スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

0
    • -
    • -
    • -
    • by スポンサードリンク

    『純愛小説』篠田節子

    純愛小説
    純愛小説
    篠田 節子 2007/5/31発行 P.263 ¥1,470
    ★★★★★
     永遠の愛を素朴に信じる女が、この国にはどれだけいるのだろう、と香織はそのブルーの表紙に目をやる。
     バラの花びらと香りに包まれたロマンティック・ラブに導かれ、愛する人と結ばれ、愛する人の子供を産むことに結婚の意義と人生の目的を見出す彼女たちに、柳瀬の虚無感を伝えることはできない。多くの女を知った後に、心ならずも見えてしまった恋や性愛のその向こうに広がっている荒涼たる景色を、妻に伝えることはできない。伝えられたところで彼女たちには理解はできない。
    〜『純愛小説』より〜

    有能ながらも男社会の理不尽さゆえに出世の先が見えた40代後半の女性編集者は、妻から突然離婚を言い渡された、良きアドバイザーでもあり、古くからの友人でもある男友達の、離婚にいたる本当の理由を知り愕然とし、自分が手がけた「純愛小説」の愛読者であるという、男の妻の誤解を解こうとして…『純愛小説』

    早くに亡くなった父親の代わりに妹二人の面倒を見、妹達が自立して出て行った後も残された屋敷を守り、年老いた母の介護を一手に引き受け、独身を通して60代半ばを迎えた長女との連絡が途絶えてしまい、慌てて駆けつけた次女が目にしたものは、更地となってしまった自分たちの屋敷があったはずの広大な土地。
    母親を看取った後、殆ど家に引きこもり、趣味も持たず、近所づきあいもなかったはずの姉の身に何が起こり、姉が相続した莫大な遺産はどうなってしまったのか、必死に姉の行方を探し始めた妹に突きつけられる現実…『鞍馬』

    他、一人暮らしを始めた大学生の息子のマンションを突然訪ねた父親と息子との、母親には言えない話…『知恵熱』、一回りも歳上の「土偶」のような女性に夫を寝取られてしまった、美しく聡明で完璧なはずの妻は精神科医のドアを叩くことに…『蜂蜜色の女神』

    「大人だからこそ、隠せない想いがある。
    歳をかさねたからこそ、抑えきれない衝動がある。
    愚かしくも愛おしい衝動からうまれた、4つのビター・ロマンス。
    ――成熟の向こうになお存在する、愚かしくも愛おしい衝動を、時にシニカルに、時にエロティックに描く、篠田節子の最新短編集。」だ、そうで。


    一番好みなのは『鞍馬』のお話。
    人間とは、立場が違うとこうも感情が行き違うのか、と感心させられたというか、妹から見た姉と、姉の実体験とのギャップがリアルで…。

    身を削るようにして家族に尽くし、独身を通して挙げ句の果てに…の姉にものすごく同情してしまうし、立派な仕事をしているからという、ただそれだけで誰からもちやほやされるけど、実際人間としての妹はどうなの?と、本当に世間知らずはどっちなのかと…。

    ただ、どちらが世間から認められるのかと言うと、社会的に目立ってる方なのかと、ちょっと悲しくなってしまうようなお話で。

    『純愛小説』は、近ごろよくありがちな「泣ける」?「純愛」?小説ブームに、ちくちくと針を突き刺すようなお話で、篠田さんらしいブラックさがなかなか良くて…。

    『蜂蜜色の女神』は唯一エロティックだったかな?
    これも見る人によって「土偶」だったり、「女神」だったり…どんな人なのかなと、ちょっとその女性をこの目で確かめたくなってしまった。
    なかなかサスペンスタッチでもあり、ここに出てくる完璧な妻に少々反感を覚えてしまった私にとってはなかなか小気味良い結末。

    あくまでも成熟した大人のためのお話という感じで、私の好きな篠田さんの作品のタイプとは少し違ってたけど、全編を通して出てくる「ハーブ」の怖さを勉強させてもらえて良かったかなと。
    0

      『静かな黄昏の国』篠田節子

      静かな黄昏の国
      静かな黄昏の国
      篠田 節子 2007/3/25文庫化 角川文庫 P.376 ¥620
      ★★★★
      しかし彼らの予言したこと、危惧したことなど何も起こらなかった。何しろ人類滅亡の予言だの、警告だのというものは、それこそ一千年も前から出され続けていたのだ。
       そして案の定、ホロコーストも、地球上の人口を十分の一にするウィルスも、南極の氷の融解とそれにともなう海面上昇も、何もなかった。
       エイズの蔓延も地球規模の旱魃も、突出した技術の発達によって切り抜け、人口は現在も着実に増え続け、産業社会の崩壊も文化の後退も起こらず、ますますしたたかに、ますます不健全に、奇形と化した人類は繁栄を続ける。
       それでもやがて終焉を迎えるだろう。……〜『静かな黄昏の国』より〜

      一匹六十万円という、まるでプランクトンのような小さな「人魚」に魅せられた一人の青年は、それからわずか十ヶ月後に遺伝子組み換え技術を持つ日本のメーカーによって、ポピュラーなペットとして売り出されると、それを手に入れ、鑑賞しているうちに、どうしても口にしてみたい衝動をおさえきれず…『リトル・マーメイド』

      知人や友人から借金を繰り返し、返済を迫られると開き直ろうとする男は、昔捨てた女からの電話に一縷の望みを託すのだが…『一番抵当権』

      地方の文学賞を受賞したものの、さっぱり売れなくて生活に窮する作家の男に舞い込んだ執筆依頼は、新作の美少女ゲームのノベライズ本…。
      自分の才能を過信する男は、最初はゲームに出てくる美少女とのやりとりに辟易としていたものの、どんどんゲームに嵌り込んでしまい…『ホワイトクリスマス』

      繁栄を謳歌するアジアの国々に囲まれ、貿易赤字と財政赤字と、膨大な数の老人を抱え、さまざまな化学物質に汚染されてもはや草木も生えなくなり、自給できるのは核燃料サイクルによって支えられる電力のみ、というアジアの最貧国に転落した近未来の日本で、生きる望みを失った老夫婦の終の棲家となった場所は…『静かな黄昏の国』

      他、『陽炎』、『エレジー』、『刺』、『子羊』の8編から成る短編集。

      「現在・過去・未来にわたり、すべての生きとし生けるものに等しくやってくる終末の風景を、時に叙情的に、時に黒い笑いを交えて直木賞作家は描き出す。もしかしたらそれは、明日のあなたのことかもしれない――甘美な破滅と残酷な救済が織りなす、8つのものがたり。
      おかえりなさい。終末の地へ。
      すべての滅びゆくものたちに贈る短編集――」だ、そう。


      篠田さんの書く、近未来ものやパニックものは、本当にリアリティがあり過ぎて、ぞっとするからすごく好き。
      全く有り得なくもないように思えるし…。

      『リトル・マーメイド』のお話は、どこかで読んだことあるような…と思ったら、東野さんの『毒笑小説』の中に収められてる『エンジェル』と似通ってて、どちらも風刺が効いてて、読み比べると、なお面白いかも。

      『陽炎』と『エレジー』は、音楽もの(『ハルモニア』とか、そのジャンルの篠田さんのは読んでないので、多分そういう感じなのかなと)。

      『一番抵当権』に出てくる男は、もうどうしようもないくらいお馬鹿なので、このラストは小気味良いし。

      『刺』は、ホラーでもあり、ミステリちっくでもありで、最後にぞぞっとしてしまう。

      『小羊』の「神の子」の話は、以前にアンソロジーか何かで読んだような記憶があってその時も思ったけど、これは映像化されたものを見てみたくなるようなお話。

      『ホワイト・クリスマス』で、美少女ゲームに男が嵌っていくように、私も男のやってるゲームの、その先が気になって気になって、通勤電車でちょこちょこ読んでいたから、仕事中も気になってしまったぐらいに嵌ってしまった。

      この男も、『一番抵当権』の男同様、どうしようもないお馬鹿さんだけど、女性に求めていたものが、「ありがとう、私のために」という言葉と笑顔だけだった、ということに気づいたというのは、何となく解るかも(男の人って本当にそうかも…と、思えるし、現実の女性は強すぎるから、実際の恋愛より、ゲームの美少女に嵌ってしまう人たちがいるんだなと)。

      そして表題作の『静かな黄昏の国』に出てくる近未来の日本の姿は、このままいけば、もしかしたら本当にそうなってしまうのかも…と「原発より農耕が大事かもしれない…」という、以前に読んだ篠田さんの『齊藤家の核弾頭』の中の台詞を思い出してしまった。

      老人が長生きしすぎて、若い人たちが先に死んでいくというのも、今の子どもたちの食生活とかを見てると何だかリアルに思えてしまうし。

      今のようなお年寄りに優しくない世の中のままなら、長生きなんてとてもじゃないけど望みたくないから、ここに出てくるような終の棲家があれば、行きたくなってしまうかも…。

      解説の最後の一行も、かなり怖いし、タイトルも怖いし(まさに今の日本はそうなのかもなと…)。

      0

        『天窓のある家』篠田節子

        天窓のある家
        天窓のある家
        篠田 節子 2006年 新潮文庫 P.392
        ★★★★
        この先自分が二度と幸せになれないとしても、それはあきらめがつく。しかし元の夫が幸せになることなどあってはならなかった。彼さえ、幸せにならなければ、自分の未来などいらない。                〜『天窓のある家』より〜

        妻が家計をきりつめ、必死でやりくりをして貯めた100万円を、夫は、不幸な自分の友達のために都合してほしいと言い出した。
        夫に説得され、自分たちの楽しみをあきらめてまで、なけなしの貯金を他人にくれてやるつもりになっていた妻が、ある日、偶然立ち寄ったスーパーで、夫の友人の妻の買い物籠の中を見て愕然とする…『友と豆腐とベーゼンドルファー』

        同い年で、自分と同じように独身の友人の、あまりに優雅で自由奔放な暮らしぶりを苦々しく思い、「寄生虫」と非難する、生活のためだけに、意に沿わない仕事も引き受ける女流作家…『パラサイト』

        手帳に書かれたスケジュール通りに動くビジネスウーマンは、手帳を閉じる音を合図に、妻として、母として、うまく気持ちを切り替えていたつもりだったのに…『手帳』

        職場では「おばさん」と呼ばれ、夫から嫌われ、暴力を振るわれ、逃げ出すように離婚に応じた女は、大学時代の友人であり、今は一人で暮らすアパートの家主でもある、華やかで若々しい隣人の、夫の浮気話に親身になって耳を傾け…『天窓のある家』

        20代後半の女性の突然死が頻発していると世間で騒がれている頃、若作りに精を出していた29歳の主婦は、自分の身体に訪れた異変に驚き、その場に倒れこんでしまう。
        病院に運ばれた主婦の「老化」はみるみる進行し、原因は若い頃の奔放な性生活のツケからきた新種の「性病」であることを知らされ…『世紀末の病』

        他、水子の霊に脅かされる、仕事が生き甲斐の女の『誕生』、思いやりのない夫に熟年離婚を言い渡す妻の『果実』、早々と女を捨てた女と、いつまでも女でい続けようとする女の『野犬狩り』、妻に内緒で実家の母の元に毎週通い続ける夫の『密会』の、9編から成る短編集。

        「こんなはずではなかった。なぜ、こんなふうになってしまったのか。気づかぬうちに日常に巣食う焦燥。人生に疲れた女の心をかき乱す隣人。幸せを願いながら、いつのまにか何を求めていたのかよく分からなくなってしまった――。なぜ、あの人はしあわせそうにしているの?ちいさな衝動がおさえられなくなる……心もからだも不安定な中年世代の欲望と葛藤をあぶりだす、リアルに怖い9編。」だ、そう。


        自分の心の中のどろどろした部分が、ここに露呈されているような(ここに出てくる人たちほどではないにしろ、嫉妬や焦りや、意地悪な気持ちは少なからずある、と思うので)。
        やっぱり、人間の心の中ほど恐ろしいものはないな(表面的に親切な人間ほど…)。

        ここに出てくる夫達を見ていると、つくづく結婚なんてしたくないと思わされてしまう。
        まあ、世の中のご亭主みんながみんな若い女に走るとは、流石に思ってないけど。

        『パラサイト』は、優雅ではないけど「寄生虫」側の人間なので、主人公が最後にそこに気付いてくれて、本当に嬉しかった。ある意味理想的だし。

        ホラー以上に怖い話が多い中、少々趣向の異なる『世紀末の病』は、めちゃくちゃ面白い。
        本当にこんな病気があればいいのに、と意地悪く思ってしまう。

        女だけが、遊びまくっていたツケを払わされてなるものか、という思いの後に表れる男の方の病も、最後のオチも…。
        女からすれば、ハッピーエンドと言えなくもないけど、男からすれば…。

        0

          『斎藤家の核弾頭』篠田節子

          斎藤家の核弾頭
          斎藤家の核弾頭
          篠田 節子 1999年 朝日文庫 P.508
          ★★★★
          「私たちの目的はこの場所で人間らしく暮らして行くことよ。互いに破滅に向かって進んでいくのは愚かなことだわ。」

          2075年(成慶58年)の日本では、産業空洞化と空前の高失業率によって崩壊した日本型平等主義に取って代わり、国民能力別総分類制度、別称「国家主義カースト制度」が導入されることに。
          これにより、世界に類を見ない超管理国家の下に置かれた日本国民は、住む所も、結婚相手も、子供の人数までも、職業や収入によって制限されるようになっていた。

          東京都内に30坪の土地を持ち、一家総勢10人で暮らしていた、特A級階級に分類される最高裁の裁判官である総一郎を家長とする、斎藤家。
          しかし、コンピュータによる裁判制度の導入によって、総一郎は職を失うことに…。

          特Aクラスの国民には、その優れた遺伝子を後世に残すという職務も与えられていたため、32歳で5人の子供を持ち、今またお腹に6人目の子供を宿している総一郎の妻、美和子は、せせこましい土地に、一家10人がひしめきあって暮らしていることにストレスを感じ、自分達より下層階級とされるのに、高層マンションに住む、独身の働く女性たちの自由な暮らしに憧れを抱いていた。

          そんな斎藤家に、立ち退き話が持ち上がり、一家は政府に半ば騙されるように、東京湾中央に浮かぶ巨大な人工島「東京ベイシティ」への転居を余儀なくされる。

          美和子がやっと、舅や姑たちと部屋を別にし、広々とした土地での、自由な暮らしを手に入れたと思ったのも束の間、今度はこの人工島の下に位置する海底で発見されたレアメタル「バナジウム」の発掘作業のため、千葉県側に用意されたニュータウンへ移り住むことを強制されることに…。

          しかし新たに用意されたその土地とは、人工シートを一枚はがせば毒ガスが噴き出す危険地帯。
          特A級階級である自分たちが何故そんな危険な場所に、と憤慨し、政府に抵抗する総一郎。

          そして、総一郎は、自分達家族が、ある人体実験の被験者であることを知り、同じく理不尽な立ち退きに抵抗していた近隣住民達を取りまとめ、手製の核爆弾を武器に、日本国を相手に宣戦布告することに…。

          「明日を予言したスラップスティック小説の傑作」だ、そうな。


          篠田さんの本は、内容が濃すぎて、書くのが難しい…。
          何だかこの一冊に、日本の過去と現在と未来が凝縮されているような…といったらオーバーかな。
          でも、ここに出てくるのは、そんなに荒唐無稽な話ではないと思えるところが、すごく怖い。

          家長の総一郎の一昔前に戻ったかのような男女差別も、「必要な人間」と「いらない人間」として区別されてしまうのも、核兵器が簡単に作られてしまうのも、そして何より大量の人間を速やかに、あくまでそっと殺せ、だれがやったのかわからない、使用されたことがわからないという「最新式兵器」の存在がリアルで怖い。

          「結婚を拒み、子供を産みたがらない」下層階級に位置される、総一郎の浮気相手のレサという働く女性が「人格障害」として哀れまれるというのも…なんだか自分のこと言われているようで…。

          「もしかして原発より、農耕が大事かもしれない…」という美和子の台詞はすごく良く分かる。
          電気が断たれてしまった時には「300年前のように、暗くなれば眠ればいい」というのも。
          でも、もう便利な生活に慣れすぎてて無理なんだろうけど…。

          に、しても父親を尊敬して止まない息子が「将来はパパになりたい」と言ったときに、「3分もあれば、なれるわよ」と言い捨てた母親の台詞の意味が…うーん、深い。
          0

            『死神』篠田節子

            死神
            死神
            篠田 節子 1999年 文春文庫
            ★★★★★
            人間が輝きが失せたあとすぐに死んでしまう蛍のようなものなら、生きていくというのはどれほど楽ですてきなことだろう。

            この市で初めての女性ケースワーカー。家に帰れば、妻、嫁、母の三役をこなす、この道25年、47歳の、都下の市町村ではたった一人の女性福祉事務所長の大船朋子。
            仕事が終わると即座に自転車に飛び乗り、家族のために奮闘する、この仕事に就いて20年のベテラン、係長の赤倉政子。
            もうすぐ40に手の届く、この道15年の優しいケースワーカー、独身の大場元子。
            独り身の方が精神衛生上いいと考える、32歳、中堅職員の山口みゆき。
            そして、この仕事に就いて丸一年の28歳の富樫由梨江。

            身寄りのない高齢者や、母子家庭の母親、理由あって働けない人達、いわゆる社会的弱者と呼ばれる人達が、人間らしい生活をできるように必要なサービスを提供するのが、彼女達ケースワーカーの仕事である。

            この仕事が長ければ長いほど、どうしようもないケースを幾つも目の当たりにし、「弱者」にとっての最良の道を懸命に模索し、日々奮闘し続けている。
            糞尿で汚れた部屋を訪問しなければならない場合もあれば、首吊り死体を抱き下ろすこともある。並みの神経では務まる仕事ではない。

            そんな彼女達の遭遇する事件(ケース)を通して、現代社会が抱える闇、そして人間のしたたかさが、年齢や置かれている立場がそれぞれ異なる、ケースワーカー達の視点から描かれる。

            かつて花街一の名妓と呼ばれた老女は、捨てられた男の帰りを、汚いぼろアパートで、姿のない愛犬と共に、ずっと待っている…「しだれ梅の下」

            夫が家に金を入れず、家賃を滞納しマンションを追われ、小さな娘と公園で野宿をしているところを保護された女。女にはまるで自分の意思はなく、けれど男をたらしこむことには長けていた…「花道」

            身体を壊し働けなくなった飲み屋の女は、若い男性ケースワーカーを、衰えた肉体で罠に陥れる…「七人の敵」

            ノイローゼで仕事を辞めた亭主を捨てるという、ケースワーカーのみゆきの古くからの友人…「選手交替」

            前の家族に対しても、新しい妻に対しても、生活上の責任を一切負うつもりのない、やくざまがいの男。新しい妻は、ダメ島と呼ばれる男性ケースワーカーが、昔思いを寄せていた女性…「失われた二本の指へ」

            50過ぎまで結婚詐欺で荒稼ぎしたものの、服役して帰ってきた今は一文無しの、まだまだ女を捨てていない老女と、アパートに住み着く亡霊との話…「緋の襦袢」

            精神と健康を損ねた男性ケースワーカーと、長い付き合いのアル中のやくざ上がりの男との壮絶な死闘…「死神」

            栄養失調で倒れたところを保護された、まだ36歳の、夢ばかり見ているような、売れなくなった女流作家…「ファンタジア」
            の8編から成る連作短編集。


            篠田さんの本を読むと、何となく自分もきちんとした大人の女にならなければ、と思わされる。
            ここに出てくるケースワーカーとして働く女性達は、みんなとても強くて逞しい。
            タフでなければやっていけない仕事なんだろうけど、それにしても強い。
            旦那に浮気をされても「あ、そう、それで?」という感じ。
            別れたいと告げられても、一人でも十分やっていけるし、家事の負担が少なくなる分、楽でいい、と開き直りさえする。

            結婚していればしていたで、きちんと仕事と家庭を両立させているし、独身でも、きちんと自立していて、とても尊敬してしまう…。

            そして、彼女達以上に逞しくて、私が好きなのは「緋の襦袢」の老女。
            結婚詐欺ができなくなると、霊感商法まがいのことをするのだけど、実は彼女には本当に霊が見えていて…。
            老人施設の中でも、色香をふりまいて、じいさんたちを虜にするというのも、すごくいい。
            そんな、いつまでも女を忘れない老婆になりたいと思ってしまった。

            何故かここに登場する男性ケースワーカーは、みんなへなちょこなんだけど、私の職場の同年代の男の人もみんなへなちょこだ。

            役所の職員とか、学校の先生とかって、女の方が強くなってしまう職場なのかな(あくまでも、同年代で)。
            0

              『コンタクト・ゾーン』篠田節子

              コンタクト・ゾーン
              コンタクト・ゾーン
              篠田 節子 2003年 毎日新聞社
              ★★★★
              私って、難民なのよ。日本って国はね、実はたくさんの難民を出しているの。みんな気づいてないだけで。私は日本では幸せになれなかったわ。戻っても決して幸せになれないのはわかってるの。私は日本から逃げることができて、ここで落ち着いたの

              海外旅行ずれした三人の独身、三十代後半、の女達。
              彼女達が今回旅行先に選んだのは、経済危機に端を発した政治危機の深刻化する、テオマバル。
              政情不安定のため、キャンセルの相次ぐ中「今ならシャネルだってグッチだって、買い放題」「客が少ないからオプショナルツアーもビーチも空いてるし。」と、言い放つ彼女達。

              訳ありの現地日本人ガイドの男は、心の中で「バカ、確信犯的バカ」とつぶやき、しぶしぶ市内から百キロ離れた島「ラグジュアリーな大人の隠れ家、極上のエステート空間、究極の楽園リゾート」と銘打つパヤン・アイランド・リゾートへと案内する。

              初日から彼女達の我がまま放題の行動に振り回されるガイドの男は「日本で男に相手にされない、お局とバブリー後遺症ワンレン女と白ブタ。」と悪態をつき、危険な夜の町に男の警告も振り切って出かける彼女達に、悔し涙をこぼさんばかりに唇を噛み締め「ばかやろう、ばかやろう」とつぶやく。

              日本の女はいつからこんなになってしまったのか…日本の繁栄に疑問を通り越して敵意を覚える男。

              男にお局と呼ばれるのは、日本では得られないロマンスを求め、半年に一度の海外旅行でのガス抜きだけを楽しみに生きている、国家公務員の真央子。
              バブリー後遺症ワンレン女は、医師の資格を持ちながら、自分探しの旅を続ける買い物依存症の女、大病院の娘、祝子。
              白ブタと呼ばれるのは、今でこそぶくぶく太ってしまったが、もともとは清楚でほっそりしていた、男好きのする、ありさ。

              いよいよ事態は緊迫し、何かが起こる、という日、三人は「今日はホテルから一歩も出るな」というガイドの言葉を無視し、勝手自由にタクシーに乗り込み、ブランド品を買いあさるため、市民と軍隊がにらみ合う暴動の最中の町へと走らせる。
              そこで彼女達が目にしたのは、ゲリラの襲撃によって、学生達が立て篭もった議場が炎に包まれ焼け落ちる様子。本物の銃弾が飛び交い、大勢の人間が焼き殺される様を目の当たりにして、初めて彼女達は危機感を感じ、安全地帯のはずの「リゾート・ホテル」へと戻ろうとする。

              しかし、どうにか戻れたホテルは既に、大統領失脚後の空白の混乱に生じて、金目当てにリゾートホテルを襲う武装強盗たちの襲撃に遭い、観光客は全員射殺されていた。
              ようやく自分達の置かれている状況に気づき、部屋に立てこもる彼女達にも、襲撃の手は容赦なくのびる。
              生き残るために、自らの身体を差し出す真央子、そして、それすらも通じない相手に、祝子は必死に手にしたゴルフクラブを振り下ろし、三人は命からがらホテルを後にする。

              海辺につなぎとめられたボートで、何とかこの島を脱出し、三人が辿りついた無人島、と思われたのは、実は島の反対側だった。
              そして、ここから始まる真実のパヤン島での、彼女達三人のサバイバル生活…。
              彼女達が身を寄せることとなる村で巻き込まれるのは、解放軍同士の仲間割れによる闘い、そして解放軍と政府軍との村を巻き込む戦争…。

              天国のようなリゾート地から、本当の地獄を体験することになった彼女達に、日本政府からの救援の手が差し伸べられる日は、果たしてやって来るのだろうか…。


              長い…ハードカバーで、厚さ5センチぐらいあって、しかも二段組み…。
              ちびちび読んでたら、前の方のページの話、忘れてしまいそうになった。

              篠田さんの描く30代の独身女の生き方が、私はとても好きです。
              『女たちのジハード』も、そうだけど、最初は何なんだこいつら、と思っていても、どんどん逞しくなる彼女達に、やっぱり共感を覚えるし、応援したくなる。
              ここに出てくる三人の生き方は、バラバラで、女友達って、こんなんだと思うけど、結構お互いを見る目は厳しかったりする。
              何となく突き放した感じの描き方も良い。

              この三人には、それぞれ得意な分野があって、それを生かして村のために役立とうとする。
              自分には何かができるのかな?と考えてしまう。
              残酷なシーンもたくさんあるけど、村人との交流や、日本人が押し寄せるリゾート地の、本当の姿や、そのためにどれだけの人間の生活が脅かされることになったか、などの重いテーマもあって、ものすごく読み応えのある小説…。

              女三人っていうのが、何かすごくリアリティがある気がする。
              私も旅行に行くのはいつも三人だったし。
              そのうちの二人が結婚してからは、海外にも行けてないし…。
              女友達って……こんなもんだ、と思う。

              そして、ありさの台詞「彼は命がけで私を守ってくれた。……そんな人、だれも日本にはいないのよ」は、心の底から納得。
              まあ、そういう命がけの状況も、そうはないんだけど…。
              0

                女たちのジハード

                女たちのジハード
                女たちのジハード
                篠田 節子 2000年 集英社文庫
                ★★★★★

                「好きだからこうして、五回も六回もできるんじゃないか。」
                …どうして私を選んだの?
                「地味だったから」
                「いいんだよ。嫁さんなんて人前に出して自慢するものじゃないから。」
                「すっきりした顔になってるよ。僕、そんな、よかった?」
                第一章の『ナイーヴ』のホテルでのワンシーン。
                33歳、独身、総合職でもなく、きちんとした人生設計があるわけでもない女、康子さん。
                会社の同僚に紹介された、シナリオライターの卵の男とのはじめてのデートでの相手のせりふ…。
                しかも男は見た目もかなりやばい。
                でも、33歳独身の康子さん…。
                最初はこの男を素朴で純粋な「ナイーヴ」な人なのだと、いいようにいいように受け止めてあげていた。
                しかし「ナイーヴ」の本当の意味は「ただのバカ」という意味だと、英語の得意な沙織に教えられ…。
                そしてこのバカ男をあっさりと捨て、とうとう自分の城(家)を手に入れることを真剣に考え始める。
                中堅の保険会社に勤める康子さんと、同僚の5人のOLたち、
                早々に幸せを掴んだかにみえた、仕事はできないが男受けする女、紀子。
                結婚願望が強いのに「おやじ転がし」と悪評をたてられ憤慨するリサ。
                能力がありすぎて左遷されてしまうみどり。
                アメリカ留学の資金作りために水死体の捜索のバイトまでする沙織…。
                それぞれが強く逞しく、人生を切り開いて行く痛快な物語。

                この本を読んだのは、康子さんとちょうど同い年のとき。
                なので、ことさら思い入れが強くなってしまった本。
                康子さんは、競売の格安マンションを手に入れるために、やくざとだって渡り合う。
                章が進むたび、進化していく。強くなっていく。
                他の誰にでもなく、自分で自分を幸せにするために…。

                読んですぐに、周りの女の人達に「これ読んでみて」と言い回った。
                本当に人に薦めたくなる本。
                『鉄道員』と「直木賞」を同時受賞したのも、うなづける。
                康子さんみたいに強くなれれば…。












                0

                  家鳴り

                  家鳴り
                  家鳴り
                  篠田節子 2002年 新潮文庫
                  ★★★★

                  東京西部で大地震が起きた。被害状況は不明。
                  東京の放送局が全滅し、そちらからの情報は入ってこない。
                  国の中枢は壊滅的な打撃を受け、避難所には水も食料も届くことはない。伝染病の噂まで広まりつつある…。
                  そして東京から130キロ離れた甲府の観光地へ、飢えきって餓鬼と化した数万人の避難民がぞくぞくと逃げ込んでくる。
                  与えたくても、食糧は充分ではない。村人たちは自分たちの家族だけで精一杯なのだ、他人に分ける分などない。
                  そして奪うものと、守るもの、食糧をめぐる村人たちと避難民との命がけの闘いが始まった…。『幻の穀物危機』
                  他『やどかり』『操作手』『春の便り』『家鳴り』『水球』『青らむ空のうつろのなかに』7篇を収めた短編集。

                  長編を読むエネルギーがないとき、寝る前に読むのに短編集が必需品だ。短編集のなかでも、中身の濃いものに出会うと、とても嬉しい。これはそんな本。『幻の穀物危機』は、本当にぞっとするほど人間の本性を描いている。タイトルは忘れても内容はずっと覚えている。近い未来には充分有り得る話かもしれないと思える。
                  あと、おばあちゃんと飼い犬との絆を描いた『春の便り』や、雌豚さんと少年の『青らむ空のうつろのなかに』のような奇跡的な話もとても心に響くお話。少年の気持ちが痛いほどわかる。人間って…
                  0

                    1

                    calendar

                    S M T W T F S
                       1234
                    567891011
                    12131415161718
                    19202122232425
                    262728293031 
                    << March 2017 >>

                    読書メーター

                    uririnの最近読んだ本 uririnの今読んでる本

                    新刊チェック

                    selected entries

                    categories

                    archives

                    recent comment

                    • 『夏空に、きみと見た夢』飯田雪子
                      uririn
                    • 『痺れる』沼田まほかる
                      uririn
                    • 『絶望ノート』歌野晶午
                      uririn
                    • 『夏空に、きみと見た夢』飯田雪子
                      いちれん
                    • 『痺れる』沼田まほかる
                      くり
                    • 『絶望ノート』歌野晶午
                      智広
                    • 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』辻村深月
                      uririn
                    • 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』辻村深月
                      苗坊
                    • 『永遠の0』百田尚樹
                      uririn
                    • 『永遠の0』百田尚樹
                      苗坊

                    recent trackback

                    recommend

                    recommend

                    recommend

                    recommend

                    recommend

                    recommend

                    悪人
                    悪人 (JUGEMレビュー »)
                    吉田 修一
                    読み終わった後も余韻に浸りたくなるような…これは、すごい。

                    recommend

                    しずく
                    しずく (JUGEMレビュー »)
                    西 加奈子
                    サイン本買っちゃった。

                    recommend

                    recommend

                    たぶん最後の御挨拶
                    たぶん最後の御挨拶 (JUGEMレビュー »)
                    東野 圭吾
                    猫なんです…。

                    recommend

                    recommend

                    recommend

                    ねこの肉球 完全版
                    ねこの肉球 完全版 (JUGEMレビュー »)
                    荒川 千尋,板東 寛司
                    たまらん。

                    recommend

                    ニャ夢ウェイ
                    ニャ夢ウェイ (JUGEMレビュー »)
                    松尾 スズキ, 河井 克夫
                    たまらん…

                    recommend

                    recommend

                    僕たちの戦争
                    僕たちの戦争 (JUGEMレビュー »)
                    荻原 浩
                    とにかくお薦め。

                    recommend

                    出口のない海
                    出口のない海 (JUGEMレビュー »)
                    横山 秀夫
                    たくさんの人に読んでほしい…

                    links

                    profile

                    search this site.

                    others

                    mobile

                    qrcode

                    powered

                    みんなのブログポータル JUGEM

                    使用素材のHP

                    Night on the Planet フリー素材*ヒバナ *  *

                    PR