『風の音が聞こえませんか』小笠原慧

風の音が聞こえませんか
風の音が聞こえませんか
小笠原 慧 2007/8/31発行 角川書店 P.429 ¥1,890
★★★★★
 これは、統合失調症が、まだ「精神分裂病」と呼ばれていた頃の物語である。だが、その時代は、それほど遠くない過去のことであり、病名が変わった今も、病と偏見がもたらす苦悩は、終わってはいない。……
 しかし、そんな過酷な状況においても、この病を抱えて、青春を過ごした若者たちがいた。彼らも、愛する人に出会い、葛藤しながら、その時をひたむきに生きたのである――。

中学までは友達も多く、勉強もできたという杉浦晃(ひかる)。

高校の途中からひきこもりがちになり、その後アルバイトで入った工場での働きぶりを認められ、正社員として採用されたことがきっかけとなり、統合失調症を発症し、それからは入退院を繰り返し、二年前に退院してからは、通院も薬の服用も止めてしまい、ふたたび、一人暮らしのアパートにひきこもり、手に負えなくなってしまった晃を心配した母親からの相談を受け、晃に診察を勧めるための訪問指導を任されたのは、保健福祉センターの新米ケースワーカー、川村美知。

母親さえも入ることができなかったという晃のアパートに、半ば強引に入り込むことに成功し、閉め切った窓を開け放ち、部屋を片付け始めた美知のことを、妄想も手伝い最初は敵と見做していた晃。

けれど晃の無反応にもめげずに頻繁にアパートに足を運び、とりとめのない話をし、ただ部屋を片付けてゆくだけの美知に次第に心を開き始め、自ら病院へ足を向けるまでになった晃は、美知のためにと、社会復帰に向け、以前は頑なに拒んでいた作業所での仕事も休むことなく通うように…。

忌まわしい過去を持つ美知もまた、晃の側にいることに安らぎを覚え、ケースワーカーとしての枠を超えて接するうちに、晃に特別な感情を抱き始めるのだが…。

「ハッピーエンド
なのに、悲しいのは、なぜ?
統合失調症を患う晃、彼の心を開こうとする保健所の新人ケースワーカー美知。次第に美知は、晃の純粋さに安らぎを見出していくが…。現役精神科医作家の深い眼差しが描く、純愛小説の新世界。優しさに溢れる筆致、美しいラストシーンが胸を打つ、かつて書かれたことのない恋愛小説。」だ、そうで。


帯の「ハッピーエンド」に思いっ切り????
そして「美しいラストシーン」にも????

「なんで?」というか…この物語としての(他の物語なら全然いいんだけど)、この終わり方は、私にはかえってストレスになってしまいそうな…。

いつかは離れなければならない人と考えて接するようになる、あくまでも冷静な晃と、熱に浮かされてるような、ケースワーカーとしての立場を忘れた積極的な美知との対比が興味深かったし、二人のもどかしいすれ違いや、ライバルの登場なんかは、昔の百恵ちゃんのドラマ「赤いシリーズ」を彷彿させるような展開で(借金返済のために、美知が水商売に足を踏み入れるところも何となく)。

何より一場面、高校生の頃に見た「愛と青春の旅立ち」の未だにそのシーンが忘れられない、悲しい場面(私には)を思い出させるような出来事が(当時は、そんなことぐらいで人が死ぬとは考えもしなかったから余計にかも…今なら少しは分かる気もするけど)。

そして美知の過去の忌まわしい出来事が、これまでのそれとはちょっと違ってて何だか生々しいし(こういうケースもあるのかと)、晃の病気のことも、作者が現役の精神科医なだけに、私の身近な人が統合失調症と診断された時のことを思い出させるほどだし(当時は警察にもお世話になったし、この先どうすればいいのか途方に暮れたけど、今は通院して、薬さえ飲んでいれば日常生活に全く支障はないぐらい)、なかなか読み応えはあったような。

うーん、でもやっぱりラストがちょっと納得いかない。
これが現実というもので、仕方ないのかもしれないけど…、でも、やっぱり嫌…かな。
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