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    『幻をなぐる』瀬戸良枝

    幻をなぐる
    幻をなぐる
    瀬戸 良枝 2007/1/10発行 集英社 P.145 ¥1,300
    ★★★★★
    何という滑稽か。何という様か。無数にあるそれら喜劇的経験をいくつも遠巻きに眺めておきながら、同じ轍を踏んでしまうとは。それのみならず、こうして「あれは愛ではなかった」と気づいてしまった今でさえ、あの日の記憶に惑わされているのだから堪らない。

    子供の頃から不器用で、心とは反対の行動に出てしまっては後悔を繰り返してきた、中川。

    学生の頃も、中川の個性は周りから浮きまくり、何者かになるであろうと皆から思われながらも、何者にもなれずに生まれ育った田舎町の、兄が跡を継いだ薬局のある実家へ戻り、働くでもなく煩悶する日々。

    美大を目指していた頃に通った画塾で、ただ一人中川と普通に接してくれていた美しい「奴」との4年ぶりの偶然の再会を果たし、中川は「奴」に甘く囁かれ、誘われるままに…。

    最高に幸せな気分に満ち足りていた中川が「これが愛に違いない」と確信したところに、「奴」がとんでもないことを言い出し、この「愛」が勘違いだと知ってしまった中川は、ひたすら「奴」を記憶から消し去るために、己の肉体を鍛えることに励み、自分を慰める日々を送るのだが…『幻をなぐる』

    他、高校生の頃に自殺した姉と、その現場に居合わせた姉の友人だった女性と妹との不思議な関係を描く『鸚鵡』を含む、2編から成る中編小説。

    「理想の男との“奇跡のセックス”の後、
    待っていたものは……。
    奴を忘れるために、中川は肉体を鍛えはじめた。
    きれいごとばかりの恋愛小説に飽きた人へおくる妄執まみれの失恋克服記
    第30回 すばる文学賞受賞作」


    「無邪気で能天気で軽薄で豪快で磊落で軽率で色情狂で嘘つき」な「奴」と分かっていても、嵌ってしまったという主人公の気持ちはわからいでもないけど…例えどんなに「美しい男」でも、電話で話してるだけで一気に冷めてしまいそうな「馬鹿」っぷりがどうも…。

    昔のクラスメイトだかなんだかの女から、中川にかかってきた電話の話し方もかなり「むかつく」けど、相手の話なんか聞かないで、こんなに自分の話したいことだけべらべら喋る人たち、実際いるのかなぁと…かなり理解し難い(会話の内容もだけど)…。

    中川が「奴」の寝顔を見ながら「この男のためならば…何もかも捨てられる、捧げられる…」というのは、確かに若い頃にはそんな風に思えたこともあったかなと、忘れていた感情が蘇ってきたけど、複雑すぎる心理描写というか、いまいちイメージできない表現法が多くて(独特な感性には、なかなか惹き付けられるものがあるけど)、頭に入ってきにくかったかも。

    そこまで好きなら、ふられた訳じゃなし(はっきりふられたなら、そうやって忘れようとするのも分かるんだけど)そんな関係でも続けてればいいじゃん、と思わなくもないし。

    肉体鍛えて、自慰に励むのもいいけど、もっと綺麗になる努力して、良い男捕まえて、いつか「奴」を足蹴にすれば〜?と、別れた男は皆「死んだ」ことにしてしまう私には思えてしまった(坂本冬美の「夜桜お七」を聴いてから、そうやって幾つもの失恋を克服してきたんだけど…)。

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