スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

0
    • -
    • -
    • -
    • by スポンサードリンク

    『新月譚』貫井徳郎

    評価:
    貫井 徳郎
    文藝春秋
    ¥ 2,205
    (2012-04)
    Amazonランキング: 4679位

    ベストセラーを連発していた美貌の人気作家、咲良怜花は、世間から惜しまれつつ筆を折る。
    それから8年、高校生の頃から彼女の作品の大ファンだったという若き編集者の訪問を快く受け入れた咲良怜花の口から、誰にも語られたことのなかった彼女の作家となる以前の話から、作家となるきっかけを作った男との顛末が語られ始める。
    それは実に数十年にも及ぶ、一人の男を愛し続けた彼女の情念の記憶であった…。
    八年前に突然絶筆した作家・咲良怜花は、若い編集者の熱心な復活のアプローチに、自らの半生を語り始める。そこで明かされたのは、ある男性との凄絶な恋愛の顛末だった―。 絶筆した美人作家が隠し通した半生とは?貫井徳郎のあらたなる傑作誕生!内容(「BOOK」データベースより)
    作家となる以前の、本名の後藤和子は全く自分に自信がなくて、人間関係も上手くなくて、そのせいでせっかく就職した大手の会社を辞めざるをえなくなって、たまたま就職試験を受けた小さな会社の社長の眼鏡に適い、外見ではなく、中身を認められたことで、初めて他人から受け入れられたことで、男に傾倒していく。
    当然といえば当然ながら見た目も良く、仕草も会話もスマートな男はとんでもなく浮気者で、和子の幸せはそうそう続かず。
    そして男との別れが、和子の人生の大きな転機となって、作家への道を歩ませる。
    ところが男との関係は断ち切れず、何度も傷つく度に彼女の文章は凄みを増し、大きな賞に何度もノミネートされるほどに。

    と、まあ、自虐的でひねくれた女のうだうだした回顧録が延々続く感じかな。
    貫井さんの本の登場人物は、得てしてぐじぐじうだうだしてる。
    そこまで両親に甘えて、僻んでお金を出させるという神経も信じがたいし、性格悪いなーと。

    会話とかも淡々としているし、付き合っているとはいえ情事のシーンとか一切ないから大恋愛とか情念とか言われても…そこまでの男と女の関係みたいなのも、ふーん、という感じ。
    同級生のストーカーまがいの嫌がらせも意外とあっさり終了してしまうし、その後出てこないし。

    まあ、そういうどろどろは他の作家さんでも書けそうなので、かえってこのあっさりさ加減が貫井さんの好きなところなのかもしれないけど。

    ただ、読んでいて途中ではたと、女流作家の体で書かれているけれども、作家になってからの、新人賞は獲ったものの、なかなか枠から抜け出せず、そこそこのものしか書けなくて、みたいなところから傑作を書くに至るまでの過程が、貫井さんご自身のことのような気がしてしまった。

    主人公が化けてからの作品、暗くてどうしようもなく後味の悪い、という作品そのものが貫井さんのお得意のパターンだし、そういうのが大好きな読者、ここにいるし。

    どこかで、この『新月譚』が直木賞候補と知って、もう結果が出ているのかと思ったら奇しくも今日が発表と、いまさら知って驚いた。
    昨日読み終えたのはたまたまなので、これはもしかして貫井さん獲れるのかも?なんて期待してしまう。三度目の正直。ありますように。

    でも私は『愚行録』や『乱反射』の方が好きだったけど。
    0

      『灰色の虹』貫井徳郎

      評価:
      貫井 徳郎
      新潮社
      ¥ 1,995
      (2010-10)
      Amazonランキング: 116665位

      やってもいない殺人の罪で6年間服役し出所した江木雅史は、家族も仕事も婚約者も、そして生きる希望をも失い復讐へと駆り立てられる。
      そうして江木のターゲットとなった当時の事件の担当刑事、検事、弁護士が次々と不審な死を遂げていくなか、自宅で殺害された検事と懇意にしていた一人の刑事、山名が、一連の事件の共通点に気づき、6年前の事件が冤罪ではなかったのかと疑問を抱くことに。
      山名自身、恋人を無惨に殺害され、「復讐」という行為に対して、ひとかたならぬ葛藤を抱いた過去を持つ。
      出所後行方をくらましたままの江木。
      あまりにも鮮やか過ぎる犯行の手口に、「天罰」という言葉さえ頭をよぎる中、またしても犠牲者が。
      しかし誰一人として江木を目撃した者はなく、捜査は難航し…。
      身に覚えのない殺人の罪。それが江木雅史から仕事も家族も日常も奪い去った。理不尽な運命、灰色に塗り込められた人生。彼は復讐を決意した。ほかに道はなかった。強引に自白を迫る刑事、怜悧冷徹な検事、不誠実だった弁護士。七年前、冤罪を作り出した者たちが次々に殺されていく。ひとりの刑事が被害者たちを繋ぐ、そのリンクを見出した。しかし江木の行方は杳として知れなかった…。彼が求めたものは何か。次に狙われるのは誰か。あまりに悲しく予想外の結末が待つ長編ミステリー。 「BOOK」データベースより

      どこにでもいそうな、真面目に地味に生きてきた青年が、やっと幸せを掴みかけたその途端、狡猾で獰猛な刑事に犯してもいない罪を自白させられ、一般市民を見下すエリート検事や、キャバクラの女に入れあげるやる気のない弁護士、狭い世界しか知らない世間知らずの判事、たちによって殺人犯として実刑を言い渡される過程は、気の毒としかいいようがないし、実際冤罪というものがなくならないのは、少なからずこういったことが起こりえているのかなとも思えるほど、そこまでの描写が分かりやすい。
      ことの発端となった殺人事件の被害者も、この人なら殺されても仕方ないかな、と思えてしまうほどきちんと嫌な人間に描かれているし、江木が殺意を抱く理由もその日に限ってあったりなんかして。
      きっと普通の人間でもこんな風に陥れられて、どれほど声をあげても誰にも(家族以外)信じてもらえなかったら、こうなってしまうだろうし、ましてや気の弱い内気な江木なら、それはもうどうしようもなかったのだと想像できる。
      唯一頼みの綱の弁護士もこんなだし。
      唯一の目撃者の男の馬鹿さ加減も、こんな人実際いそうだし。
      大人しくて寡黙だったどこにでもいる普通の青年が、犯してもいない罪を着せられたおかげで、出所後実際の犯行に至るというのはなんともやりきれないお話で。
      そんな人じゃないよ、というのを、読者は十分理解しているだけに、彼の絶望が、悲しいなぁと思う。
      最後の最後まで、希望のない、だけども何とも読み応えのあるお話でした。

      でも希望を言えば、最初の事件の犯人は教えてほしかった。

      0

        『夜想』貫井徳郎

        夜想
        夜想
        貫井 徳郎 2007/5/30発行 文藝春秋 P.447 ¥1,750
        ★★★★
        「……うまく説明できないけど、おれは嬉しかったんですよ。おれがこんなに大きい悲しみを抱えているのに、周囲の人間にとってはあくまで他人事でしかない。そんなときにおれのために泣いてくれる人がいたので、すごく嬉しかったんです。なんというか――助けられました」

        目の前で妻子が炎にのまれてゆくのを、なす術もなく呆然と見ていることしかできなかった無力な自分を責め、後を追おうにもその気力さえ失くし、絶望の日々をただ生き続けている「雪籐」。

        職場でも同じミスを繰り返すばかりで一向に立ち直る気配を見せない雪籐に、同僚の憐れみもいつまでもは続かず…。

        誰にも理解されないことへの不満や孤独を抱える雪籐は、街で偶然出会った女子大生、「遥」の特殊な能力によって癒され、初めて自分に共鳴してくれる相手を見つけられたと信じ、遥の願いを叶えることをこれからの生きる糧とすることで、生きる気力を取り戻そうとする。

        その能力のせいで子供の頃から辛い思いをしてきたという遥もまた、雪籐の全面的な支援を受け入れ、より多くの人の役に立てればと、人目に晒されることを承諾し、最初は地道だった遥の小さなボランティア行為が、マスコミにも取り上げられるようになると、周囲に支援者も集まり出し、雪籐の思いをよそに、やがて大きな団体「コフリット」へと姿を変えてゆくことに。

        そしてまた、別の場所には、愛情を注ぎ込んで育てた一人娘に見捨てられ、必死で娘の行方を探し始めた母親の存在が。

        やがて歪んだ愛情を持つ母親は「遥」の能力に縋ろうと「コフリット」を訪れるのだが…。

        「――あたしはずっと、夜の中にいました。
        救われる者と救われない者。
        名作『慟哭』から十四年。ふたたび〈宗教〉をテーマに、魂の絶望と救いを描いた雄渾の巨篇。」だ、そうで。


        最初は本当に小さな「善意」に、色んな思惑の人間が集まってきて、どんどん大きくなって、当初の理想が次第にずれていって、やがて「宗教団体」のように見做されて…というような過程が解りやすく書かれていて、今あるそういった団体の多くも、始まりは「一人でも多くの人の為に…」とか、こういうことだったんだろうなぁと。
        そこに「お金」が絡んでくるのも、なるほどこういうことなのかと、少し納得。

        ただ、あんまりそういうことには今のところ興味がない(多分救済が必要なほど、苦しいことが今はない、ということだけでいつかは縋りたくなるのかもしれないけど…)ので、途中までは読んでいて正直あんまり面白くなくて、何度も途中で寝てしまった…。

        「コフリット」が大きくなるにつれて、雪籐の当初の思惑からずれていくもどかしさとか、雪籐が感じる居心地の悪さというか、そういうのは読んでいて「なるほどなぁ」とは思えるし、今の、自分のことしか考えない人間が多すぎる世の中を少しでも良くしたい、というようなニュアンスも何となくは分るけど…。

        私は貫井さんの本の中に出てくる「狂気の人」が結構好き(正気を逸脱しすぎて、怖すぎるところが…)なので、娘を探す母親の部分はかなり読み応えがあったし、後半からは俄然話の展開が面白くなったというか、ああ、さすがに貫井さん、という感じ。

        そして、読み終わった後に、「救済」とはなんぞや、と結構深く考えさせられてしまったかも(というか、今もずっと考えてるし、しばらく考え込んでしまいそうな…)。

        宗教でも何でも、人が何かに救いを求めて、その時救われたとしても、そこから先は?と、最終的な「救い」って何なんだろうと。

        やっぱり「救い」とは自分の心の問題ではなくて…なのかもしれないなと。
        でもやっぱり難しい…難しすぎるテーマを、貫井さん選びすぎ。

        0

          『ミハスの落日』貫井徳郎

          ミハスの落日
          • 著:貫井徳郎
          • 出版社:新潮社
          • 定価:1470円
          livedoor BOOKS書誌データ / 書評を書く

          ★★★★★
          「神はひとりであって、その他に神はない。私が聖書のその言葉を思い出したのは、密室の真相に気づいたときのことだ。私は自分が神ではなく、ただの人間であったことを改めて認識した。そして神ならぬ身に、人を裁く権利などないことも自覚した。……それなのに私は神が許したアリーザの行為を神に代わって糾弾した。己を神と勘違いしたとき、私もまた取り返しのつかない罪を犯したのだ。……」〜『ミハスの落日』より〜

          バルセロナでの一人の女性との邂逅から、孤独な人生を歩むことになった大富豪の男は、命の際におかれ、一人の青年を呼び出し、30年前に犯した自身の罪について語り始める…『ミハスの落日』

          女に好意を持たれたことのない、コンプレックスの塊のようなビデオ屋の店員は、客として男に声を掛けてきた美しい女性の微笑を「好意」だと勘違いし、ストーカー行為を繰り返した挙げ句、彼女に殺意を抱くようになり…『ストックホルムの埋み火』

          保険会社の調査員の男は、サンフランシスコ警察の極悪刑事に頼まれて、二人の夫を事故で亡くした過去を持つ女性の、三人目の夫の事故死の調査をすることに。
          ツバメの巣を取ろうとして、アパートから墜落死した三人目の夫には、多額の保険金が掛けられていたというのだが…『サンフランシスコの深い闇』

          夫が残した借金の返済の為に、仕方なく娼婦に身を落としたと、最近客として頻繁に指名してくれるようになった日本人の男に語る女。
          女の近辺で、近ごろ頻出する「切り裂きジャック」のような、娼婦だけを狙う殺人鬼の正体は…『ジャカルタの黎明』

          アメリカ人の観光客女性から、失踪した夫の捜索を手伝って欲しいと頼まれた現地ガイドの男は、その報酬と彼女の美しさに惹かれ、妻には内緒で彼女の依頼を引き受けることにしたことから…『カイロの残照』の、世界各国の5つの都市を舞台に繰り広げられるミステリ短編集。

          「今も胸に残る、強い想い 心の底に潜む、深い闇
          そして待ち受ける、驚愕のどんでん返し 世界を舞台に描く、最新作品集」だ、そうで。


          最初の『ミハスの落日』から、最後の『カイロの残照』まで、実に8年間に渡って書き溜められた作品集だそうで、実際に貫井さんが訪れた土地ばかりが舞台ということで、「あとがき」の各地の感想みたいなのも、なかなか面白かったりする。

          海外が舞台で、主人公達もみんな現地の人だしカタカナの名前だし、微妙に違和感を感じなくもないけど、中身はやっぱり貫井さん、という感じ。

          『ミハスの落日』の大富豪の男の振り返った過去の話が、なんとなく『白夜行』っぽいなと。神によって作られた密室…は、まあそういう話だから、これでいいのかなと納得。
          ラストの真実は、少し涙を誘うような。

          『ストックホルムの埋み火』を読んで、レンタルビデオ屋さんって、どこの国にもあるのか…と妙なところに感心し、これ日本が舞台でも全然構わないと思ったけど、何かの作品へのオマージュだと知って最後の主人公の台詞から、ネットで調べてああなるほどなと。

          もてないストーカー男の心の叫び(身勝手な)と、自分とを重ねる刑事の鬱屈した心が面白くて、この作品はすごく好きかも。

          『サンフランシスコの暗い闇』は、『光と影の誘惑』の中に収められてる「二十四羽の目撃者」の続編ということで、ちょっと軽妙な感じのお話、なのに、真実はダークかな。

          『ジャカルタの黎明』の犯人の動機を聞いて、やっぱりこれも、その国でなければならなかったんだなと、舞台の国に感心されられてしまった(ジャカルタってどこにあるのか知らないんだけど…)。

          エジプトにはものすごくそそられるので、最後の『カイロの残照』を読んで、ちょっと行きたくなってしまった(背景が鮮やかに描かれていて、イメージしやすかったからかな)。これもやっぱり海外ならでわの犯罪、ぽい。

          でも、この作品集読んでて、なぜか友近と彼氏がやってる「ビバリーヒルズ」ネタ(ディランが大好きなので、結構ツボに嵌ってる)を思い浮かべてしまったのは何でだろう…。

          0

            『空白の叫び』貫井徳郎

            空白の叫び 上空白の叫び 下
            空白の叫び 上
            空白の叫び 下
            貫井 徳郎 2006年 小学館 上 P.582  下 P.572
            ★★★★
            なぜこんなことになってしまったのか、原因がよくわからない。どこで選択を誤ってこのような事態になってしまったのか、いくら考えても思いつかなかった。ただわかるのは、もう引き返すわけにはいかないということだ。搾取される側に回るくらいなら、犯罪者になった方がいい。そのせいで警察に捕まったとしても、後悔だけはしないと己に固く誓う。これは、自分を守るための闘いなのだ。内なる声がそう言い続ける。

            ごく普通の家庭に育ち、構いすぎる母親に、息子に無関心な父親、ぱっとしない成績と運動能力…自分を取り巻く何もかもが凡庸であることを嫌悪し、この先何十年生きようと、楽しいことなど何もないと考える久藤。

            祖母と叔母の三人で暮らし、静まり返った広い家で、学校が終わってからの長い時間、二人の帰りを待ち侘び「どうして、僕だけ…」と己の身の不幸を嘆く、母親に見捨てられた、神原。

            使用人を雇うほど裕福な家庭に生まれながらも、その恵まれすぎた環境や、端正すぎる顔立ちにコンプレックスを抱き、自分自身を嫌悪する、葛城。

            生まれも育ちも、考え方も、生き方も、全く異なる三人の少年たち。

            虐められる者から、虐める側へ変貌を遂げ、それでも、始終ざわつく心を抑えきれず、金で女を買っても、心が満たされないことに苛立ちを覚える、久藤の前に現われた新任教師。

            祖母が亡くなった後、叔母に転がり込んだ遺産を、汚い手を使って搾取しようとする、神原の実の母親。

            我が物顔で屋敷に出入りし、葛城に嫉妬し、寄生虫のようにまとわりつく、葛城の幼馴染でもある使用人の息子、英介。

            まだ、たったの14歳の三人の生活を脅かす者たち…。

            一線を越えてしまった三人が、送り込まれた少年院で、受ける惨い仕打ち。
            そして、10ヶ月の入院生活の後…。

            「殺人者となった少年は更生できるのか
            後悔はしていない。罪を償ったとも思っていない――再スタートを切った三人の挫折を鮮やかに描き出す新機軸ミステリー」
            舞台が少年法改正以前ということで…。


            ものすごく読み応えのある本だった。

            三人の少年たちが、それぞれに何を思い、どうして人を殺してしまったのか、そこまでの過程が丁寧に書かれていて、読んでてすごく引き込まれる展開で…。

            でも、中学生相手に「性」を貪ろうとする、いい歳した女の人たちって…いるのかな?

            まともな大人が出てこない。

            特に上巻の、少年院に送り込まれてからの三人の入院生活の部分は、すごくリアルで怖かった。
            本当に少年院の中ってこんなんなのかな。
            まあ、二度と入りたくないと思えるような所でないと困るんだけど、にしても…葛城の受けた仕打ちは、あまりにも可哀想な気もした。

            いっそ植物のように生きたいという気持は、良くわかる。

            退院後の展開は、まあ、そうなんだろうなぁ。
            罪を犯した人間に対する世間の目も、遺族の思いも。
            (ちょっと突飛な気もしたけど…)

            成長するに従って、どんどん人間らしさを失っていく一人の少年の変化が、一番恐ろしかった。
            彼だけが、具体的にイメージできなかったのは、あまりにも「普通」すぎたからかもしれない。
            なので、このラストは仕方ないのかな、とも思える。

            少年院の生活のとこ読んでるときに、昔のドラマ「不良少女と呼ばれて」を思い出してしまった。
            あれも、確か少年院の中で結構な虐めにあってたなぁと…。

            0

              『悪党たちは千里を走る』貫井徳郎

              悪党たちは千里を走る
              悪党たちは千里を走る
              貫井 徳郎 光文社 2005年 P.409
              ★★★★
              目標は、裕福な生活だった。それも、異常なほどの超高級な生活。そんなものは会社でこつこつ働いたところで、死ぬまで実現しないだろう。どうせドロップアウトしたなら、目標は大きい方がいい。大きな夢には、規格外の道を歩まなければ届かないのだ。

              三千万円の当たりくじを落としたことをきっかけに、社会からドロップアウトすることを決め、姑息なカード詐欺を繰り返していた高杉。

              そろそろ、ちんけなカード詐欺に見切りをつけ、一攫千金を目指し、有り余っているところから、ごっそり大枚を頂戴することにした高杉は、彼を「兄貴」と慕い、崇拝する舎弟の園部を引き連れ、カモと目をつけたある成金男の豪邸を訪れた。

              成金男に持ちかけたのは「徳川幕府の埋蔵金」の発掘費用の援助。
              もっともらしく、古銭商から買ってきた小判まで用意し、どう見ても品のない舎弟の園部の先祖を、小栗上野介の直属の部下に仕立て上げ、カモの瞳が、一千億円の埋蔵金にキラキラと輝きだした時、思わぬ邪魔者が現れた。

              ひと目で小判を偽者と見抜き、高杉と園部を豪邸から猛ダッシュで逃げ出すように仕向けたのは、同業者である美人女詐欺師、菜摘子。

              一攫千金の夢をあきらめきれない高杉たちは、疫病神の園部のナイスなアイディアを採用した新たなターゲットの豪邸で、またもや菜摘子とかち合い、気が付けば、三人は手を組むことに…。

              そして三人+一人の計画は、そのまま何者かによって乗っ取られ…。

              『真面目に生きることが嫌になった3人が企てる、
              「人道的かつ絶対安全な」誘拐ーーー?
              「慟哭」の著者がユーモアとスピードたっぷりに贈る、誘拐ミステリの新境地!』だ、そうな。


              あまりに面白かったので、ページ数の割には、あっという間に読めてしまった。
              会話のテンポが良くて、三人の会話は、まるで掛け合い漫才のよう。
              高杉と園部の、優しすぎる性格に思わず涙が…。

              三人のキャラもさることながら、ターゲットとなるドけちの夫婦の性格がまた、なんともせこくて良い。
              年収ウン千万もありながら、食器が全部100均て…。

              母親とレックスとの会話は、かなりツボにはまってしまった。

              息子の巧君も、母親も見惚れるほどに整った顔立ちで、おりこうさんで、生意気で、優しくて、ものすごく良い子。

              に、しても「ガチャポン」で、そんなことができるとは…。
              あまりにもせこすぎて、その労力、他で使えよ、と思ってしまったけど。

              0

                『殺人症候群』貫井徳郎

                殺人症候群
                殺人症候群
                貫井 徳郎 2005年 双葉文庫
                ★★★★★
                なぜ復讐がいけないのか。それは、社会秩序の維持のためだ。一度復讐を許してしまえば、さらなる報復もまた認めざるを得ない。憎しみは憎しみの連鎖を呼び、双方が死に絶えるまで殺戮が続くだろう。

                一見何の接点もない六件の新聞記事。
                それらはいずれも凶悪な犯罪を犯したものの、少年であったり、心神喪失により不起訴処分となった加害者達が、事件や事故の被害者となり死亡したというもの。

                そこに意図的な犯罪の匂いを嗅ぎ付け、裏で捜査を行うよう指令を受けたのは、環率いる警察庁内(警視庁の警務部人事二課といういわゆる閑職に身を置く環敬吾には、警察が直接手をつけられない事件を内々に調査するという特別な任務がある。)の特殊チーム、原田、武藤、倉持の訳ありの元警察官達。

                しかし今回、何故か倉持は捜査から降りるという。

                正義感の強かった息子を、数名の同級生に暴行された末、失った父親は、同じような被害に遭った遺族達の集会で出会った男から、復讐の代行の話を持ちかけられていた。

                移植手術でしか生き残る道のない、心臓に疾患を持つ息子の母親は、ドナー登録者を必死で探していた。

                恋人を理不尽な暴力によって殺され、自らも傷付いた女は、同じように傷付いた、被害者の遺族達の心を癒そうとしていた。

                そして、今回の捜査に加わらなかっただけでなく、捜査の先回りをするかのような行動を取る倉持もまた、自らの過去を悔いていた。
                大切な者を突然奪われた遺族達の悔しさは、同じ苦しみを味わった者にしか理解されないと、倉持は言う。

                それぞれの人物が、己の正義を全うしようとし、一人の男と繋がった時、物語は最悪の展開を迎える。
                そして倉持と環が袂を分かつとき…。


                貫井さんの『症候群』シリーズ第3弾にして完結編。
                本の分厚さ分だけ、読み応えがあって、読み終わった後は一仕事終わったあとのような充実感…。内容はものすごく重くて、暗くて、怖くて、哀しい。
                去年の今頃に読んだのに、全然まだ覚えてる、くらい頭に残る本。

                「この世には理不尽が満ちている。それに少しばかり抗ったとて、誰が咎められるだろう。」
                と言う母は、息子が死ぬ時は、自分も死ぬ時だと覚悟を決めている。
                常識のある大人は、例え相手がどんな人間だとしても、復讐は正義なんかではなく、ただの人殺しだと知っている。
                分かっていても、もし本当にこういうシステムがあったとしたら…法が裁いてくれないのなら、神様が天罰を下してくれないのなら、それも仕方ないと思えてしまう。
                それを止めることができるのは何の力なんだろう。
                この物語は、誰のことも、簡単に赦してはくれない。

                大好きな虚無僧、武藤の気持ちが、一番良くわかったかもしれない。
                これで最後は、寂しすぎるので、番外編とかあったらいいのに。

                さっき貫井さんのHPを覗いてみたら、8月ごろに新作の『空白の叫び』というのが発売されるようなので、それもすごく楽しみ。
                でもこれが1100枚で、それが2100枚ということは、この倍ぐらい?…げげ、読めるかな…。
                0

                  『さよならの代わりに』貫井徳郎

                  さよならの代わりに
                  さよならの代わりに
                  貫井 徳郎 2006年 幻冬舎
                  ★★★★★
                  あたしのこと忘れないで、なんて言わないからね。あたしがいなくなったら、そのまま忘れちゃって

                  テレビにも出演している有名俳優の新條雅哉が主宰する、劇団「うさぎの眼」。
                  主人公の「ぼく」こと白井和希は、アルバイトと、間近に迫った公演の舞台稽古とその後の飲み会にと、忙しい日々を送る「うさぎの眼」のしがない一劇団員。
                  「ぼく」にとって、新條さんは雲の上の人であり、神様のような存在。

                  ある日舞台稽古の終了後、掃除当番のために、皆より遅れて稽古場を後にした「ぼく」は、階段を上がったところで、地べたにしゃがみこみ、コンタクトレンズを失くして困っていた一人の女性と出会う。
                  彼女は、萩村祐里と名乗り「うさぎの眼」の公演を何度か観に来ているらしい。
                  そして、新條のファンなのだと…。

                  お人好しの「ぼく」は、その言葉を信じ、新條のことや劇団のことを聞きたいという彼女と何度か会って話すうち、奇妙な頼みごとをされてしまう。
                  根っからのお人好しの「ぼく」は、劇団仲間も巻き込んで、彼女の頼みを引き受け、今回の公演中、「うさぎの眼」の看板女優でもあり、現在の新條の愛人でもある圭織の控え室から目を離さないことを約束する。

                  そして迎えた千秋楽、舞台の幕が下りると、新條が「圭織が、控え室で死んでるんだ」と、みんなに告げた。
                  皆が現場に駆けつけると、そこには背中にナイフを突き立てられたままの圭織の変わり果てた姿が…。

                  劇団員全員の事情聴取が終わった後、釈然としない「ぼく」は、事情を説明しろと、祐里を問い詰める。

                  しかし、そこで返ってきたのは、あまりにも突飛すぎる祐里の「実はあたし、未来から来たのよ」という言葉、そして新條との関係…。


                  彼女が、何のために彼にそんな頼みごとをしたのか。
                  それは解らなくもないけど…。
                  でも解らないことの方が、私には多すぎたかもしれない。

                  貫井さんにしては、何と爽やかな…。
                  テンポも良くて、劇団員同士の軽妙なトークや、その内情みたいなのは面白かった。
                  ただ、軽妙すぎて、誰にも感情移入できないまま終わってしまった気が…。

                  「さよならの代わりに」の台詞は、ちょっぴり切なくなって、悲しくなったけど。
                  そして、また出会いのシーンを読み返して、何となく嬉しくなってしまった。

                  でも「さよならの代わりに」と言えば…百恵ちゃんをまず思い出してしまったから、あのフレーズが頭にぐるぐるしてしまった。
                  懐かしい…。
                  0

                    『天使の屍』貫井徳郎

                    天使の屍
                    天使の屍
                    貫井 徳郎 2000年 角川文庫
                    ★★★★★
                    子供には子供の論理があります。それは大人の社会では通用しない、子供たちだけの論理です。その論理は大人の目からすれば理不尽にも、また正当性を欠くようにも見えるのでしょうが、子供には法律以上に大事なことなのです。

                    「そんなつまんないことなんかで死んで、どうするんだよ」
                    いじめを苦に自殺した中学生を報じるニュースを見ながら、そうつぶやいた息子は、その日、コンビニ行くと言って出かけ、そのまま帰らぬ人となった。

                    帰りが遅いのを心配して迎えに出た父親は、古ぼけたマンションの下に集まった警官や人垣をかきわけ、血だまりの中の変わり果てた姿を目にし、すぐにはそれが自分の息子だとは信じることができなかった。

                    学校生活にも何ら変わった様子はなく、親の目から見た息子は、粘り強く、簡単に物事を諦めたりしない、その後の親の悲しみに考えが及ばないような、そんな短絡的に死を選ぶような性格ではなかったはずだ。

                    警察の事情聴取の後、家に帰り、息子の部屋で見つけたのは「何もかもいやになった。絶望だ」と殴り書きで綴られた文字。
                    たった十四歳の中学生が、一体何にそれほどまでに絶望したというのか。

                    息子の自殺に納得がいかず、その死を受け容れられない父親に、さらに追い討ちをかけるように遺体から検出されたLSD…。
                    警察は、投身の恐怖を紛らわすため、LSDを服用した上での自殺ということで処理しようとしている。
                    謝罪に訪れた担任の教師の、悔恨と必死に闘う姿を見て、自分の中の「悔しさ」に気づいた父。

                    何故、自分には何も打ち明けてくれなかったのか。
                    自分は息子に信頼されうる父親ではなかったというのか…。
                    自分が父親であることに失格を宣告されたも同然だと感じた父は、息子の死の原因を自分の手で究明することで、父親であろうとすることを心に誓う。

                    担任教師の口から出てきた何人かの生徒に会い、話を聞いてみるものの、彼らからは息子の死の真実は窺い知ることができずにいた。
                    そんな矢先、会って話を聞いた生徒のうちの一人が、また屋上から飛び降りたという電話がかかる。

                    一人、また一人と、次々に屋上から飛び降りる中学生達。
                    死ななければならないほどに、彼らを追い詰めた「絶望」とはいったい何なのか…。


                    この作品が発表された10年前には、そのショッキングな内容があまりに非現実的すぎると評されたと、帯に書いてあるけど、はて、10年前ならそうだったかいな。
                    10年前…神戸の連続児童殺傷事件も確かそれぐらいだったような…。
                    この10年で変わったことって何だろう。
                    中学生であっても、むしろ中学生だからこそ、こうなってもおかしくないなぁと思えた。

                    そして、登場する二人の女の子の強さと、男の子たちの弱さみたいなのが何となく面白いと思ってしまった。

                    昔読んだ岡嶋二人の「チョコレート・ゲーム」を思い出したけど、読み比べてみると、どちらもまた、なかなか面白かった。

                    中学生の子供を持つ親が、自分の子供のこと何も知らなくても、むしろ当たり前というか、何でも知ってる方が、違和感感じるけど…と、中学生の頃の自分を思い出すと、そう思う。
                    親には言えない秘密が山盛りあったような…。

                    でも、これ、自殺するほどのことかなぁ…。
                    ここに出てくるのは、父親の思っていたような良い子だったからそうなってしまったのか…。
                    それなら親の思う、良い子っていうのは、大変だなぁと思ってしまった。

                    0

                      『神のふたつの貌』貫井徳郎

                      神のふたつの貌
                      神のふたつの貌
                      貫井 徳郎 2004年 文春文庫
                      ★★★★★
                      死とはいったいなんなのだろう。十二歳の子供には重すぎる疑問が、早乙女の頭には巣くっている。死とは終焉か、最大の不幸か、はたまた救いか。痛みなき死は、幸せか。もしそうなら自分は、幸せな思いに包まれて死ぬのだろうか。人が死に怯える感覚は、消滅への恐怖か、それとも死に際の苦痛を恐れるのか。死に痛みが伴わなければ、人は死を恐れないか。

                      狡砲澂瓩箸いΥ恭个魄貪戮睫わったことのない少年、十二歳の頃の早乙女は、母の死にも心の痛みを感じることができなかった。
                      心の痛みを感じないことが、生まれつきの「無痛症」に起因するものかどうなのか。
                      痛みを感じることが唯一人間に与えられた特権だとすれば、自分は人間以外の動物と同じなのではないかという不安に囚われる。

                      プロテスタントの教会の牧師の子として生まれた早乙女は、常に神の真意を知りたいと心底望んでいた。
                      何故父は、あのように生き、何故母は、あのように死ななければならなかったのか、何故、自分がこのように生まれついたのか…。
                      そして、神の存在を確かめるかのように、少年は一つの罪を犯す。

                      二十歳の大学生の早乙女には、母親の死の記憶が失われていた。
                      彼は、常に神の福音を聞きたいと願っている。
                      片足に障害を持つ彼の恋人には、神の福音が聞こえると言う。
                      何故彼女には聞こえて、自分には届かないのか…。
                      そして早乙女は、ある行為によって、彼女をもっと神に近づけようとし、そうすることによって、自らも神への道がようやく見つかったと感激に打ち震える。
                      彼には、救ってやりたいと願う相手がいた。そしてその手段をようやく発見したのだった。
                      そして、彼は罪を犯すことで、神をすぐそばに感じることが出来、主への感謝を口にする…。

                      そんな彼の二つ目の罪に気づいたのは、自らも過去に罪を犯したことがあるという牧師である父親…。


                      貫井さんらしい、と言えばらしいけど、難しかった。
                      この人の存在、意味あったのかなぁ…と思う人がいたり、これは何のため?と思うようなことがあったりした。
                      多分意味があるんだろうけど…私には読み切れなかった。

                      早乙女が死について、神について考えることは、やっぱり常日頃考えていることで、人間は神様に見捨てられたのかもしれない…というのも、すごくよく分かる。もしも神様が本当にいるのなら、世の中に悲惨なことなど起きないはずだと。
                      キリスト教の教えをよく知らないので、なかなか興味深くて、考えさせられてしまった。

                      に、してもこの本の装丁、どっかで見たことあると思ったら、綾辻さんの「最後の記憶」の装丁と同じ「恋月姫」という人形作家さんのお人形さん…。
                      まぶたの皺とか、怖いくらいによく出来てるなぁ…と魅入ってしまった。
                      0


                        calendar

                        S M T W T F S
                             12
                        3456789
                        10111213141516
                        17181920212223
                        24252627282930
                        << September 2017 >>

                        読書メーター

                        uririnの最近読んだ本 uririnの今読んでる本

                        新刊チェック

                        selected entries

                        categories

                        archives

                        recent comment

                        • 『夏空に、きみと見た夢』飯田雪子
                          uririn
                        • 『痺れる』沼田まほかる
                          uririn
                        • 『絶望ノート』歌野晶午
                          uririn
                        • 『夏空に、きみと見た夢』飯田雪子
                          いちれん
                        • 『痺れる』沼田まほかる
                          くり
                        • 『絶望ノート』歌野晶午
                          智広
                        • 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』辻村深月
                          uririn
                        • 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』辻村深月
                          苗坊
                        • 『永遠の0』百田尚樹
                          uririn
                        • 『永遠の0』百田尚樹
                          苗坊

                        recent trackback

                        recommend

                        recommend

                        recommend

                        recommend

                        recommend

                        recommend

                        悪人
                        悪人 (JUGEMレビュー »)
                        吉田 修一
                        読み終わった後も余韻に浸りたくなるような…これは、すごい。

                        recommend

                        しずく
                        しずく (JUGEMレビュー »)
                        西 加奈子
                        サイン本買っちゃった。

                        recommend

                        recommend

                        たぶん最後の御挨拶
                        たぶん最後の御挨拶 (JUGEMレビュー »)
                        東野 圭吾
                        猫なんです…。

                        recommend

                        recommend

                        recommend

                        ねこの肉球 完全版
                        ねこの肉球 完全版 (JUGEMレビュー »)
                        荒川 千尋,板東 寛司
                        たまらん。

                        recommend

                        ニャ夢ウェイ
                        ニャ夢ウェイ (JUGEMレビュー »)
                        松尾 スズキ, 河井 克夫
                        たまらん…

                        recommend

                        recommend

                        僕たちの戦争
                        僕たちの戦争 (JUGEMレビュー »)
                        荻原 浩
                        とにかくお薦め。

                        recommend

                        出口のない海
                        出口のない海 (JUGEMレビュー »)
                        横山 秀夫
                        たくさんの人に読んでほしい…

                        links

                        profile

                        search this site.

                        others

                        mobile

                        qrcode

                        powered

                        みんなのブログポータル JUGEM

                        使用素材のHP

                        Night on the Planet フリー素材*ヒバナ *  *

                        PR