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    『ブランケット・キャッツ』重松清

    ブランケット・キャッツ
    ブランケット・キャッツ
    重松 清 2008/2/28発行 朝日新聞社 P.329 ¥1,575
    ★★★★★
     ひとり――。
     タビーはずっと一人で生きてきた。
     ニンゲンだって、猫だって、この世に生きとし生けるものはすべて、結局はひとりきりなんだ、と思っていた。
     いま気づいた。
     ひとりきりと、ひとりぼっちは、似ているようで違う。
     誰かと一緒にいたいのに一人になってしまうのが、ひとりぼっち――。
     エミちゃんだって、ひとりきりの人生を歩んでいく。
     だが、それは、ひとりぼっちの人生であってはいけない。
                      〜『旅に出たブランケット・キャット』より〜

    買い取り不可で期間は二泊三日の三日日間のみ。
    ペットショップから渡されたえさ以外は、食べさせないこと。
    眠る時には、猫たちが仔猫の頃から慣れ親しんだ毛布を入れたバスケットの中で。
    決して安くはない料金の、7匹のとびきり優秀な「レンタル猫」たちが、それぞれレンタルされていった先は…。

    これまで動物を飼ったことのないという、四十代にさしかかった夫婦が二人だけで暮らす静かすぎるマンション…『花粉症のブランケット・キャット』

    家族的な小さな会社でこれまで真面目にこつこつ働いてきた中年を過ぎた独身女性は、温泉旅行のおともに、レンタカーの助手席に「クロ」を乗せ…『助手席に座るブランケット・キャット』

    「いじめ」に悩む中学生の少年は、父親にせがんでレンタルしてもらった猫に自分と同じ「コウジ」と名付け…『尻尾のないブランケット・キャット』

    施設に入居する前の数日間、認知症が進む祖母と過ごす四人家族は、祖母が可愛がっていた猫によく似た猫をレンタルし…『身代わりのブランケット・キャット』

    レンタル猫を使って、動物の有無を確認して回る厳しい大家さんが同居する動物禁止の格安マンションで、彼女が拾ってきた仔猫と一緒に暮らすことになったフリーターは秘策を思いつき…『嫌われ者のブランケット・キャット』

    レンタル主の車から逃げ出したレンタル猫「タビー」が飛び乗ったトラックには幼い兄妹の先客が。果たしてタビーは兄妹と行動を共にすることに…『旅に出たブランケット・キャット』

    リストラされ、マイホームを手放すことになった父親は、せめてこの家での最後の思い出に、子どもたちのささやかな夢を叶えようと、猫をレンタルすることに…『我が家の夢のブランケット・キャット』

    「2泊3日、毛布付き
    我が家にレンタル猫がやってきた。
    いまを生きる孤独と救済を描いた、猫とひとの物語・全7編。」だ、そうで。


    3日以上だと情が移ってしまうから…という理由での、三日間の期限付きだけど、1日でも、1時間でも、一緒にいてしまったら、私は手放したくなくなってしまうだろうなぁと。

    でも、飼いたくてもどうしても飼えない事情があるとすれば、こういうのもありなのかなと。

    ここに出てくる猫たちは、本当に賢くて、優しくて、読む前には、もしもこのうちの一作でも、猫に何か不幸なことが起こったら…と心配したけど、そういうことは全くなくて、なのにここまで号泣させられるとは、何で重松さんはこんなに泣かせるのが上手いのかと。

    どの猫も、本当にそのまま猫なんだけど、『身代わりのブランケット・キャット』の猫の優しさと、『旅に出たブランケット・キャット』の猫の賢さ、そして関わった人たちの優しさにも、涙、涙で。

    『嫌われ者のブランケット・キャット』もすごく良いお話で、大家さんの過去と、二匹の猫の交流と、ラストにまた、涙、涙。

    私もこれまでたくさんの猫を飼ってきたけど、オス猫さんが、良く赤の他人の(たぶん)野良の仔猫を家に連れてくることがあって、その面倒見の良さというか、仔猫に、じゃれつかれても何をされても怒らずにじっと耐えてる姿がすごく面白くて、可愛かったなぁと。

    寂しいときに、本当にそっと寄り添っていてくれるのも、慰めてくれるのも、いつも猫だったなぁと…しみじみ。

    猫好きには、本当にたまらん本だけど、そうでなくても、猫好きにさせてくれるかもと思えるような、本当にとびっきり優秀な猫さんたちの話ばかりで、これは是非、一家に一冊と薦めたくなる一冊だなと。

    JUGEMテーマ:読書
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      『永遠を旅する者 ロストオデッセイ 千年の夢』重松清

      永遠を旅する者 ロストオデッセイ 千年の夢
      永遠を旅する者 ロストオデッセイ 千年の夢
      重松 清 2007/11/20発行 講談社 P.389 ¥1,680
      ★★★★★
       はてしないような長い人生の中、いったいどれだけのひとの死を見つめてきただろう。
       現世から立ち去っていく――目の前から消え去ってしまう――そう考えると、死はどこまでも悲しい。
       だが、ひとは死ぬことでどこかへ帰っていくんだと考えてみれば、悲しみに、安らぎや歓びが入り交じってくる。
       そして、死ぬことも老いることもできないカイムは――どこへも帰っていけない。

      死にいたることのない体をもち、決して老いることもなく、激しい戦火を生き続ける男、カイム。
      永遠の生を背負ったカイムは、千年のも永きに渡って行く当てもない旅を続け、人生を彷徨い続け、苦悩する。
       
      「自分はなんのために、この世界に生まれてきたのか――。」
      「自分がこの世界でなすべきことは、いったいなんなのか――。」
      「ひとはなぜ、憎み合うのか。」
      「ひとはなぜ、戦うのか。」
      「そして、ひとはなぜ――戦うことや憎むことをやめられないのか……。」

      カイムは、旅の途中に訪れ滞在する場所で、旅人として、時には傭兵として、また時には農場の働き手として…さまざまな人たちと出会い、別れを繰り返す。

      戦場となった小さな村では、ある老婆と出会い「永遠の生よりも強い、一度かぎりの短い生」を認め、またあるときには聖地と呼ばれる場所で「弱いがゆえのひとの優しさ」を認め、人間を「当たり」と「はずれ」に分けることで治安を保っているという小さな国で「変われる」ことを証明してくれた一人の年老いた革命家と出会い、また「こちら側」と「あちら側」に壁一つで分断されていた国の歴史的和解の瞬間に立ち合い……。

      カイムは、ただ生きつづけ、ただ歩き、ただ旅を続ける。
      これまでも、これからも……。

      「彼は老いず、ただ去りゆくのみ。
      彼は死なず、ただ別れるのみ。
      その寂しさ――あんたにわかるかい?
      『流星ワゴン』重松清×『バカボンド』井上雅彦×『ファイナルファンタジー』坂口博信
      三人の絆が生んだ重松文学の新たな試み 
      書き下ろし、700枚!壮大なスケールで描く命の賛歌」だ、そうで。

      先日発売されたX−BOXのロールプレイングゲーム「ロストオデッセイ・千の夢」(最近やたらとCMでよく見る…)のために書かれた物語で、主人公のカイムが時折見る「夢」の中の過去の記憶なんだそうで、物語の舞台は全て千年の間にカイムが訪れた「いつか、どこか」の町のお話31編、なのでどこから読んでも大丈夫なんだとか。

      どことなく『銀河鉄道999』を彷彿させるというか、どの過去の記憶の話も全て感動もので…(半分以上の話で泣けてしまったかも)。

      これを読んでゲームもやりたくなったけど(でもFFよりドラクエ派)、いかんせんX−BOXが…。なので、このゲーム出来る人は羨ましいかも。
      もちろん、この物語だけでも充分価値のあるものだと思えるので、ゲームとか関係なしに多くの人にオススメしたくなってしまった。

      人間の優しさ、愚かさ、強さ、弱さ、本当に大切なもの、そして何より「変われる」ということ(これは期待を込めてかな)、そういうのがいつもの重松さんらしい言葉で描かれていて、本当に心に残るストーリーが多かったなと。

      なかでも特に好きなのは『コトばあさんのパン』と『天のつぶて』と『はずれくじ』と『老兵士の遺言』。

      そして一番心に残っている言葉。

      「自分のやらなければならないことをちゃんと持ってるひとは――そして、それ以外のことには目を奪われない人は、愚かなまでに強い。」

      そういう人になりたいし、そういう人に惹かれるし。

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        『青い鳥』重松清

        青い鳥
        青い鳥
        重松 清 2007/7/20発行 新潮社 P.325 ¥1,680
        ★★★★★
        ……うまくしゃべれないっていうのは。つらいんだ。自分の思いが。伝えられないっていうのは、ひとりぼっちになるって。ことなんだ。言葉が。つっかえなくても。自分の思いが。伝えられなくて、わかってもらえなくて。誰とも。つながっていないと思う。子は、ひとりぼっちなんだよ、やっぱり。
         でもなぁ、ひとりぼっちが二人いれば、それはもう、ひとりぼっちじゃないんじゃないか、って先生は思うんだよなあ。
         先生は、ひとりぼっちの。子の。そばにいる、もう一人の、ひとりぼっちになりたいんだ。だから、先生は、先生をやってるんだ。   〜『進路は北へ』より〜

        国語の先生、なのに上手くしゃべれない村内先生。
        「タ行」と「カ行」と濁音は全部だめで、特に緊張すると言葉の最初がつっかえてしまって、生徒達からは陰で馬鹿にされ、迷惑がられてしまう。

        上手くしゃべれないから、「たいせつ」なことしか話さない村内先生。

        そんな村内先生は、非常勤講師として赴く先々の中学校で、ひとりぼっちの子のそばに寄り添い、こう話す。
        「間に合ってよかった――」と。

        学校以外の場所では普通に話すことができるのに、クラスでは声を出せない「場面緘黙症」の女の子…『ハンカチ』

        担任に重症を負わせ、3ヶ月ぶりに学校に戻ってきたものの、自分の居場所を見つけられない男の子…『ひむりーる独唱』

        交通事故の加害者となってしまった父親の心の痛みを側で感じる女の子…『おまもり』

        自分たちせいで自殺を図った友達へのいじめの罪を背負わされていることに耐えられない男の子…『青い鳥』

        クラスの女王さまのように振舞う友達の側にはべり、いつも顔色を伺っている女の子…『静かな楽隊』

        突然父親を失い仕方なく公立に転校してきた、勉強も運動もクラスのトップで医師になることを目指している男の子…『拝啓ねずみ大王さま』

        大学までエスカレーター式の私学に通いながらも、高校受験をすると言い出して担任を困惑させる女の子…『進路は北へ』

        そして、村内先生を「恩師」と慕う、かつての「ひとりぼっち」だった青年の物語…『カッコウの卵』 

        『そばに、いるんだ。
        「ひとりぼっち」になってしまった人へ―― 
        涙を超えたほんものの感動に出会う(孤独と希望)の物語。』だ、そうで。


        やっぱり重松さんは「いじめ」とか「少年犯罪」とか「虐待」とか、小中学生のそういうの書かせたら天下一品だなぁと(なんで、こんなにその子たちの気持ちが分かるのかが不思議なくらいに…)。
        そして、重いし。

        吃音の村内先生のことを、中学生達が冷ややかな目で見てるのも、ある意味残酷な年頃なので仕方ないんだろうし(寂しいことだけど)、自分が中学生だったらどうしてたかなと考えるけど、もうあの頃の気持ちには戻れないし、あの頃の気持ちは理解できないので、何とも…今なら、良くしゃべる人(特に男の口先だけ上手い人は大嫌い)より、無口な人の言葉の方がたいせつで、側に居て安心できること分かってきたので、村内先生とも仲良くなれそうだけど…。

        なので、村内先生を必要とする子どもたちだけにでも、ちゃんと村内先生がそこに居る意味が伝わったことが、本気でしゃべる村内先生の言葉が届いたことが、本当にものすごく嬉しくて何度も涙してしまった(『カシオペアの丘』よりも、私にはこっちの方が涙のつぼかな)。

        上手くしゃべれなくても、「たいせつ」なことを一生懸命に相手に伝えようとする気持ちさえあれば、伝えたいことがあるならば、それが伝わる相手は必ずいてくれると思いたいし、せめて人の気持ちをふみにじらない人間になりたいなと。

        装丁の鳥篭も綺麗だけど意味深だし…これは是非、「ひとりぼっち」を感じてない子でも、感じてる子でも、現役の中学生に読んでもらいたい極上の物語だなと。

        に、しても学校の黒板の向きにそんな深い意味があったとは…まったく気付かなかったし、全国の生徒がみんなそっち向いてるって想像すると、ちょっと変な感じで気持ち悪いかも。

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          『カシオペアの丘で』重松清

          カシオペアの丘で(上)カシオペアの丘で(下)
          カシオペアの丘で(上)カシオペアの丘で(下)
          重松 清 2007/5/31発行 講談社(上)(下)各¥1,575
          ★★★★
           ひとを一度も傷つけることなく、誰かに一度も悲しい思いをさせることのない人生は、この世にあるのだろうか。わたしにはわからない。誰からも傷つけられたことがなく、悲しい思いを一度もしたことのない人生は――よかったね、とは思うけれど、幸せだったね、と言えるのかどうか、わからない。
           傷つけて、傷つけられて、悲しい思いをさせて、悲しい思いをさせられて、だからひとは遠い昔から星の物語を語ってきたのだと思う。太陽が沈んでから空に浮かび上がる星たちに、悲しい神話をあてはめてきたのだと思う。

          かつて炭鉱で栄えた町、北都。

          かつて炭鉱だった場所の、山を削り取った跡に出来た、名もなき丘。
          彼らが生まれた年にこの町で起こった悲しい出来事を、まだ何も知らなかった小学4年の頃、こっそり登ったこの丘の上で星空を見上げながら誓った4人の仲間「シュン」「トシ」「ユウちゃん」「ミッチョ」。

          おとなになったらここに絶対遊園地を作ろう――。

          そして30年の月日は流れ、その約束は図らずも守られたものの今ではすっかり寂れてしまった、見捨てられた町の人気のない小さな遊園地、「カシオペアの丘」。

          あの日の約束の後、炭鉱で起こった事故の全貌を知り、当時の炭鉱の責任者であり、この町の独裁者、そして人殺しと呼ばれた祖父を赦せず、北都の町を去り「倉田」の姓を捨て、東京で所帯を持ち、人並みの幸せな生活を送っていたはずの「シュン」が体調に異変を感じ、余命いくばくもないと告知を受けたことから、今はばらばらになってしまったかつての仲間4人の人生が再び重なり合うことに…。

          彼らを再び「カシオペアの丘」に呼び寄せたのは、北都から遠く離れた東京で起こった痛ましい少女の殺人事件。

          犠牲となった少女が、最後に親子三人で幸せな時間を過ごしたという「カシオペアの丘」を再び訪れた少女の父親は、たった一人の理解者だったはずの妻の裏切りをゆるすことができず「死に場所」を求め…。

          かつて北都の町を思うがままに支配し、町の人々から畏れられていた「シュン」の祖父もまた最期、何かに縋りつくように「カシオペアの丘」を見下ろす場所へ…。

          「ガン」を受け容れ、死を覚悟した「シュン」は、かつての仲間の「ゆるし」を得るために、「カシオペアの丘」へ、愛する家族とともに…。

          そして約束の地「カシオペアの丘」で、「シュン」は仲間たちとの再会を果たし…。

          「北海道の雄大な自然を舞台に描く、重松清の最高傑作!
          命と、愛と、町をテーマに生まれた感動の物語。
          肉親を、
          昔の恋人を、
          自分を苦しめた町を、
          裏切った妻を、
          そして自分自身を、
          人は心の底からゆるすことができるのか。
          圧倒的なスケールと迫力で読む者の魂をふるわせる、3年ぶりの長篇小説。」だ、そうで。


          読む前から、これはかなり「しんどい」本かなと恐る恐る読んでしまった(上、下巻という時間的なこともそうだけど、内容も重そうで…)。

          で、読み終わって、たまたま今朝の「京都新聞」に掲載されてた重松さんのインタビュー記事に、この本のことが書かれてて、改めてこの本に託された想いが良く分かったというか…。

          テーマは「ゆるし」ということで、その「ゆるし」が他人からのであったり、自分自身をであったり…。

          そして「生きることは、ゆるしたり、ゆるされたりの繰り返しではないか。…」と(その記事を読むまで、正直「ゆるし」の本当の意味が、私には分かってなかったのかもしれないなと…なんとなくもっと大げさなものかと思ってたから、この本に出てくる「ゆるし」という言葉を身近には感じられなかったというか)。

          なので記事に書いてあった「自分がここに居ることを肯定したい」がための「ゆるし」というのを読んで、初めて「ゆるし」の意味がすごく分かったような。

          「末期ガン」であることを告知されてから、死を受け容れるまでの「シュン」や家族の葛藤や、それからの描写があまりにもリアルで、苦しそうで見ていられないほどで、これを機に煙草をやめようかなと、これまで一度も考えたことないことを考えてしまうほど、本当に「ガン」の恐ろしさをまざまざと見せ付けられてしまったし。

          かつて町を栄えさせていた「炭鉱」の事故も、実際に夕張炭鉱であったことで、そのシーンもかなり心が痛くなるし、祖父の決断も、それから背負わなければならなかったものの大きさも、その孤独もいかばかりかと…、祖父だって「ただの人間」なのに、と思うとやりきれなくなるというか、どれほど苦しかったことだろうと。

          だけど「ゆるさない」ことを生きる支えとした「トシ」の母親の気持ちも、痛いほど解るし。

          「死」というものは、この世からいなくなる人間のことだけではなく、残された人間の感覚でもあるというか、上手く言えないけど、だから周囲の大切な人達を哀しませないように生きていられる間は、生きていかないとなと…(本当に上手く言えないのがもどかしいけど…)。

          ただ理解できなかったのは、娘を殺された母親のことと、「シュン」のかつての恋愛の顛末。

          多分私は重松さんの描く、大人の女性(特に既婚者)とは相性が悪いみたいなので、その二人の感情は解せない(「シュン」の妻に対しても、そんな過去のこと、もうどうでもいいんじゃないの?と、しつこさを感じてしまったし…それとも男の人って、そんなにひきずるものなのか?と)。

          そして、4人の仲間の中で一番共感できたのが、唯一独身の「ユウちゃん」というのは、やっぱりちょっと悲しいことなのかもしれないなと(まあ、いろんな意味で…)。

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            『なぎさの媚薬〈2〉哲也の青春|圭の青春』重松清

            なぎさの媚薬〈2〉哲也の青春・圭の青春
            なぎさの媚薬〈2〉哲也の青春・圭の青春
            重松 清 2005/7/20発行 小学館 P.315 ¥1,575
            ★★★★
            「あなたの人生は変わりません。あなたはいまの奥さんと結婚して、いまの会社で働いて……いまと同じ人生です。やり直しができるとすれば、あなたが愛した女の人の人生だけ、なんです」
             なぎさは立ち上がって、「それでもいいですか?」と訊いた。
             哲也は目を伏せる。長い沈黙のあと、「かまわない」とうなずいた。真理子が――かつて愛した女性が、あんな哀れな死に方をせずにすむのなら、それだけで、いい。
            〜『哲也の青春』より〜

            メジャーデビューの夢を諦め、バンドに見切りをつけ、一人、大学卒業とともに一流商社に就職したことで仲間から裏切り者扱いされてしまった、24歳の頃の哲也。

            バンドを脱退した本当の理由を隠したまま20年近い時が過ぎ、普通の結婚をして家庭を持ち、41歳になった哲也の耳に飛び込んできたのは、かつてのバンドのボーカリスト、紅一点の真理子の訃報。

            同じバンド仲間のメンバーの一人と、東京から離れ今は北海道で暮らしていたはずの真理子の、突然の死を受け容れることができないまま、夜の街をさまよい、ボロボロになった哲也の前に現われたのは、伝説の娼婦「なぎさ」。

            「なぎさ」と寝れば、過去に戻って不幸な女の未来を変えることが出来ると知った哲也は、不幸な死を遂げた真理子のために「なぎさ」の力を借りることに…『哲也の青春』

            子供ができないことを理由に実家に帰され、悲惨な最期を遂げた義姉のために、兄、秀夫の二度目の結婚式の祝宴を滅茶苦茶に壊し、ふるさとを捨て「家」を捨てた、地元の名家・斉藤家の次男坊、18歳の頃の圭。

            「齊藤家」の大事な一人娘の結婚式に出席するようにとの兄、秀夫の言葉に従い、二度と戻らないと心に決めていた故郷に恋人を伴い、23年ぶりに足を向けることにしたのは、結婚できない事情を彼女に知ってもらうため。

            そして無事に結婚式を終えて間もなく、圭が決して義姉さんとは呼ばなかった斉藤家の二度目の嫁、智子の突然の訃報に再び兄に呼び戻された圭は、その死の真相を知り、あまりにも不幸な現実に翻弄され、「斉藤家」のために死ななければならなかった二人の女性を救うため、過去に戻って義姉とのあの一夜をやり直そうとするのだが…『圭の青春』

            「今度こそ、あなたを救い出してみせる。過去に戻れることができるなら。もう一度すべてをやりなおすことができるなら。ぼくは、あの夜のあなたを、抱きたい。不思議な娼婦・なぎさが男たちに見せる、一夜の夢―。待望のシリーズ第2巻。」だ、そうで。


            今作には異常な性描写の必要性を感じた分、前作ほどエロいとは思えなかった(というか、なぎさとのその部分が減ったのかな?それとも、もう慣れてしまったのか…)。

            『哲也の青春』の方は、まあ蛇の生殺しみたいな話だなと思ったぐらいだったけど、『圭の青春』の方は、結構サスペンスタッチで、すごく面白かったし、重松さんらしいなというお話。

            全てにおいて優秀だった兄の、ただそれだけが思うようにならないもどかしさというか、そういう苦悩を、こういった異常な形でしか女にぶつけられないというのは良く分かるような気がするし。

            子どもさえ出来れば…という切実な思いの末に義姉の選んだことも、こういう家に嫁いでしまったのならそんなことしても致し方ないかなと。
            歪んだ愛し方しか出来なかった兄、秀夫への義姉の愛も証明されるし、ラストもこれはなかなか良くて。

            なぎさは、男が愛した女性を救うことはできても、男の人生は変えられないと言うけれど、ほんの少しの勇気がなくて、過去には出来なかったことができたことで、愛した女性を救えたことで、男性自身の「これから」にも大きな変化が訪れるわけで…。

            「どんなに悔やんでも過去には戻ることができないのが、人間というものだから……」というなぎさの台詞に、だから、後から悔やまないように、「勇気がない」などと言わずに、その時に思ったように、言ったり、やったりしといて欲しいもんだなとつくづく思えてしまう(女の人って多分あんまり後悔しないような気がするので、特に男の人には)。

            まあ、たとえ現実には、絶対に過去に戻れないとわかっていても、ここに出てくる「なぎさ」の助けを借りたいと思うような男の人はいっぱいいそうな…それはきっと、私がこの歳になってもまだ「ドラえもんが本当にいてくれればなぁ」と思うのと同じようなもんかな(て、ドラえもんがいてくれれば、なぎさはいらないのかな…いや、男の人にはなぎさの方が良いのかな…どちらにせよ、「夢」のまた「夢」のお話…)。
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              『なぎさの媚薬―敦夫の青春|研介の青春』重松清

              なぎさの媚薬―敦夫の青春|研介の青春
              なぎさの媚薬―敦夫の青春|研介の青春
              重松 清 2004/7/20発行 小学館 P.277 ¥1,575
              ★★★★★
              「やり直しをしてもらうために、わたし、あなたをここに連れてきたんじゃありません」
              ………
              「誰かを救ってほしかったから」
              「……え?」
              「現実の人生では救えなかったひとを、救ってほしいから」
              〜『敦夫の青春』より〜

              深い孤独を背負った男だけを見極めて声をかけ、媚薬を使ってその夜の相手を青春時代に戻してくれるという、謎に包まれた伝説の娼婦「なぎさ」。

              友人から「なぎさ」の話を聞き、「なぎさ」に会って、一夜でいいから少年の頃に戻りたいと切実に願うのは、本社から系列会社への出向を命じられ、単身赴任することを余儀なくされた入社21年目、43歳の「敦夫」。

              送別会の後、渋谷の街でようやく探し求めた「なぎさ」から声を掛けられた敦夫は、「なぎさ」の媚薬に導かれ、15歳のまだ何も知らなかった少年の頃の初恋の相手が、その後どんな人生を歩むことになったのかを、彼女の身に起こった惨たらしい出来事を、まざまざと見せ付けられてしまうことに…。

              そして「あの子を助けられるのは、あなたしかいない」と言う「なぎさ」の言葉にうなづき、15歳の少年の身体を取り戻した敦夫は、卒業式の日、過去には声も掛けられなかった初恋の相手に勇気を出して告白し……『敦夫の青春』

              逆玉と周囲から羨ましがられるような資産家の一人娘と結婚したものの、ある日を境に不能となってしまった「研介」、26歳。

              両家が揃った結納の席で、妻となる女の醒めた横顔に、中学生の頃に自分が追い詰め、破滅させた女教師の顔が重なり、その日から罪の意識に苛まれるようになってしまった研介は、もう一度彼女に会ってどうしても謝りたいと、「なぎさ」の力を借りることに……『研介の青春』

              『「どうも、薬を服まされるみたいだぞ、なぎさを買うと」 夜の渋谷にたたずむ娼婦・なぎさは、孤独な男たちに夢を見せる。それは、青春時代の忘れ物を取り戻す、せつなく甘い夢…。「週刊ポスト」連載に加筆して単行本化。
              10代の思い出が鮮やかに蘇る"青春童貞小説"。』だ、そうで。


              ほとんど男性読者のみを対象とした「官能小説」(『週刊ポスト』だから当然といえば当然…かな)?

              男の人って本当にこんなん好きだよな〜というようなシチュエーション(中学生のブルマ姿とか、高校の女教師とか、その他もろもろ…)だし、妄想ばかりで何も出来なかった少年の頃に再び戻って思いを遂げる…なんて、たぶん女の人にはあんまりない気持ちだろうなと思うし。

              なので、これは男の人のための夢物語だろうし、今の生活に疲れ切ったお父さん方が読めば、きっとものすごく共感できるんじゃないかなと、こんな出来すぎの女性「なぎさ」にも、会えるものなら会いたいと思う男の人は多いだろうな…と。

              まあ、女の私が読んでも、何かと勉強になるし、悲惨な人生を歩むことになる初恋の女性を救うために…という、男の人の「初恋」に対する思い入れは、少し羨ましくもあるかなと。
              その点、女の方が現実的な分、薄情かもなと思えてしまった(私だけかもしれないけど…)。
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                『愛妻日記』重松清

                愛妻日記
                愛妻日記
                重松 清 2007/4/13文庫化 講談社文庫 P.252 ¥540
                ★★★★★
                それでも、早智子は決してわたしに弱音を吐かない。甘えてもこない。心の芯を、きついガードルや矯正下着でいつも締めつけているようなものだ。テレビのバラエティ番組に声をあげて笑ったり、ワインに酔ったりしているときでも、自分のすべてをゆるめてしまうことはない。昼間背負っているものを真夜中のベッドでかなぐり捨てることも、もちろん。
                人生のパートナーとしての彼女に対してはなんの不満もなくても、そこが、わたしには少し寂しい。   〜『ホワイトルーム』より〜

                新築のマンションを格安で手に入れた、結婚して3年目のお互い30歳になる夫婦。
                マンションに遊びに来た同僚のひと言から、この部屋がAVの撮影に使われていたことを知り、密かにビデオを借りて見た夫は、そこからヒントを得、妻を縛り付けているものから解放することを思いつき…『ホワイトルーム』

                中学受験のための合宿に出かけた息子の留守中に、子供が生まれてから初めて夫婦二人だけで、それぞれの田舎に帰省した40歳になる夫婦。
                70歳になる両親を前にして、改めて「夫婦」の意味に気付き…『童心』

                忘年会のビンゴゲームでおもちゃの「手錠」を手に入れた、真面目で小心者で、面白みのない夫。
                自分と同じように真面目で清楚な妻を幸せにすることだけを考えて、尽くしてきたと自負する夫は、妻が本当に喜ぶ顔を初めて見てしまい…『愛妻日記』

                夫が何気なしに家に持ち帰ってしまった「ショートホープ」が、歳の離れた若い妻の、おぞましい過去の記憶を呼び覚まし…『煙が目にしみる』

                歳を取りぶくぶくと太り始め、お互いの肉体の醜さを嫌悪しあうようになってしまった夫婦が手に入れる、魂の交わりとは…『饗宴』

                妻の一度の過ちを許すためには、裏切りの報いを受けてもらわなければ、と考える神経質なまでに潔癖症の夫。
                夫はインターネットのサイトで、妻をもっともっと汚す相手を募集し、妻も夫に素直に従ううちに…『ソースの小壜』

                の、およそ重松さんのイメージからかけ離れた、少々変態ちっくな「官能小説」6編と、どうしてこのような「官能小説」を書くに至ったかを「納得」させられてしまう「文庫版のためのあとがき」から成る短編集。

                『直木賞作家による匿名の官能小説として大反響を呼んだ表題作のほか、夫のゆがんだ情欲を描いた全6編。「家族と夫婦の物語を書き続けたいから」こそ書いた、著者初の狡競ぅ鵐皀薀襪吻畧愛小説集が今、その禁断の扉を開く!』だ、そうで。


                賛否両論というのは、まあそうだろうなと。
                想像通りというか、以上というか、かなりのエログロかも。

                こういうの受け付けない女性も、もちろんいるだろうし、「重松さんの本」ということで、お子様がこれを手にしてしまったら、とんでもないことになってしまいそうだし…。

                ただ、きちんと「こういう本ですよ」と踏まえたうえで読む分には、なかなか面白いし、いかにも男の人の考えそうなこと満載で…(合意でなければ、犯罪すれすれというか、そういう願望あっても実際には出来なくて、もんもんとしてる男の人多そう…)。

                夫婦とはそういうことするもんだから、お互いに良いなら、好きにすればいいとは思うけど、相手が本当にこういうの嫌な人なら(て、友達には何人かいたりするので)、「最悪」ってなり兼ねないなぁと…まあ、ここに出てくる妻たちはそんなことなくて幸いなのかな。

                これって、杉本哲太がこの話のどれかに主演して映画になってるみたいなので、そちらもちょっと見てみたい気もしないでもないような…(こういうの読んでも、ふんともすんとも思わなくなってしまった…何と言っても銀蝿世代なもので)。
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                  『きみの友だち』重松清

                  きみの友だち
                  きみの友だち
                  重松 清 2005年 新潮社 P.316
                  ★★★★★
                  誰かに名前を呼ばれることは、とてもうれしい。誰かに「欲しい」と思われることは、とても気分がいい。
                  だから、嫌な子は、そこを狙ってくる。名前を呼ばないことで、その子を消し去ってしまう。「あんたは、いらない」と指でピンと遠くにはじくことで、居場所をなくしてしまう。そして、そういう子はいつだって「みんな」の中に隠れて、にやにや笑っているのだ。
                  きみは「みんな」を信じないし、頼らない。一人ひとりの子は悪くない。でも、その子が「みんな」の中にいるかぎり、きみは笑顔を向けない。

                  小学四年生の時に交通事故に遭い、松葉杖なしでは歩けなくなってしまった恵美ちゃん。
                  入院中に恵美ちゃんのとった態度から、クラスの「みんな」から孤立してしまう恵美ちゃんと、五年生になって同じクラスになった由香ちゃんとの最初の物語…『あいあい傘』

                  スポーツも勉強も、何でも一番で、クラスのリーダー的存在「ブンちゃん」の物語…『ねじれの位置』

                  お調子者で、みんなを笑わせてばかりいる、クラスのムードメーカー、「堀田ちゃん」の物語…『ふらふら』

                  ブンちゃんに憧れ、ブンちゃんの一番の親友になりたかった三好君の物語…『ぐりこ』

                  親友だった志保ちゃんに彼氏ができてから、何かと約束をキャンセルされるようになった「ハナちゃん」の物語…『にゃんこの目』

                  2年生にレギュラーの座を奪われ、3年間補欠のまま、サッカー部を引退した「佐藤君」の物語…『別れの曲』

                  前の学校で酷いイジメに遭い、今度の学校では…と、控え目に自分らしく頑張ろうとする転校生、「西村さん」の物語…『千羽鶴』

                  親友でもありライバルでもある友達に、どんどん差をつけられ、自分が嫌いになってしまいそうな「モト」の物語…『かげふみ』

                  そして再び、恵美ちゃんと由香ちゃんの物語…『花いちもんめ』『きみの友だち』

                  友だち?他人だよ、そんなの。
                  でも――特別な他人
                  うっとうしくて、面倒くさくて、ややこしくて。
                  だから――大切な他人
                  「いちばん大切なもの」を描き切った会心の長編!』だ、そう。


                  重松さんは、何でここまで小、中学生のまんまの気持ちを上手く書けるんだろう…と、ほとほと感心してしまう(今の子の気持ちは知らないけど、少なくとも私が子供の頃の気持ちは、こんなんだった)。

                  誰が主人公の物語も、クラスに一人はいたなぁこんな子…と思えるし、自分自身の子どもの頃の気持ちとも重なるし…。

                  一人と一人なら素直に話せるのに、なんで「みんな」の中の一人になっちゃうのかな。

                  恵美ちゃんと、恵美ちゃんの弟のブンちゃんを軸にして、二人と関わりのあるクラスメイト達が次々と主人公になっていく、その微妙な関わり方が秀逸だなと(この子誰だっけ…と、昔の卒業アルバムを捲るように、前のページを捲って確認してしまったけど)。

                  「わがまま」と一番仲の良かった子に言われたこともあったし、「プライドのない子」とも(「八方美人」とかも)、そして「選ばれた者」と「選ばれなかった者」も…経験してしまったので、この本は、過去の自分を見ているようで恥ずかしいやら、懐かしいやら、複雑な気持ち。

                  そして、由香ちゃんみたいな存在も、確かに心の中にあって、それだけで充分だったなぁと…。

                  でも、ここに出てくる「いじめ」は、あまりに悪意に満ちていて、陰湿で(千羽鶴のメッセージのとこなんか特に)、そこは時代の違いを感じてしまう。

                  そんな中にあって、恵美ちゃんが出会えた本当に大切な人、いつまでも忘れない人、この二人の物語には涙がぽろぽろと溢れて止まらなくなってしまった。

                  今、まさにこの時代を生きている子どもたちがこれを読むと、どう感じるのかなと、ちょっと気になる。
                  ぜひ、教科書にでも採用してもらって、たくさんの子どもたちに読んでもらいたいなと、伊吹文部科学大臣に直訴したくなるような一冊。

                  今の子たちが「ぐりこ」とか、やってるのかは疑問だけど…。
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                    『送り火』重松清

                    送り火
                    送り火
                    重松 清 2003年 文藝春秋 P.385
                    ★★★★
                    「あの頃の親って、みんなそうだったよねぇ、いまのひとたちみたいに、自分も楽しんで、家族も楽しんで、っていう考え方してなかったよね。家族のためになにかをする、家族を幸せにするために自分が苦労する、そういうのがあたりまえだったんだよねえ……」
                    〜『送り火』より〜

                    女でしくじり、会社からはリストラされ、ギャンブルに嵌り、人生から脱落した男の行き着いた先は、築四十年の老朽化した「富士見荘」。
                    そこに住み着いていた「化け猫」と噂される5人の老婆たちから、一匹の子猫をもらった男は…『フジミ荘奇譚』

                    雑誌の企画「街のウワサ」の担当者、もう若くないことに焦りを感じるフリー・ライターは、駅で見かけるホームレスを「富士見地蔵」として紹介することを思い付き…『ハードラック・ウーマン』

                    一人息子を失くして半年が経った夫婦。
                    妻は、息子のために、今も食事をテーブルに並べている。
                    夫は、近頃、もういないはずの息子宛のダイレクトメールが増えてきたことを不審に思うのだが…『かげぜん』

                    子育てに専念するため、会社と訣別し、都心から離れたニュータウン、「パークシティ富士見ヶ丘」への引越しを決めた妻。
                    公園デビューを無事に果たしたものの、娘に無理矢理あだ名をつけられたことが親子ともにストレスとなり…『漂流記』

                    これまで何人もの飛び込み自殺者を思いとどまらせてきた、富士見追分駅のベテラン駅員。
                    彼は駅の目立たぬところにひっそりと「元気の欲しいひとにお勧めします」と、ある男の旅行記のHPのアドレスを書き込む…『よーそろ』

                    若い頃に書いた記事によって「人生を変えられた」と、常軌を逸したファンに詰め寄られ、困惑する「ケニー佐藤」。
                    過激だったその頃の仲間も、とうに良きパパとなり、今では幼稚園の送り迎えで顔を合わせるように…『シド・ヴィシャスから遠く離れて』

                    閉園してしまった遊園地「富士見ドリーム・パーク」に隣接する「ドリーム団地」で、一人暮らす年老いた母を説得に来た娘。
                    遊園地が嫌いだったと言う娘が、久しぶりに泊まった我が家で見たものは…『送り火』

                    結婚して15年が経ち、取り返しのつかないほど、すれ違いを重ねてしまった夫婦。
                    家を出て「ウィークリーマンション」に住み始めた夫は、ある夜、駅のベンチに長時間同じ姿勢で座り続ける、不審なサラリーマンに声をかけてみた…『家路』

                    癌に侵され、余命いくばくもない父親のために、母親の希望する富士見沿線の富士山が望める霊園の見学に来た娘夫婦。
                    何かとけちをつける夫をよそに、購入を決めた妻は、自分もここで両親と一緒の墓に入ろうかと考えるのだが…『もういくつ寝ると』

                    始発駅の新宿から西に延びる、私鉄、武蔵電鉄富士見線を舞台に「この世」と「あの世」の狭間で揺れ動く人々等を描いた、9つから成る短編集。

                    「鉄道が街をつくり、街に人生が降り積もる。黙々と走る通勤電車が運ぶものは、人々の喜びと哀しみ、そして…。街と人が織りなす、不気味なのにあたたかな、著者初のアーバン・ホラー作品集。」だ、そうな。


                    帯にあるように、ホラーなのかと思って読んだけど、そんなこともなく、いつもの重松さんらしい作品。
                    何でこんなに微妙な「夫婦」とか「親子」とか書くのが上手いのかと、いつものことながら、つくづく感心してしまった。

                    『フジミ荘奇譚』『ハードラック・ウーマン』『家路』が、かろうじてホラーっぽかったかな。
                    『フジミ荘奇譚』の老婆たちの語る「猫」の話が本当なら、私はすごく嬉しいし、ラストがすごく良かった。

                    『かげぜん』の、最初に出てくる老夫婦の悲劇は、実際にどこにでもありそうで、悲しくて。

                    『漂流記』の「公園デビュー」の話も、すごく現実っぽくて「こんな面倒な人間関係の中には絶対入りたくない」と思ってしまった。

                    『家路』の駅のベンチに座り続けるサラリーマンの「帰りたいなぁ」というのが切なくて、身につまされて…。

                    『もういくつ寝ると』の夫は、よくいるタイプで…私なら絶対、死んでまで一緒のお墓になんて入りたくないなぁと…。

                    そして『シド・ヴィシャスから遠く離れて』を読んで、大好きだった「アナーキー」を思い出してしまった。

                    考えてみれば中学生の頃「3・3・3」を聞いて、「そうか、真面目に生きてもしょうがないんだ…」と、ものすごく感化されてしまって今に至るような…。

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                      『小さき者へ』重松清

                      小さき者へ
                      小さき者へ
                      重松 清 2006年 新潮文庫
                      ★★★★
                      いつだったか、アサミと話したことを思いだした。
                      人間は二種類――グラウンドで試合をするひとと、それをスタンドから見てるひとに分けられる。
                      そのときに感じた、納得しきれないひっかかりの正体が、やっとわかった。
                      応援団だっているじゃん。

                      夏休みに田舎でひとり暮らす、年老いた母の元へ帰省する「僕」の家族。
                      二人の息子、神経質で臆病な兄と、元気で人懐こい弟。
                      下の子が物心つくようになってからは、おばあちゃんが弟ばかり可愛がることが、夫婦の不安の種。
                      だから田舎に行きたがらない兄。
                      案の定、あからさまに弟を贔屓する祖母。
                      あまりに二人の孫に差をつける祖母に、母の息子でもあり、自分の息子の「味方」である「僕」は、「もう次の正月には帰って来ないから」と告げる…『海まで』

                      クラスの女子たちから転校早々目をつけられ、逆にやり返した転校生。
                      彼女の両親は離婚「ホヤホヤ」で、「ぼく」は離婚家庭のベテラン。
                      まだその環境に戸惑う彼女と、すっかり慣れてしまった「ぼく」。
                      女子からいじめられている彼女を、見て見ぬふりをしていた「ぼく」は、強いと思っていた彼女の本当の姿を知り…『フイッチのイッチ』

                      父親がいる間は部屋から出てこようとしない息子へ、父親は長い長い手紙を書きはじめた。
                      母親に暴力を振るうようになった息子へ、父親は自分が14歳だった頃の話を書きしたためる。
                      「心配」とは言わず「迷惑」としか言えなかったこと、何故先のことしか話してこなかったのかを後悔しながら。
                      この手紙をいつか息子が読んでくれることを願いながら。
                      そして、父親を軽蔑し、上だけを目指して生きてきた自分自身は…『小さき者へ』

                      小学生のころの父親参観では「ヤクザが来た」と友達からびびられた「あたし」の父。
                      「応援団」の団長だった父は、今もずっと応援団長の気持ちのまま、昔の仲間や、会社の人たちへエールを送り続けている。
                      「あたし」のことが大、大、大好きな父親は、だけど「あたし」が学校をやめたいといったとき「あたし」のことを応援してはくれず…『団旗はためくもとに』

                      人に使われるだけの人生が嫌で、脱サラして始めた宅配ピザのチェーン店を、たった一年半でたたむことになった一家の主。
                      家族を実家に帰し、一人酒浸りの毎日を送る父親は「器の小さい自分」を思い知り、ぼろぼろに傷つき、疲れ果て、先のことが考えられずにいた…『青あざのトナカイ』

                      「もしも」息子が生まれたら…一緒に野球をやるのが夢だったという少年野球チームの監督は、小学生最後の試合の後、息子の代わりに、3人の選手たちを甲子園へ連れて行くことにした。
                      連れて行くメンバーは、それぞれ複雑な事情を抱える3人の主力選手達。
                      父親でもなく、教師と生徒でもなく、ましてや友達でもない…監督と選手という微妙な関係…『三月行進曲』

                      「急な坂道の途中にたたずむひとたちを主人公にしている」という、6編から成る短編集。


                      重松さんの紡ぐ物語は、どこで泣くか予測がつかないところで泣くことがある。
                      思いがけない人の行動とか、意外な優しさとか、解ってもらえないもどかしさとか、悔しさ…。
                      そういうのに心が疼く。

                      どのお話も、これから先どうなっていくのか、予測がつかない。
                      ただ、絶望ではなく、小さなエールと、少しだけの希望を与えて終わる。

                      『小さき者へ』の父親の、父親に対する気持ちと同じ気持ち、私も心のどこかにあった。
                      なので、これは本当に読んでて辛かった。
                      二度と思い出したくない、自分の嫌いな自分。

                      「ただそれだけで生きることが意外と難しいんだとわかったのは、おとなになってからだ。
                      お父さんは、優しくない息子だった。」
                      私も、そう。

                      父親に初めて買ってもらったレコードはビートルズではなく、郷ひろみだったんだけど…。

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