その男の署内で、こともあろうに警察手帳が30冊、紛失する事件が起きた。
                  盗まれたのであれば、悪用されかねない。
                  マスコミにもたたかれる。
                  警察手帳の一括保管を提唱した男は、何とか事が大きくならないうちに、自分の手で犯人を探し出そうと聞き込みを始める。
                  そして、動機を持つ人物に辿りつく。
                  しかし、その動機は男の想像をはるかに超えていた…『動機』

                  「女」であるがゆえに、不当に扱われていると常日頃から不満を抱いていた弱小新聞社、の記者の女に、ある日大手の新聞社から引き抜きの声がかかる。
                  彼女には、魅力的な副産物がついているはずだった…『ネタ元』

                  あろうことか、裁判の最中に、居眠りをしてしまった裁判官の男。
                  彼は、妻の名を寝言でつぶやいていた。
                  そして、彼は職を失う事態に陥るが、それはある者の手によって仕組まれたものだった…『密室の人』

                  順番が逆になってしまった…。
                  表題作『動機』『逆転の夏』『ネタ元』『密室の人』の4編から成る短編集。


                  『動機』の、犯人の「動機」には、思わず泣かされる(情にもろいので…)。
                  最初に出てくるシーンは、後になって「ああ、そうなのか…」と納得。

                  『逆転の夏』も、最後の展開に唸らされる。感嘆する。
                  殺されてしまった女子高生にも、必死にならざるを得ない理由があって…。

                  『ネタ元』の、女性新聞記者には共感するし、『密室の人』に出てきた、奥さんの気持ちもよく理解できる。

                  ここに出てくる、誰の気持ちも良く理解できるし「仕方ないなぁ」と納得してしまう…。
                  それだけやっぱり作者の横山さんの「読ませ方」が、上手いのかもしれない。
                  確か、これが横山さんの作品を読み始めた、最初のきっかけの本だったかな…。
                  0

                    『ルパンの消息』横山秀夫

                    ルパンの消息
                    ルパンの消息
                    横山 秀夫 2005年 光文社
                    ★★★★

                    アポロの月面着陸を見た時ほどがっかりしたことはなかったな。もう世の中が行きつく所まで行っちまったって感じでさ……

                    「15年前の女教師の自殺事案につき
                     他殺の疑い濃厚との有力情報あり」

                    時効を目前に控え、突如、本庁幹部から発信された情報…。
                    情報提供者によれば、犯人は3人の当時の教え子達。
                    主犯は、喜多芳夫。

                    時効成立まで、24時間。

                    そして翌日、早朝から3人に対しての容赦ない取調べが開始されることとなる。
                    まず最初に引っ張られたのは、主犯と見られる喜多。

                    彼は当時のことをぽつりぽつり話し始める…。

                    高校3年生の冬、彼ら3人は「ルパン作戦」と称した、ある計画を実行していた。
                    その決行の最終日、女教師の死体は発見された。
                    しかし、最初に彼らが彼女を見つけたのは、意外な場所だった。
                    彼らは、彼女の死が「自殺」ではないことを知っていた…。
                    そして、彼らは自分達で犯人を探そうとしていた。

                    彼らに疑いの目をかけられた、ある同級生の自殺。
                    彼らがたまり場としていた喫茶「ルパン」のマスター。
                    彼らに煙たがられていた、音楽教師。
                    そして取調室に咲く紅一点の、婦警。

                    さまざまな人間模様が複雑に絡み合って、事件は、意外な展開を見せるのだが…。

                    妻と子を気遣い、神妙に取り調べに応じるサラリーマンの喜多。
                    高校当時そのままに、ずぼらな態度の地上げ屋の竜見。
                    そして、人生に背を向け、頑なに口を閉ざすホームレスの橘。

                    15年の歳月を経た現在、3人にはどこにも共通項は見当たらなかった。
                    あの頃、同じ時代を生きていたとは、とうてい思えないほど…。

                    最初、いろいろなことが複雑で、人がたくさん出てくるから読みづらいな…と思い、何度も途中で寝てしまった。
                    3ページぐらいからなかなか進まなくて…。
                    喜多の供述が始まってからは、俄然面白くなった。

                    そして、最後の20ページぐらいから、きてしまった…。
                    つぼに。
                    橘の気持ちが…きれいすぎて。

                    まだ横山さんの作品、全部読めてないけど、今のとこ一番好き、かも。
                    「つっぱり」とか「アイビー」とか「三億円事件」とか…どこか懐かしいような「昭和」なお話。

                    0

                      『深追い』横山秀夫

                      深追い
                      深追い
                      横山 秀夫 2005年 実業之日本社
                      ★★★★

                      小学生の時の夏休み、毎朝友達と京都御所の中をマラソンするのを日課にしていた。
                      一日も休まず、たいがいはただしゃべくって歩いてるだけだったんだけど…。
                      御所の中には、警護の警察官の常駐所みたいなところがあって、その頃そこで交代勤務していた何人かのお巡りさんと顔なじみになり、とても良くしてもらった。
                      もう30年近くも前のことだから、そのときはまだ今よりも全然町もどこものどかで、たぶん大した事件もなかったから、私たちの相手をしてくれる余裕があったんだと思うけど…。
                      中にはいまだにフルネームで覚えている警察官の人もいるくらいだから、よっぽど私はその夏休みの毎日が楽しかったんだろうなぁと思う。
                      そんな時代の印象が良かったせいで、私は今でも警察官がとても好きだったりする。特に制服が…。
                      なので(かどうかは知らないけど)警察小説も好んでよく読む。
                      好きだったのは姉小路祐の「刑事長シリーズ」。
                      そして、ここ最近では横山さんの小説…。
                      なかでも、ここに出てくるのはとても人間味あふれる警察官たち。
                      警察署の広い敷地内に、署長や次長の官舎があり、署員用の家族宿舎も独身寮も建っている。
                      こんなとこで生活するのは、私なら死んでも嫌だ(その前に、警察官にはなれないけど)…。
                      もちろん、警察職員の間でも、できれば赴任したくない所轄の一つにあげられている。
                      そこで生活している、警察官である前に一人の人間であろうとしている人達…。

                      32歳の巡査部長、秋葉和彦は、ある交通事故で夫を亡くした女性が、昔自分の思いを寄せていた人だと気づき、何とか彼女の力になろうとして周囲の忠告も無視して彼女の家に通いつめる。
                      実はその行為が、どれほど彼女を追い詰めているのか気づかずに…「深追い」

                      34歳の尾花久雄は、父子二代にわたる泥棒刑事として『既届盗犯等検挙推進月間』にあたる今月中に、何とか「いい泥棒」をあげ、県警本部で大きな仕事をしたいと躍起になっている…「引き継ぎ」

                      他「又聞き」「訳あり」「締め出し」「仕返し」「人ごと」の7編から成る短編集。

                      なかでも、近々定年退官する巡査長が「なぜ交番や駐在ばかりを回っていたのですか」と問われ、「みんながみんな偉くなってしまったら、警察という組織は回っていきませんから」と応えた言葉は心に残る。

                      そして「仕返し」は、今も大好きな森村誠一の『魔少年』を髣髴させるような…。

                      「心に沁みる!横山小説の真骨頂!」と帯にあるように、読み終わった後からじわじわとくる、そんな短編集。




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